エピローグ KOKORO再誕
平成二十二年 十月某日
気が付くと、由実世は廊下の長椅子に座っていた。フォーマルなパンツスーツを着用し、傍らにはビジネスバックが置いてある。
(ウトウトしちゃった。何か、長い夢を見ていたような……)
腕時計を確認すると、分針が頂点を刺すところだった。
(いけない! 今から面接だった。急がなきゃ)
由実世は焦って立ち上がると、応接室のドアをノックする。
「どうぞ、お入り下さい」
「失礼します」
まずはきちんと返答できたことに安堵する。だが、入室しながらも不穏な動悸が高まっていく。
「仲峯さんですね、どうぞおかけください」
面長&胴長の面接官が着座を促す。由実世は黙礼しながら、下座のパイプ椅子に座った。
やつれ顔の初老面接官が、骨ばった顎をゆっくりと動かす。
「では、まずは履歴書をお願いします」
由実世が慌ててビジネスバックに手を突っ込むと、引っ張り出した茶封筒から履歴書を抜き出す。
(なんだろう、この胸騒ぎと既視感……)
前歯の裏に舌を這わせ、次なる質問を待つ。
「私は理倶知新聞の加須貝と申します。彼は課長の原田です」
初老面接官が、ぞんざいに片手で名刺を差し出す。由実世は恭しく両手でそれを受け取った。
「ではまず、自己紹介をお願いします」
胴長の原田課長が由実世に話を振る。
浅く頷いた由実世が、頭の中で模範解答を反芻する。胸の内がドラムの様に跳ね、開いた口からは小さな喘鳴が漏れる。
二人の面接官の視線が痛かった。夢への道を閉ざす、悲しき症状が由実世を襲っていた。懸命に喋ろうと肺に空気を溜めたその時、由実世の脳裏に異世界の情景が一気に蘇った。
記者仲間と培った経験。同行した勇者パーティと分かち合った苦楽。そして、大好きだった母との再会と別れ……。数々のフラッシュバックが、由実世の心の傷を溶かしていく。
本来の自分を取り戻した由実世が、明るい眼差しで面接官と向き合う。
「私、仲峯由実世と申します。新聞記者への強い憧れがあり、御社を志望させていただきました」
ハキハキと発言するユミヨに対し、面接官たちがホッと胸を撫でおろす。
由実世は質疑応答しつつ、瞼の端に溜まった涙を人差し指で拭い去る。心の闇は完全に晴れ、由実世の人生は再び軌道に乗り始めたのだった。
了




