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第十話 闖入者現る

「勇者パーティへの帯同が認められただと? 新人のお前が……」

 丸顔の男性記者が気色ばむ。


「私一人だけならと、念を押されたんです。どうにもならず、許して下さい」

 対するユミヨは、身をこわばらせる。


「その対価が、ミレニへの追及をやめる事とはな……」

 男性記者が、低くこもった声でユミヨに詰め寄る。


「ふざけるなよ! 折角スクープの種にありつけたのに、それを台無しにしやがって」

 怒気のこもった丸顔が肉薄すると、ユミヨはたまらず両目をつむる。


「オズモ君、そのぐらいにしたまえ!」

 見かねたモズルフが横やりを入れる。彼はサスペンダーに両手を差し込み、姿勢を正した。


「馬車の御者として同行する私の助手を頼んだのだ。特段、花形の役目と言うほどではない」

 舌打ちしたオズモは、ユミヨを睥睨するとその場を辞した。


「悪く思わないでくれたまえ。彼も入社二年目の準新人、功をあせっているのさ」

 モズルフが垂れ目に優しさを込める。


「レカーディオさんの力になりたくて、つい勇み足になってしまった。反省しています」

 ユミヨの謝罪を聞き、モズルフが彼方の森に遠い目を向ける。


「猫かぶりの森に目を付けるとは、中々の土地勘だねぇ。恐れ入ったよ」


「任せて下さい! 地理は得意中の得意なので……」

 ユミヨがハツラツと両手を握る。


(ゲーム中に勇者のレベル上げで使ったから、覚えていただけなんだけどね)

 高原の先を見つめたユミヨが不安げな面持ちになる。


(帯同する私も安全が保障されているわけではない。でもここは乗り越えないと)



 そびえたつ長太い幹の列は、さながら防壁の様だった。針葉樹林の威容を見上げた勇者パーティは、ひたすら圧倒されている。


「こりゃたまげた。こいつら儂より年寄りに違いないぞい」


「俺らの侵入を全面拒否してるようだな。記者さん、本当に入って大丈夫なのかい?」

 ヴァグロンに問いかけられたユミヨも、見上げた姿勢のまま唖然としている。


「何その態度? ここは知っているんじゃなかったの」


「いえ、実際に来るのは初めてで……」

 半笑いしつつ問いかけるミレニに対し、ユミヨが間延びした口調で答える。


(そろそろ現地民のおじさんが、説明役として現れるはずだけど、まだかしら?)


「ごめんなさいねぇ。待ち人はこないわよ」

 唐突な台詞が間近から聞こえ、一同に緊張が走る。声の主の足元は低空に浮遊していた。


「貴様、何者じゃ?」

 杖を構えたヨタナンが問いかける。緊張をはらんだ面々が武器を構える。


「私の名はビリーディオ、単なる傍観者よ。勇者対魔王の対決、その顛末のね」

 外見男のピエロはそう答え、低空で一回転しつつ地面に降り立つ。


(こんな奴知らない。ゲームには出てこなかったはず……)

 驚きのあまり、ユミヨは唖然とする。


(元々の案内人はどこなの? 姿が見当たらない)

 ユミヨが周囲を見回すが、誰も現れる気配がない。その代わりに、背後の大岩の陰から血だまりが流れ出る。案内人らしき男性は、人知れず息絶えていたのだ。


 長身のピエロは、目元と赤い丸鼻部分が仮面になっており、口元は肌色の体が露出している。黄色と青を基調としたカラフルな衣装だが、鍛えられた大胸筋が浮き出ており、対峙する者に圧を与える。


 弛緩ムードを唐突に炎が切り裂く。ヨタナンの杖から放たれた魔炎がピエロを襲う。

 対するピエロが人差し指から水鉄砲を撃ち、炎を相殺する。


「幻滅したわ。高齢者なのに、人を見かけで判断するなんて」

 綽々と述べると、バク宙したピエロがそのまま低空に浮遊する。


「その能力も加味してじゃ。いくら何でも怪しすぎじゃろう」

 周囲の仲間たちが、一様に武器を構えてピエロを包囲する。


「私の見解を述べさせてもらうわ」

 地面に降り立ったピエロがレカーディオを指さすと、不意を突かれた彼がビクつく。


「あんたら勇者を甘やかしすぎ。魔王の元に連れて行けばなんとでもなる。そう思っているの?」

 不意を突かれた周囲の面々の怒気が和らぐ。少なからず図星を突かれたのだ。


「余計なお世話だ、貴様に言われる筋合いはない!」

 ヴァグロンが剣先を突き立てるが、ピエロはヒラリと宙返りして回避する。そのままレカーディオの背後に回り込んだ。


「私がこいつを育成してあげる。ちょっと荒っぽいやり方でね」

 にやついたピエロがマントをふわりと広げると、包まれたレカーディオが姿を消す。


「レカーディオさん!」

 間近にいたユミヨが、叫ぶと同時にマントの中に飛び込む。そして、レカーディオの様に姿を消してしまう。


「何たることじゃ……」

 ヨタナンがフード越しに頭を抱え、当のピエロも呆気にとられる。


「クハハッ! 随分面白い事態になったこと」

 にやつく口元と連動するように、仮面に描かれた双眸を弓なりに細める。


「レカーディオはどこ! あんた、いったい何が目的なの?」

 ミレニが悲痛な面持ちで問い詰める。対するピエロは人差し指を立てて左右に振る。


「勇者もあの子もまだ死んでいない。その代わり、この森の中で試練を受けることになる」

 ピエロの体が宙に浮き、その高度が徐々に上がっていく。


「レカーディオが生き残ったらまた会いましょう。その時を楽しみにしているわ」

 おどけたピエロがウインクすると、再度マントを広げる。その中に吸い込まれるように忽然と姿を消した。

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