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第13話「作戦会議は盤上にて」

 辺境伯からの命令――西の森のゴブリン討伐。

 それは、僕が創り上げたこの街にとって、初めての対外的な軍事任務だった。街の空気は、これまでにない緊張感と、そして奇妙な高揚感に包まれていた。冒険者たちは武器の手入れに余念がなく、商人たちは討伐隊のための物資を準備し、村人たちは成功を祈って炊き出しを始めていた。


『ほう、面白い。恐怖よりも期待が上回っているか。お前の街の住人は、揃いも揃って変わり者だな』


「最高の街にするには、最高の住人が必要不可欠だからね」


 僕は衛兵団の詰所に設置された作戦司令室で、広げられた地図を前に呟いた。



 作戦会議には、僕と衛兵団のリーダー、そして騎士の隊長が集まっていた。

 テーブルに広げられているのは、この辺りの大雑把な地図だ。西の森は、ただ緑に塗りつぶされているだけで、内部の様子は全く分からない。


「作戦は単純明快だ」


 最初に口火を切ったのは、騎士の隊長だった。


「我が騎士団を先頭に、衛兵団は側面を固め、森の中心部へ向かって強行軍。ゴブリンの集落を発見次第、正面から突撃し、一気に殲滅する。これこそが、最も確実な戦術だ」


 その伝統的な戦法に、衛兵団のリーダーが眉をひそめた。


「あんた、本気で言ってるのか? 西の森は木々が鬱蒼と茂っていて、まともな道なんてありゃしない。そんな場所で隊列を組んで進軍したら、格好の的だ。ゴブリンどもは、俺たちが疲弊するのを待って、四方八方から奇襲を仕掛けてくるに決まってる」


「臆したか、元冒険者。我ら騎士の突撃を、ゴブリンごときが止められるものか」

「臆したんじゃねえ、無駄死にしたくないだけだ!」


 軍隊としての正攻法を主張する騎士と、ゲリラ戦の恐ろしさを知る冒険者。二人の意見は、真っ向から対立していた。


(まあ、そうなるよな)


 僕は二人の議論を止めると、テーブルの上に手をかざした。


「――創造クリエイト


 僕がそう唱えると、平面的だった地図の上に、光の粒子が集まって立体的な森のジオラマが浮かび上がった。木々の一本一本から、起伏に富んだ地形、そして川の流れまで、西の森が完璧に再現されている。


「なっ……!?」

「これは……魔法の地図か……!」


 驚愕する二人を前に、僕は「僕の作戦を説明します」と切り出した。



「まず、正面から突っ込むのは最悪手です。僕のプランは三段階。フェーズ1は、陽動と分断」


 僕はジオラマの一点を指さす。


「足の速い衛兵団の数名を先行させ、ゴブリンの斥候をおびき寄せます。そして、あらかじめ設定した複数のキルゾーンに誘い込み、そこで待機している騎士の皆さんに各個撃破してもらう。ゲームで言うところの“釣り”と“各個撃破”ですね」


「……なるほど。敵の戦力を分散させ、安全に削っていくというわけか」


 騎士の隊長が、唸るように言った。


「フェーズ2は、本隊への奇襲。敵の数が十分に減ったところで、集落へ総攻撃をかけます。ただし、これも正面からではありません」


 僕はジオラマを回転させ、ゴブリンの集落があると予測される地点の、裏手にある崖を指さした。


「衛兵団の主力は、この崖を登って背後から奇襲。騎士団の皆さんには、正面で派手な陽動をお願いしたい。敵が正面に気を取られている隙に、一気にリーダーの首を狙います」


「……崖を登るだと? 無茶だ」

「そのための“道具”も、僕が用意しますよ」


 僕はさらに創造魔法を発動させ、テーブルの上にいくつかのアイテムを出現させた。

 軽量で頑丈な鉤縄付きのクライミングギア。投げつければ閃光を発して敵の目を眩ませる“陽光石”。そして、煙幕を張って姿を隠すための“煙玉”。


「な……なんだ、この魔道具は……!?」


 見たこともない装備の数々に、二人は言葉を失っている。


「そしてフェーズ3。リーダーを失って混乱したゴブリンたちを、前後から挟撃して完全に殲滅します。これが、僕の考えた“クエスト”の攻略法です」



 僕のあまりに緻密で、そして常識外れな作戦を前に、騎士の隊長はしばらく黙り込んでいた。

 やがて、彼は深くため息をつくと、僕に向かって頭を下げた。


「……参った。俺の考えが、いかに浅はかだったか思い知らされた。この作戦の指揮は、貴官に一任する」


 その言葉に、衛兵団のリーダーもニヤリと笑う。


「面白え! ダンジョン攻略みてえで、燃えてきたぜ!」


 こうして、騎士団と衛兵団の混成による、ゴブリン討伐隊が正式に結成された。


 翌朝、真新しい装備に身を包んだ討伐隊が、街の門から出発していく。

 それを見送る村人や商人たちの顔に、不安の色はなかった。彼らは、僕たちが必ず勝利して帰ってくることを、信じて疑っていない。


『ゴブリン討伐か。お前の創る国、最初の戦争だな。特等席で見させてもらうとしよう』


 神様の楽しそうな声が、僕の新たな戦いの始まりを告げていた。

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