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雷鳴士、世界を救う  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第2章 オイルリグ

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第60話 上陸

 シルバが操る船は、穏やかな波間を滑るように進みながら、確実にオイルリグの外周をなぞる。

 慎重に距離を詰めるのは、何か予期せぬ事態が発生した際に、即座に対応するための余裕を持たせるためだ。


「車の運転よりも簡単だな。実際はそうじゃないのかもしれないが」


 舵を握るシルバが淡々と呟く。

 まあ、ゲーム内のシステム補正が働いているのだろう。ある程度のアシストがかかっている可能性は高い。


「もう近づいても問題なさそうか?」


 俺の問いに、シルバは前方を鋭く見据えながら静かにうなずいた。


 水面を切り裂くように進む船。

 遠くにぼんやりと見えていたオイルリグの巨大なシルエットが、徐々にその輪郭を明確にしていく。

 鋼鉄の構造物は黒々とそびえ立ち、不気味なほど静まり返っていた。


 ちょうどオイルリグの真下に差し掛かった瞬間、外に出ていたキョウヤが声を張る。


「おい! 来てくれ!」


 その切迫した呼びかけに、俺たちは即座にブリッジを飛び出した。

 目を向けると、船首にぼんやりとした魔法陣が浮かび上がっている。


「もしかしたら、これに乗るとオイルリグに行けるんじゃないか?」


 キョウヤが指を差しながら言う。

 俺も、まったく同じ考えだった。


「じゃあ、まずは俺が行く」


 そう言い、魔法陣へと歩を進めると、不意に法衣の裾を引かれた。


「私も、一緒に」


 振り返れば、アリサが俺の衣を軽く掴んでいる。

 その瞳には、迷いのない意思が宿っていた。


「分かった」


 俺は彼女に手を差し伸べる。

 アリサは、ためらいなくその手を握った。


 魔法陣に足を踏み入れた瞬間、転移門をくぐるときと同じ感覚が全身を包む。

 視界が一瞬、白く塗り潰された――。



 転移した先は、無機質な鉄の塊の上だった。

 高度はかなり高いはずなのに、期待していたような景色は見えない。

 視界を覆うのは、黒々としたばいえん――それが空を塞ぎ、どこまでも濁った世界を作り出していた。


 吸い込んだ瞬間、嫌な違和感が鼻と喉をかすめる。

 HPバーの隣には紫色で毒マークが表示されている。ステータスを確認すると【状態】が弱毒となっていた。

 どうやらこの煤煙、ただの煙ではなさそうだ。


 鼻を突くのは、どこか油っぽい刺激臭。

 重く湿った空気が肌にまとわりつき、不快感を引き立てる。


 全員が転移を終えた瞬間、オイルリグ内にけたたましい警報が鳴り響いた。

 四層の床が抜けたときのような、耳をつんざく鋭い警告音。


『シンニュウシャ、シキュウハイジョセヨ。シンニュウシャ、シキュウハイジョセヨ……』


 警告音が響き渡る中、視界の上部にシステムアナウンスが浮かび上がる。


『フィールドにいる限り弱毒効果。火気によって爆発はしない』


 情報を確認していると、鉄の床を軋ませる不気味な音が響き、黒煙の中から無数の機械が姿を現した。


 四足歩行の鉄の獣。

 全長一メートルにも満たないが、青白く光るセンサーがこちらを鋭く捕捉し、まるで生き物のように動き出す。


 カツン、カツン、と金属の脚が床を叩く音が響き、次の瞬間、機械たちは一斉に俺たちへと突進してきた。


「迎撃する!」


 剣を構えるアリサが即座に前へ出る。

 俺も魔法の詠唱を開始し、シルバは盾を構えて守備態勢を取る。


 まるで、このオイルリグそのものが意思を持ち、侵入者《俺たち》を排除しようとしているかのようだった。


 システムアナウンスで火気による爆発が起こらないと表示がなければ、魔法の使用も躊躇しただろう。


 だが、その心配はない。


 ならばどのゲームでも鉄の獣が一番苦手とする魔法が、どれほど効くのか試してみる。


「《チェインライトニング》!」


 紫電が奔り、先頭の機械に直撃する。

 瞬く間に雷は連鎖し、奥の見えない範囲にまで広がっていった。


 ……どれだけの数がいたんだよ。


 雷に貫かれた機械はその場で沈黙する。

 その隙にアリサを筆頭に、静止した鉄の獣を蹴散らす。


 俺も《鑑定》を済ませた。


【名 前】ガーディアンビースト

【状 態】故障

【H P】239/1200

【M P】0/0

【筋 力】???

【敏 捷】280

【魔 力】0

【器 用】100

【防 御】280

【魔 防】250

【パッシブスキル】

・《索敵》


 ベリグランド湖のエアクロウよりHPは高いがほぼ同じようなステータス。


 さすがに推奨レベルが35~40なのでベリグランド湖の魔物とあまり変わらないとは思っていた。


 が、まさか《チェインライトニング》一発でここまで削れるとは思いもしなかった。

 さらに、「故障」の状態異常が予想以上に都合が良かった。


 ――故障:攻撃を受けるまで動けない。攻撃を食らうと感電状態になる。


 つまり、こちらが攻撃しない限り、奴らは動かない。

 さらに攻撃を加えても感電状態になるため、感電が解除される前に袋叩きにすればいいだけの話だ。


 雷魔法が強すぎるのか、それともガーディアンビーストが雷に弱すぎるのかは分からないが、安全に倒せる。

 これなら楽勝――そう思った矢先、シルバの声が響いた。


「おい! 弱毒といえど、ダメージを受け続けているぞ!? いったん集まれ、《エリアヒール》の範囲に入れ!」


 その言葉に、ようやく自分のHPバーが二割ほど削れていることに気付いた。


 ここに来てから、まだそこまで時間は経っていないというのに……。


 もしかしたら、この刺激臭が原因なのか?

 だとすれば、いい匂いでかき消せないか?


 シルバの元へ向かうついでに、俺はそっとアリサの髪の香りを嗅ぐ。


「な、なによ……?」


 不自然な行動に気付かれ、アリサが怪訝そうに眉をひそめる。


「あ、いや……刺激臭のせいでダメージを喰らっているんだったら、いい匂いでかき消せないかなって……あくまでも検証だからな!」


 すると、アリサの顔がほんのりと赤くなる。


「ば、バカじゃないの!? そんなことでシステム的なダメージを消せるわけないじゃない!?」


「ご、ごめん。分かってはいたんだけど、試さずにはいられなくて……」


 俺とアリサのやり取りを見ていたキョウヤが、呆れたようにため息をつく。


「イチャつくのは帰ってからにしてくれ。今はシルバの《エリアヒール》だけで、どれだけ俺たちのHPを補えるのかを知りたい」


 その言葉に、シルバが頭を振る。


「おそらく、《エリアヒール》では弱毒の効果と同程度の回復しか見込めない。《キュア》で解毒を試みたが、システム的なものなのか、一瞬状態は戻ったが、すぐに弱毒に戻る」


「ってことは、ずっと《ヒール》をかけ続ける役が必要ってことか。迷宮の最前線にいるヒーラーを呼び寄せることも可能だが?」


 キョウヤの視線が俺に向かう。


 俺は短く息を吐き、決断する。


「……分かった。とりあえず、見えている奴らだけ倒して撤退しよう。先に進むのは、ヒーラーを確保してからだ」


 俺たちは目に見えるガーディアンビーストをすべて始末し、上陸地点にある魔法陣へと踵を返した。

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