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第18話「内政強化と、忍び寄る影」

 辺境伯の使者が帰ってから、街は奇妙な静けさと、内側に熱を溜め込んだような独特の熱気に包まれていた。

 誰もが、辺境伯からの返答が、この街の未来を左右する最後通牒であることを理解している。だが、不思議と悲観に暮れる者はいなかった。市場では商人たちの威勢のいい声が響き、酒場では冒険者たちが「次に来るのが使者だろうが軍隊だろうが、俺たちのやることは変わらねえ!」と豪快に笑い飛ばしている。ゴブリンの群れを打ち破り、尊大な代官を追い返した僕たちのリーダーが、必ずや最善の道を見つけ出してくれると、誰もが信じていたからだ。


『随分と信頼されたものだな、ユウマ』


(ええ。最高のゲームには、最高のプレイヤーたちが必要不可欠ですからね。彼らの信頼は、僕の力の源ですよ)


 僕は、ただ返事を待つつもりはなかった。

 交渉が有利に転ぶにせよ、決裂するにせよ、力のない者に選択権はない。僕は、この嵐の前の静けさとも言える猶予期間を利用して、街の“内政”を徹底的に強化することにした。



「――つまり、辺境伯が我々の提案を飲んだとしても、それは対等なパートナーとして認めたわけじゃない。いつでも我々を飲み込める機会を窺うはずだ。そして、提案を拒否した場合、次に来るのは使者ではなく、軍隊だろう」


 詰所の作戦司令室。

 僕の冷静な分析に、村長や商人代表、衛兵団と騎士団のリーダーたちが、ゴクリと息を呑んだ。


「では、我々は……戦の準備を……?」


 不安げに呟く村長に、僕は自信を持って言い放つ。

「いいえ。戦を“させない”ための準備です。だからこそ、今のうちにこの街を、辺境伯ですら手出しできないほど、強固で、豊かで、魅力的な拠点くににするんです」


 そのために僕が最初に着手したのは、全ての基本となる食料の安定確保だった。


「――創造クリエイト! 『水脈操作ウォーター・コントロール』!」


 僕は村の側の川から、新しく開墾された広大な畑まで続く、見事な灌漑用水路を一瞬で作り上げた。石で補強され、水門まで備え付けられた水路を目の当たりにした村人たちは、もはや驚きを通り越して、天を仰いで祈りを捧げている。

 さらに、僕はゲームの知識を応用して、村人たちに効率的な三圃式農業や、作物の品種改良の基礎を教えた。僕が創造した種や苗は、この土地の気候に合わせて最適化されており、その成長速度は驚異的だった。


「おお……! この水路と、ユウマ様の種があれば、冬が来る前に、有り余るほどの収穫が得られるぞ!」


 次に、経済の基盤を固める。

 商人たちと協力し、ダンジョンから産出される魔石や素材の品質をS、A、B、Cとランク分けし、誰が見ても分かる適正な価格を設定。街の入口には独自の通貨交換所を設立し、物々交換が主流だったこの地に、本格的な貨幣経済を根付かせた。


「すげえ! これなら、ゴブリンの牙が銅貨何枚かなんて、一目瞭然じゃねえか!」

「この仕組みがあれば、遠方の都市との取引もスムーズになりますぞ!」


 そして、最も力を入れたのが、軍事力の強化だ。

 騎士の隊長による衛兵団の訓練は、もはやゴブリン討伐を目的としたものではなくなっていた。対人戦闘、特に重装備の騎士団を相手にした集団戦を想定した、より高度なものへとシフトしていく。盾役タンクが敵の攻撃を受け止め、その隙に側面から槍衾を見舞い、後方から弓矢で援護する。僕が教えたゲームの戦術は、騎士団の連携術と融合し、衛兵団を日に日に強力な部隊へと変えていった。


 僕の街は、辺境伯からの返事を待つ間にも、内側から凄まじい勢いで進化を遂げていた。



 街の変化は、住民たちの意識にも大きな影響を与えていた。

 衛兵団に志願した村の若者、タカシは、市場を巡回しながら、その活気に目を細めていた。

 ほんの十数日前まで、今日食べるものにも困っていた寂れた村だったとは、とても信じられない。今では、市場には珍しい商品が溢れ、酒場からは陽気な歌が聞こえ、子供たちの笑い声が絶えることがない。


(俺は、この街を守るんだ)


 ユウマさんが創り上げてくれた、この夢のような街を。

 彼は、もはやただの村人ではない。この街の“市民”であり、その平和を守る“衛兵”であるという誇りが、胸に満ちていた。



 そんなある日の夕暮れ。

 西の森の方面を偵察していた衛兵団の斥候が、血相を変えて詰所へと駆け込んできた。


「大変です! 街道を大きく外れた森の中に、所属不明の武装集団を発見しました!」


 すぐに作戦司令室に、僕が創造した立体地図が展開される。

 斥候の報告に基づき、地図上には移動する数十の光点が示されていた。


「この動きは……」


 騎士の隊長が、険しい顔で光点を見つめる。


「正規軍の動きではありません。辺境伯様の紋章旗も掲げていない。そして、明らかに我々の街を偵察するように、距離を保ちながら動いている。これは、傭兵か、あるいは……」


「……あるいは、辺境伯とは別の貴族が放った、私兵部隊か」


 僕がそう言うと、部屋に緊張が走った。

 辺境伯との政治的な駆け引きの裏で、新たなプレイヤーが、この盤上に駒を進めてきたのだ。


「全員に告ぐ! これより、街はレベル1の非常警戒態勢に入る! 正体不明の敵が、すぐそこまで迫っているぞ!」


 僕の号令が、司令室に響き渡る。


『ほう。領主との交渉中に、横からスパイか暗殺部隊か? いよいよキナ臭くなってきたな』


(ええ、最高に。でも、面白くなってきましたよ)


 僕は立体地図の上で、ゆっくりとこちらへ向かってくる敵の光点を見つめながら、不敵に笑った。

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