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KOKORO再誕  作者: 歴 悠輔
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第二十話 希望への跳躍

 灰色の岩山が夕日でこんがりと色付いていた。サパトマ山麓は穏やかな夕刻を迎えている。馬車の荷台に腰かけたユミヨは、所在なげに足をブラつかせていた。


「散歩完了、草も食べさせてきたよ」

 馬車馬に乗ったモズルフが現れる。その隣の馬上にはドワーフのロコモンの姿があった。


「ロコモンさん! どうしてここに?」


「心配になって追っかけてきたのさ。ユミヨさんをしっかり守らねぇとな」

 ロコモンに駆け寄ったユミヨが満面に笑みを浮かべる。


「今までご苦労だった、君は明朝帰還してもらう。ロコモン君を護衛に付けるよ」

 モズルフが控えめな口調で語ると、ユミヨは静々と肩を落とした。


「そうですよね、記事を作らなきゃだし……」


「タイムリーにね。だが、心残りがありそうだね?」

 頷くユミヨだが、それ以上の言葉は出てこなかった。


(最終目的まであとわずかなのにもどかしい。それに、これ以降の展開は知らないからなぁ)

 ユミヨが立ち上がり、ゾナーブル城砦の方角に目を向ける。


(真意を伝えたいと言っていた魔王……。だけど、この世界から帰還するだけなら、ゲームクリアが条件かもしれない)

 逡巡するユミヨをよそに、モズルフは自身の手帳にペンを這わせている。


「明日は日の出と共に出立だ、今日は早く休みなさい」


「じゃあお言葉に甘えます。お休みなさい」

 途端に瞼に重みを感じたユミヨは、そのまま寝袋に向かった。


***


 夜が深まり、山麓は闇に包まれていた。小岩の上に置いたオイルランプの横で、見張り役のモズルフもウトウトしている。


 テント内で眠るユミヨの瞼を、淡い光が撫でるように照らす。薄っすらと目を開くと、目前の空中にホタルが浮かんでいた。驚いたユミヨが覚醒すると、ホタルはテント外へスルリと飛び去っていく。釣られたユミヨが半袖のケープを羽織り、テント外へ踊り出る。


 外で待ち構えていたホタルが一際強い輝きを放った。ユミヨは思わず両目をつむる。


「起こしちゃってごめんなさいね。ちょっと急用があってさ」


 ユミヨが目を開くと同時に、反射的に後じさる。声の主を知っていたからだ。


「ビリーディオ。悪いけど、レカーディオはここには居ないわよ」


 声の主はあのピエロだった。空中に腰かけた状態で足を組み、リラックスしている。先ほどのホタルは照明代わりに漂っていた。


「あなたに用があって来たのよ。異世界の住人、ユミヨさんにね」


「何故そのことを……」

 不意をつかれたユミヨが狼狽する。


「私も別世界からの闖入者。だけど、元世界が辛すぎて本来の自分を忘れ去ってしまったの。同じ轍を踏ませるのは酷な話よね」

 仮面下の若い唇が悲し気にわななく。仮面奥の素顔、その泣き顔が透けて見えるようだ。


「なら教えて欲しいの。元の世界には、どうすれば戻れるの?」


 仮面に描かれたピエロの目元が鋭く吊り上がった。

「その答えは自分で見つけるべきだ……」


 レカーディオが闘牛士の様にマントを広げると、その内部に亜空間が広がる。ユミヨたちを森の深部へ誘った時と同じギミックだろう。


「レカーディオは大迷宮を抜けて、ゾナーブル城砦へ侵入した。あなたもその後を追うのよ」

 マントを見つめるユミヨが生唾を飲み込む。


 亜空間の先には、城砦内部を一人彷徨うレカーディオの姿があった。全身の節々に汚れが目立ち、見るからに憔悴している。


「どうしたの。あなたの思惑通りの展開でしょう?」


「到底信用ならないわ。私たちにドブロニャクをけしかけたでしょう!」


 ビリーディオがやれやれと頭を振る。


「私はゲームの展開をエキサイティングにしているだけ。あとはあなた次第よ」


 両膝に手を置き、屈んだユミヨが口を引き結ぶ。


(あの映像が本物だとしたら、レカーディオは何故一人なの?)

 意を決したユミヨがビリーディオを見つめる。


「行くわ、用意するから少しだけ待って」


「それは構わない。だけど、一言忠告しておくわ……」

 ユミヨに肉薄したビリーディオが、人差指でおでこを指さす。


「あなたがここで死ねば、魂は潰え元の世界には戻れない。その覚悟をしておくことね」

 ユミヨのこめかみを冷や汗が流れ落ちた。


***


 身なりを整えたユミヨは、再びビリーディオと対峙していた。彼は闘牛士の様に両手でマントを構えている。


(テント内には私を探さないよう手紙も残した。準備は万端)


 目前の亜空間内にはレカーディオの後ろ姿が見える。ユミヨは助走をつけると、走り幅跳びの要領でマントの内部に飛び込んだ。その姿が忽然と消えると、ビリーディオがマントから手を離す。


「私の部下をどこにやったのかね?」

 ホタル火がモズルフの横顔を照らし出す。その右手には抜き身のサーベルを握っている。


「勇者の元へ送り届けたのよ。彼女の意思を尊重してね」

 仮面に映る目は笑っていない。殺気に呼応し、鋭く吊り上がっていた。


 モズルフがチョビ髭の端をつまむ。


「思えば彼女は不可思議な存在だった。この世界の全てを見通している様な……」

 言いつつも、サーベルの切っ先を彷徨わせる。


「あの子は今から歴史の転換期に立ち会う事になる。私も特等席でそれを傍観させてもらうわ」


 モズルフの鋭い打ち込みが届く寸前に、サーベルの切っ先がグニャリと曲がった。


「過激な特ダネを提供してあげるわ。さよなら、新聞屋さん」

 道化がマントを翻すと、その渦の中吸い込まれていった。

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