第23話 白銀騎士団
細い脚に力を溜め、純白のブーツで地面を力強く蹴り上げた。姿勢を低く飛び出したアリサの右手には剣が握られ、その剣は魔物たちの間を縫うように何度も切り裂く。
やがて魔物たちを倒したアリサがこちらを向き、こう述べる。
「覗きとは趣味が悪いですね?」
その表情には怒気が宿り、いつものアリサとは様子が違う。
「の、覗きって――いくら何でもその言い方はないんじゃないか!?」
見惚れていたというならまだしも、覗きなんて人聞きが悪い。即座に反論するが、ヘーゼルの瞳は俺を一瞥した後、俺より後方を鋭く見据える。
え? 俺じゃない? 振り向こうとするといつもの冷たい声がベリグランド迷宮第二層の小部屋に響く。
「へぇ……あんたは俺に気づくのか。【白銀騎士団】の奴らとは違うな。パッシブは《索敵》を選んだか?」
悪びれる様子もなく姿を現すキョウヤ。その冷徹な笑みが、不気味な影を小部屋に落とす。
「用件はなんだ?」
「いや、ただの偵察だ。二層を離れる前に有力なパーティの情報を得ておきたくてな」
近づいてくるキョウヤのブーツの音がコツコツと聞こえる。
俺の背後を取ったときには絶対に足音はしなかった……こいつのパッシブは《忍び足》か。
「で? どうだった? 俺たちの腕前は」
「魔法使いと思われる男が何故か剣を持ち、相方の剣筋は初めて見るものだった。すぐに最前線に復帰するだろうなとは思ったよ」
こいつ、よく見てるな。
「でも今は【白銀騎士団】の総合力の方が上だな。二層をクリアしてシルバが【騎士】にクラスチェンジしてから頭一つ抜きんでた気がする。PVEに関してはだけどな」
含みのある言い方をするキョウヤ。だが、俺もその点ではキョウヤとまったく同じ意見だった。
誰からもヘイトを買わずにゲームの攻略だけをしていればいいのであれば、【白銀騎士団】の構成は強いだろう。しかし、PVPが発生するのであればその限りではない。特にシルバのパッシブは《HP自動回復》。PVPで活躍できるものではないからな。
「ユウト、お前シルバのステータスを知っているんだろ? いくら出せば口を割る?」
「人のステータスで商売をする気はない。あと、シルバなら教えてくれるはずだ。直接話してみるといい。悪い奴ではないと思うぞ?」
「ふーん……お前から見て俺はどう映る?」
まるで俺に人を見る目がないと言わんばかり。
「決まってるだろ。『魂の監獄』内で一番敵に回してはいけない奴」
俺の言葉に高笑いをするキョウヤ。
「ユウトにそう言われるのであれば光栄だ。では俺もシルバと直接コンタクト取ってみるか」
先ほどまでとは違い、音もなく俺たちの前から立ち去るキョウヤ。やはり《忍び足》か。
「あの人、何をしに来たのかしら?」
首を傾げるアリサ。
「探し人を兼ねて偵察ってところだろうな」
フジコという女を探していると言っていたからな。アリサと合流した今も気にはかけているのだが、レッドプレイヤーにならない限り名前が頭上に表示されることがないから困難を極める。
「ふーん。借りはあるから返してあげたいけど……それよりもほら、私一人でも戦えていたでしょ? だからもっと奥まで潜れるわ。家を買うためにもどんどん魔物を倒さなきゃ」
先ほどアリサ一人で戦っていたのは、もっと奥まで潜るか決めかねていたため。当然奥に潜れば危険が伴う。だがあの戦いを見せられてはNoとは言えない。
アリサと二層のマッピングをしながら魔物を倒し、いつもより早く街に戻った。
「こ、こんなに高いの――?」
中央広場付近の1LDKの家を内見したのだが、なんとお値段1.000.000ゴールド。しかも一番小さい家でこのお値段。ギルドハウスともなると何十倍にも膨れ上がる。さらに言うと家の値段は時価。時間が経つにつれて高くなっていく。
「も、目標は高ければ高いほど燃えるわ!」
この前と言っていることが正反対。身近な目標があればいいと言っていたのに。まぁ自身を奮い立たせるためなのだろうから、突っ込むようなことはしないが。
「賃貸もあるみたいだけど?」
そんな俺たちにNPCの女性が賃貸の情報も提示してくれる。
「うーん。でもせっかくだったら買いたいな。目指せ! 一国一城の主! ダメ?」
キャラメルブラウンのロングヘア―を耳にかけ、覗き込むように見つめてくるアリサ。できることであれば現実世界でそのセリフを聞きたかったが、それは叶わない。
「じゃあ、なるべく早く前線に行けるように頑張らなきゃな。でも安全マージンはしっかり取るからそのつもりで」
「は~い」
何度口にしたか分からない安全マージンという俺の言葉に、アリサは口を尖らせながらも笑みが零れる。
今日もいつもと同じねぐらに向かうと、前方で怒鳴り散らす声が聞こえる。
「何とか言えよ! 報酬を独り占めしようとしているだけなんだろ!」
そこには興奮した男が【白銀騎士団】に対し詰め寄る姿が。周りにはたくさんのギャラリーがその行く末を見守っていた。
男に対し、シルバが呆れたような表情を見せると、
「お前! ただじゃ済まさないからな!」
青筋を浮かべて捨て台詞を吐き、ギャラリーを払いのけ男が立ち去る。男の後を黒い法衣に黒の三角帽子を目深に被った者が、周囲を警戒する素振りを見せながら続く。
やはりヘイトは【白銀騎士団】に向かうか……にしても今の男、そこまで突っかかる必要はあるのか? そう思ったのは俺だけではなかった。
「ねぇ? さっきの人【剣士】だよね? 【真理の書】がない【剣使い】が怒るのであれば分かるけど、なんでクラスチェンジした【剣士】があそこまで怒るのかな? 言いがかりをつけて金品やレアアイテムでも貰いたいってこと?」
同じことに引っ掛かったアリサ。
「そうかもしれないし、もしかしたら他にクラスチェンジしてない仲間がいるのかもしれない。さっき黒の三角帽子を被った人も仲間みたいだし」
「三角帽子? そんな人いた?」
三角帽子は少し離れた距離にいたからアリサは気づかなかったのかもしれないが、多分あれは仲間だろう。ただここで議論することじゃないからな。
「いや、錯覚だったかもしれない。家を買うんだろ? 早く宿に戻って明日に備えようぜ」
辟易とした表情を見せるシルバに声をかけることもなく、俺たちは明日に向けて身体を休めた。




