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5 奴隷

 

「お坊ちゃま、目的地に到着致しました。」


 行者の知らせを聞き届け、馬車が動きを止める。

 シェバルトが用意していた黒いコートを羽織る。私も子供用ではあるが、シェバルトのものより高級であろう、金糸で刺繍された黒いコートを身につける。

 深紅のカーテンを押しのけ、外に出ると、シェバルトのコートを掴む。一瞬ビクッとしたのみで大きな背中からは、何も受け取れない。


「これは。ようこそお越しになれました。ヴァリュアブル公爵令息。」


 シェバルトが何かを店員に受け渡し、私達は高級風俗のような店に入る。爽やかな匂いが鼻を香ぐ。

 おそらく受け渡したものは会員の印のようなものだろう。私達の他にも、貴族や豪商と思われるものが個室に案内されていた。


「こちらへどうぞ。」

「あ、待て。」

「はい。なんでございましょうか。」

「見目麗しい年頃の女は初めから用意するな。」

「ッかしこまりました。」


 おそらくこいつはお坊ちゃまが好きそうな女共を紹介しようとしていたな。

 全くわかりやすい女だ。

 そこら辺にいる町娘のような店員を、私は内心嘲笑っていた。


「では、こちらへ」


 今回私が購入したいのは、クッキーの代わりを務めるメイドと、護衛だ。

 案内された部屋には容姿のいい男どもが壁に背を向け綺麗に整列していた。


 多分こいつらはマダムに買われるんだろうな……

 なんで下等種はアッチ方面しか考えられないのか。

 イケメンは嫌いだ……奥の方のやつを購入しよう……。比較的容姿が劣ったものが奥に並んでいる。というより入口付近のやつの顔が良すぎるだけだ。奥のヤツも悪い容姿ではない。


「この中で腕の良いものは?」

「それならこちらの獣人がよろしいかと。」


 店員が指定したのは、狼っぽい獣人だった。

 図体は180程で細く引き締まり、何とも意地悪そうな顔つきをしている。奴隷の前の職業は盗賊辺りだろう。


「じゃあコイツで。あと身の回りの世話ができる奴隷を。」

「はい、かしこまりました。ではこちらへ」


 個室ごとに、需要で分けて奴隷が収監されているようだ。

 先程の部屋をぬけ、2つ隣の部屋へ移動する。




(この店員足はえーーんだよ!気を使えよドベが)


 シェバルトのコートを掴み早歩きで店員について行く。


「こちらは家事経験のあるものや、元使用人達です。左側にいるものは下級ではありますが、貴族の出ですので少々割高となっております。」




 左側を見ると主人公パーティに参加する北の亡国サーデルティン公国の姫がいた。奴の赤色の瞳と目が合ってしまった。

 アイツだけ異様な程にキラキラしている。コイツは魔術文字が読めるため妖精教の研究記録に理解が深く、episode4のギミックを解くカギである。


 ここ出逢えたのは運がいい……こいつはさっさと始末してしまおう。


 この明らかに普通では無い金髪の姫は違法奴隷で、主人公パーティに救出されるのだ。

 が、違法奴隷なんて他にもいっぱいいるし、金払って買ってるのに偽善で財産を持ち逃げされる悪役貴族が可哀想である。


 こちらを心底憎いと顔で訴えかけているこの負け犬……一体私が何をしたというのだろうか。これだから下等種は理解出来ん。



 いや、ちょっと待てよ。


 なんでこんな上玉が売れ残ってるんだ?おかしいだろ。

 なんか作為的なものを感じる。

 購入はやめである。


「じゃこちらの女を」

「はい。かしこまりました。先程の獣人と合わせて金貨250枚でございます。」

「シェバルト」

「ではこちらで」


 適当に40代くらいの家事が出来そうな女を選び、会計をすませる。

 正直金貨250枚がどれだけの価値があるかよくわからんが、公爵家なんだから大丈夫だろ。


 契約書と共に二階へ案内される。店員のケツを眺めながら必死に足を動かす。

 5歳児にこの階段はきつい。この下等種は人を思いやる気持ちが無さすぎる……

 おい、まて、


「ご主人様、失礼します。」

「あわっッ」


 脇腹に大きな手が差し込まれて、思わず声を上げてしまう。

 シェバルトに抱きかかえられ階段を昇っていく。アトラクションのようだ。ナイスだシェバルト。さすが父上が選んだ護衛。


 店員はこちらをちらりと見るが、特に気にする様子もなく足を進める。

(このクソ女、後で絶対に報いを受けさせる。)


 奴隷紋に関する変更だろう。


 奴隷紋の仕組みは大変合理的で、1人の意思あるものに従わせるにもかかわらず、さして魔力は多くない。

 だが、私は思うのだ。主人を変えるのって、そんなに簡単に出来るものなのか……?と。

 魔法陣が必ず単一で自立しているように、「主人」は魔法陣を直接奴隷に書き込んだ術者のみでは無いか?




 そのことから、以下の2点を予想している。



 1つは、術者を「主人」とし、術者がある条件を魔法陣に書いて、命令を下している可能性。

 奴隷紋で判明している魔術文字は、「闇よ」「痛みを」「与え」「従え」のみである。

 この場合は、術者→奴隷商→購入者の順で命令優先権がある。術者と奴隷商は魔法陣に書かれた条件を1度利用しているためだ。


 奴隷紋はかなり複雑な魔法陣をしている上、闇の魔術は今まで伝わってきたものが少ないため、情報量が少ない。


 さらにルース教は「妖精、霊、魔女」を悪としているため、魔法使いや魔女は歓迎されない。能力(スキル)は皆が持っているため、そこで魔法系を引き当てた者と、素体の魔力を使い魔道具を作る者は魔術師と呼び、職業とて認められている。

 しかし魔術文字の研究は魔力に魅入られた者とされ、魔法陣を使い魔法を使う者も、魔女、魔法使いとよばれ、下手したら異端審問にかけられる。


 もし奴隷紋に使用されている魔術文字が判明した場合、その文字は「受動変化」するという特性をもつだろう。

 魔法陣が単一で自立しているのは事実ではあるが、「受動変化」する魔術文字が判明すれば、例として手の甲に魔法陣を書いておき、条件付けした行動をするだけで魔法が発動するという魔法陣すら作ることが出来るだろう。

 さながら革命である。


 補足ではあるが、

 ・魔法は、魔法陣を空中に描き自らの魔力で自然界で起こる現象を操ること。

 ・魔術は、魔法陣を素体に描き素体の魔力で魔法を条件下で操ること。ただし、自由度が高いが発動するまでに時間がかかる。

 ・魔法陣には、魔術陣と魔法陣、2つの陣があり、両者に具体的な違いは無いが、魔術陣は原則魔術文字が描かれている方陣である。魔術は、素体の魔力を使うため、魔術陣も個体名や術者以外の魔力を記憶することは出来ない。


 →両者とも判明している限り「火」「水」「風」「土」「闇」「光」を顕現する。

「闇」と「光」はどちらかと言えば魔術の分野だ。

 そして魔法を使うものは魔術文字を理解しなければならない。


 魔法陣は術者オリジナルの方陣も多く、戦いをする上で魔法陣は簡略化されてきたものだからである。


 魔力を記憶することが出来るのは魔石のみ。





 話がズレた。


 2つは、魔道具のように素体を魔石とし、魔石に記憶してある魔力の持ち主が「主人」である可能性だ。

 この場合は、術者-奴隷商-購入者と、命令優先権はなく、最終的には魔石に登録した購入者のみ。


 だが、その場合の奴隷紋に使用されている魔術文字は「魔力を引っ張る」「自立した魔法陣同士を繋げる」のような「魔力を伝える」という特性を持つだろう。

 なぜなら魔石は奴隷を見ている限り、おそらく首輪か、主人が持っているか、どちらにしよ魔法陣に接触していない。


 魔道具は素体を魔石とする魔法陣の書かれた繰り返し使えるモノだが、総じて「捧げよ」という魔石から魔法陣に魔力を伝える魔術文字を利用している。「捧げよ」は必ず魔石と魔法陣が触れているor魔力伝導率の優れた素体で触れている必要がある。


 つまり「魔力を引っ張る」「魔法陣同士を繋げる」のような魔術文字が発見出来れば、現代で有り得た電話、メール、のように遠距離での情報伝達が可能になる。「魔力を引っ張る」ことが出来れば魔力を引っ張る魔法陣を体の一部に描き、自らの魔力以外に、魔石の魔力を利用して魔法を使用することが出来る。

 またもや革命である。



 ちなみに魔法陣を書き換えることは出来る。しかし、奴隷紋は書き換える意味が無い。

 なぜなら個体名を魔術文字で書くことが出来ない=「主人」を変えることに魔法陣を変更することは無いからだ。




 二階の個室に用意されていたのは、ただの契約書のみだった。

 おそらく元締めと思われる明らかに悪いことしてますよという顔をした60くらいの爺さんが、契約書にサインしている。

 この国では奴隷は合法である上、貴族たちが重用しているため、この店も上級街にある高級店であり、店主の社会的地位も高い。


「では首輪に魔力を登録してください。」


 手を当てると魔力が引っ張られる。この首輪は魔道具のようだ。


「これで登録は完了しました。」


(ファ!?なんだって…?まさかこの奴隷紋は、社会的地位を下げるための単なる飾りで、首輪の魔道具が奴隷が命令に逆らえない理由なのか。)


 私はこの奴隷階級という社会的地位に対する哀れみと、奴隷紋を考えついた悪辣な賢者への尊敬で、驚愕していたのだった。








魔術や魔法の設定に関して、矛盾した点などが発覚した場合、修正することを予定しているため、現在進行形で書かれている内容に変更がある場合がございますがご了承ください。


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