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第十二話 試練を乗り越えて

 鎌首をもたげる蛇たちに、動揺したレカーディオが息を荒げる。。


(この怯え、ひょっとして胸の傷をつけた相手なの?

 ユミヨが不安げに片眉をひそめる。


「レカーディオ、良く聞いて」

 ユミヨが努めて冷静に語り掛ける。


「あのピエロはあなたを育てると言っていた。無理難題は押し付けないわ」

 レカーディオの後頭部が力なくうなずく。それを見たユミヨが話を紡ぐ。


「本物は一匹のはず。冷静に見定めて」

 ユミヨは話しつつも足元の岩を両手で持ち上げる。その時、三匹の巨大な蛇が同時にトサカを開いた。レカーディオが思わず胸の傷に手を当てる。


「レカーディオ! 気を付けて」


「大丈夫。何か閃きそうだ」

 レカーディオが歯を食いしばりつつ深呼吸する。


「思えば今まで守られてばかりだった。自分では何もできずに……」

 勇者が眦を決して前方を見据える。


「当たって!」

 ユミヨが両手を振りかぶり、スローインの要領で岩を投げつける。それが右側の蛇にぶつかると、正体が露になりただの樹木に還る。


 しかし、残った二体が同時にレカーディオに噛みつこうとしていた。


「ここだっ!」

 左側の蛇に居合抜きが放たれる。剣先が当たり、擬態化した蛇が四散し樹木に還る。本物は正面だった。


「レカーディオ!」

 ユミヨが悲痛な叫びをあげる。だが、レカーディオはギラついた微笑を浮かべていた。


 放たれた剣先をそのまま右に振るうと、黒色の雷がほどばしる。それに打たれた蛇が奇怪な断末魔を上げる。


 実体化した蛇がのたうち、地面に横たわった。電気ショックでいまだに痙攣している。


「ついに魔法を習得したぞ! 魔物など恐るるに足らず!」

 レカーディオが何かに魅入られたように恍惚の表情を浮かべる。危機を脱したユミヨは、緊張から解放されその場にへたり込んだ。



 戦闘を終えたユミヨたちは、森内の道を踏破し、大木で囲まれた外壁まで辿り着いていた。


「出口が見当たらない。この道はフェイクだったのかしら」


「分からない。だが、もう少し探ってみるか」

 ユミヨとレカーディオが左右に立ち塞がる巨木の壁を凝視する。


 その時、傍らの樹木に擬態化したカマキリがレカーディオに不意打ちを仕掛けた。茶色を基調としたカマキリの鎌で足元を払われたレカーディオが派手に転倒する。


「レカーディオさん!」

 振り返ったユミヨが叫ぶ。


 転倒したレカーディオに対し、カマキリが鎌を振り下ろす。地面で回転しながらかわしたレカーディオが二本指でカマキリを指さした。


 指先からほどばしる黒き雷光がカマキリに直撃すると、感電して動きが止まる。

 間髪入れずに繰り出された斬撃が、逆三角形の頭部を跳ね飛ばす。あわれな胴体が直立不動で動きを止める。


「訓練ではなく、もはや死闘だな」

 自嘲的につぶやくと、剣を鞘に納める。レカーディオが背を向けると、頭部を失ったカマキリが、両腕をじわりともたげる。


「レカーディオさん!」

 気が付いたユミヨが注意を促す。


 獰猛な両鎌が最期の一撃をレカーディオの後頭部に見舞う。その刹那、背を向けたままのレカーディオが後方に居合い抜きを放った。


 カマキリの両鎌が根元から切断され、宙を舞う。地べたに落ちたカマキリの複眼から光が消え、その屍体が上から覆いかぶさった。


 ――パチパチパチ


 どこからともなく拍手の音がする。レカーディオとユミヨが周囲を見渡すと、樹木から手袋をした両手が突き出ている。


「ついに魔法を覚えたようね。私の特別メニュー、気に入ってくれたかしら?」

 怪しげな樹木の表皮に、ピエロの仮面が浮かび上がる。


「余計なお世話だ。お前の手を借りずとも、いずれは覚醒したさ」

 木の中から飛び出したビリーディオが、そのまま枝の上に座り込む。


「その偉そうな態度、精神の振り幅が激しい奴ね」

 言うなり指を鳴らすと、森の外壁が音を立てて左右に開く。ついに出口が開いたのだ。


「お前に聞きたい事がある。お父上はご自分の意思で魔王になったのか?」


「だから誤解だってば。私はお父様の手先じゃないのよ」

 ビリーディオが両手の平を上げておちゃらける。


「戦いは拮抗していた方が面白い。せいぜい私を愉しませなさい」

 ビリーディオがマントを広げると、その中に吸い込まれるように姿を消した。


「おいっ、こっちだ。二人とも無事だぞ!」

 森の出口では、ヴァグロンが大きく右手を回している。その後ろから、ミレニとヨタナンが駆け寄ってくる姿が見えた。


「もう限界かも。ちょっと休ませてください」

 緊張から解き放たれたユミヨがへたりこむ。すると、中腰になったレカーディオがその肩に優しく手を添えた。


「ユミヨはよくやってくれた。おそらく、俺一人ではやられていただろう」

 レカーディオがユミヨを労うと、彼女の頬が赤く染まる。彼の優し気な横顔に、思わず見入ってしまう。


「そういうお主も消耗しておる。ショートカットは諦めて、いったん街に戻るとしよう」

 ヨタナンの提案に、皆が顎を引いて同調した。


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