第48話 キャリー
「じゃあ今日からベリグランド迷宮に潜る。基本的に二人はシルバの後ろで控えてくれ。敵の殲滅は俺とアリサがやる。あとこれからはカオリと呼ぶからそのつもりで」
セントラルシティに到着した翌日。二人をパーティに加え、転移門の前で指示を出す。
「はぁ~い。ユウ君の言う通り、私はおじ様の後ろで、みんなを応援してまぁ~す♪」
「ゆ、ユウ君って……俺?」
「そうだよ? かわいいでしょ?」
そんな衣装どこに売ってるんだ? と思うほど露出度の高い魔法使い風の服をまとったカオリが、シルバの背後に軽やかに立つ。そして、そのさらに後ろにはあっくん。
俺とアリサを先頭に、まずは一層のボス部屋――ゴブリンキングを目指す。
あっくんも男だからか、それともカオリの前でカッコいいところを見せたいのかは分からないが、戦闘に加わろうとする。だが、それをシルバが手際よく制する。
一方のカオリは、シルバの背後でキャーキャー騒いでいたかと思えば、いつの間にか姿を消していることもしばしば。
……おい、ちゃんと後ろにいろよ。先が思いやられる。
そんなこんなでボス部屋に辿り着き、俺はアリサとシルバにカオリとあっくんを託し、二層で待つことにした。一度クリアしたボス部屋には、一回しか入れないからな。
すると、一分も経たないうちに、四人が二層へと降りてきた。あっくんはどこか興奮しているようで、「すげーっ!」を何度も繰り返しながら、夢中になってアリサを目で追っている。
対照的にカオリはというと、最初はシルバにべったりだったが、次第に落ち着きを見せ、ふらっといなくなることも減ってきた。最初のテンションが嘘のように、どこか静かになった気がする。
「ねぇ? カオリの様子、おかしくなかった? テンションが急に落ちたというか……」
二層をクリアし、解散した後。マイホームでアリサと今日の出来事を振り返る。
「確かに……でも、あれくらいのほうがいいな。正直、イケイケな人はちょっと苦手で……」
アリサの言葉に頷きながら、俺は内心ほっとしていた。俺みたいなヒッキーにとって、あの手のタイプは、どうにも緊張する相手だからな。
「それより、あっくんはどうしたんだ? 二層に降りてきたら、アリサに夢中みたいだったけど?」
俺にとってはこっちの方が気になる。
「うーん……やっぱり? なんか視線を感じるなとは思っていたのだけれども、自意識過剰かなって気にしないようにはしていたのよね……一層のボスを私一人で倒したのがまずかったのかな?」
まぁ、強さに憧れるってのは分かる。だけど、正直なところ早かれ遅かれだった気もする。魅力的すぎるからな。誰がアリサのことを好きになるのも自由だが、俺的にはあまりいい気はしない……ってか、嫌だ。
「嫌だったら、俺から言うけど?」
【船大工】がいない今、あっくんの価値は高い。だけど、それ以上に大事なものがあるのは分かっている。
「ううん。耐えられなくなったら私から言うわ。それに、ずっとパーティ一緒ってわけでもないしね」
アリサはそう言って微笑むが、俺は何となく釈然としない。
――まぁ、様子を見るしかないか。
迎えた翌日――今日は三層から探索を始め、四層を目指す。
さすがに、ほとんどレベルが上がっていない二人にとって、三層の敵は脅威だ。特に非戦闘職であるあっくんは、一撃でもまともに受ければ致命傷になりかねない。
その危険を察したのか、カオリは昨日までのようにふらっと姿を消すことはなくなった。だが、その一方で、あっくんの戦闘意欲はますます高まっている。
彼はアリサへの憧れに加え、俺にも積極的に話しかけるようになった。
「ユウ君さん、マジでかっけぇっす! 俺も船を作った後、絶対にユウ君さんみたいになって、アリサちゃんとカオリンを振り向かせてみせます!」
そう言いながら、俺とアリサの隣に並ぼうとする。
おそらく、アリサの強さに魅了されたのもあるだろう。だが、それ以上に――この『魂の監獄』での戦いの醍醐味を覚えてしまったのかもしれない。
……もしそうなら、それは非常に危険な兆候だ。
アリサもそれを悟ったのか、《索敵》の精度を上げ、周囲への警戒を強める。シルバもまた、あっくんに向ける言葉が次第に厳しさを増していく。
「戦闘職じゃないお前が前に出るな」
シルバが低い声で釘を刺す。
「でも、俺も強くなりたいんすよ! ユウ君さんやアリサちゃんみたいに! それに楽しいじゃないですか!」
あっくんの目は、まるで少年が英雄譚に憧れるかのように輝いている。けど――
「強くなりたい気持ちは分かる。だが、それを今ここでやるのは間違いだ」
珍しく、シルバが声を荒げた。
「でも……」
「いいか、あっくん。【造船師】としてやるべきことを果たしてから、狩りをすればいい。この辺の魔物に後れを取らないくらいにはなるから……もう少し、待っててくれ」
それは、あっくんを――仲間を失いたくないがゆえの、シルバの切実な願いだった。
納得したのか、していないのかは分からないが、あっくんはシルバの後ろに下がる。
三層のボスを瞬殺し、俺たちはいったんセントラルシティへ戻った。目的はただ一つ――あっくんの【造船師】へのクラスチェンジだ。
レベル11に到達した彼は、案の定、クラスチェンジを果たすと目を輝かせ、やる気に満ちあふれていた。だが、本来の役割を果たす前に無謀な戦闘に飛び込みかねないのが問題だ。正直、ガス抜きをさせてやりたいが、今はぐっと堪えてもらうしかない。
準備を整えた俺たちは、すぐさま四層へと舞い戻る。目的地はボス部屋とは逆方向――俺とアリサがレベル上げに使っていた狩場、マントボアの生息域だ。
ここで、一気にあっくんのレベルを21まで引き上げる。それが今回の狙いだ。
なぜなら、俺とアリサがこの場所でレベル20に到達した実績がある。成長速度が速いであろう【造船師】なら、同じ道を辿るのにそう時間はかからないはずだ。たとえパーティの人数が五人に増えていたとしても、効率は十分見込める。
以前とは違い、俺たちの戦力も段違いに向上している。持ち運べるマジックポーションの量も増え、戦闘継続能力も格段に上がった。
これ以上ないほどの好条件――カオリとあっくんのレベルを押し上げるには、まさに最適の環境だった。
しかも、俺が雷魔法を使わずとも、アリサと二人で湧き続けるマントボアを余裕で殲滅できるほどになっていた。受けるダメージも、一桁。
さらにこちらには、シルバとカオリという【神聖魔導士】が二人もいる。万が一の被弾があっても、即座に回復できる盤石の布陣。
こうして、この日は四層の狩り場にこもり、ひたすら狩り続けた。
あっくんのレベルも順調に上がっている。この調子なら、あと三日もあれば目標の21に届くだろう。
そして――その時が来れば、あっくんの役目は終わりだ。すぐにレイクタウンへ向かい、船を建造してもらう。その間に、俺たちはカオリを連れて十層へ向かうだけ。
すべては計画通り。
順調に進んでいる……そう思った、矢先のことだった。
迷宮が――牙を剥いたのは。




