4 弟
さらに時は経ち、現在5歳。
私には原作通り、弟がいる。
その名もシェープ・ヴァリュアブルくんだ。
両親と共にリビングでコース料理もどきを食べている。
3歳からリビングで食事を始めたのだが、あの時は酷かった。私と2歳違いの弟シェープが、毎日ギャーギャーと泣きわめくのだ。それがリビングにいても聞こえる。
つまり自室ではもっと酷かったということだ。
幸いベビー部屋から子供部屋に移った際、シェープから1番遠い部屋を選んだため、安眠を妨げることは無かった。
だがしかし、この屋敷の料理人は素晴らしい。
現代人である越えた舌を持つ私と、数々の美食を味わい尽くしたであろう母豚のパルティアを満足させるのだ。
私はサラダが大好物なのでまず初めにサラダを全て食べる。乳歯でシャキシャキと噛むと、ドレッシングの酸っぱさで舌から唾液が溢れる。クルトンもワガママを言って多めだ。
ベーコンエッグ……これだけは微妙だ。まず卵が嫌いだし、ベーコンも現代人の私には味が薄いように思えた。
そしてこの食事会、ただ平和なだけでは終わらない。
3歳になった弟シェープもリビングにいるのだ。
「はは、ちち、あに、あに、あに、これ美味しい。」
ぷくぷくとしたほっぺを揺らしながらこちらをブスーっと眺めるシェープは大変可愛い。銀髪に翡翠の瞳をもつ天使だ。
でも可愛いからこそいじめたい。無理やりほっぺを引っ張ってぷにぷにしてやると、大きな声で泣くのだ。
育児放棄が得意な両親は、もちろん普段居ない。そのため必然的に私と一緒にいることが多くなり、私によく懐いた。
基本兄弟や姉妹と言うものは、思春期が来ると自然と仲違いする。自立していくにつれて仲良くキャッキャする事より、自分一人の時間を持ちたいのだろう。
このシェープくん、私が幼い頃から優しく接すれば多分向こうもこちらのことを大切に思うお兄ちゃんっ子になるだろう。
私は食事会が終わってからシェープと二人で私の部屋に戻った。
幼いシェープはある程度言葉は理解できるし、何より私のことが大好きだ。
私は積み木で遊んであげたり、文字を教えたり、そんな頭が良くなるような遊びはさせない。
鬼ごっこである。
将来頭がいい頭脳系になると操りにくい。私を不快にさせない程度の教育があればそれ以上を望むのは悪手である。
実際私が3歳の時よりも、コイツは確実にアホだ。
「きゃーーーーぁ!!」
「ふふ、見つけたぞ」
私はトテトテと廊下を歩くシェープを見つけ、後ろから抱きしめた。
手の中に感じる温かみに、ドキドキが止まらなかった。
これこそが「愛」と言うモノだ。
どうせシェープも反抗期が来れば私のことを裏切るだろう。
それならこうして小さなうちに、命を感じておくことが理想的なのだ。
使用人達は、この兄弟の微笑ましい光景に喜びを感じ、癒しを感じていた。
「ヴァリュアブル公爵家の兄弟は2人揃って天から舞い降りてきた天使のようだ」一一
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
が、残念ながら長男は悪魔である。
ところ変わってここは馬車、最近選ばれた専属騎士と共に私は今世初めての外出を経験する!
向かいに座るこのモアイ像は私の護衛騎士シェバルト・ダーテンダくんだ。子爵家の三男で恵まれた図体と精悍な顔つきThe騎士という感じだ。少し無口気味ではあるが、うるさいヤツより断然いい。
シェバルトはダークブラウンに茶色の瞳をもち、こちらを凝視している。
(キモイ、こっち見んな。怖)
初め、選ばれた護衛騎士はシェバルトではなくモーチェという赤髪の女だった。
顔を合わせた瞬間、私は嫌な感じがしたものだ。
赤髪ってだけでヒロイン臭がする。
若干ミソジニーなところがあるが、私は大層容姿が優れているため、モーチェが私のことを見て、「可愛い」と哀れんでいることに苛立ったのだ。
すぐさま父上にワガママを言って変えてもらった。
そもそもなぜ男であるリームの護衛騎士に女騎士が選ばれるんだ。
何かあったらどうするんだ?ナニかが起きることを望んでいるのか??
話がズレたがこの馬車が向かう先は奴隷商である。
カタカタと街道を走るこの馬車は乗っているリームのケツにダイレクトアタックで振動を伝えてくる。
眉間に皺を寄せながら奴隷商へ早くつく事を祈る。
カタンコトン……♪
足をブラブラさせながら、窓にかかるカーテンから覗く光に反射し、キラキラと舞うホコリを眺めていた。
「きゃぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!」
馬車が止まる。
(なんかこの世界、バカが多くないか……?)
前項方向から女性の耳障りな嬌声が聞こえる。
嫌な予感しかしない。テンプレじゃないか。もう苛立ち通り越して笑いそうだ。
なんなんだ?なんでこんなにバカな人間がいるんだ?どでかい馬車が来るのが見えないほど目が悪いのか?
「シェバルト、外に出て叫んでいる人間を殺してこい。通行の邪魔だとな。」
「かしこまりました。」
私は引き攣る口で、鈴のような声を鳴らした。
普通、典型的なクソ貴族の行動をとる私は、モアイ像くんにとって好ましくないはずだ。
交流し頃合いを見て解雇かは選ぶが、引き続き護衛騎士になってもらうことになっても、信用することは無いだろう。
私が信用するのはシェープか奴隷のみである。
馬車越しからザワザワと会話が聞こえる。
「この馬車にはヴァリュアブル公爵家の方が乗っておられる。私から言えることは、ご主人様は大変ご立腹であり、私に処刑を指示したということだ。殺されたくなければ、さっさと道を開け、騒がないことを推奨する。さもなくばこの通り」
「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ」
シェバルトは命令を厳守した。さすが父上に選ばれた護衛騎士だ。
扉開かれ、中を見えないようにする長い深紅のカーテンからシェバルトが姿を現す。
いつもの如く、無表情でその顔から感情は感じにくい。
シェバルトが持つ、血を拭った剣に切られたら私は死ぬだろう。
シャキン、と鞘に差し込んだ剣のガードとブレイドの間には固まって茶色っぽくなった血液の汚れが付着していた。
先程と同じように、剣を立てかけて上品な馬車に座るシェバルト、やはりこちらを見る茶色の瞳からは何も受け取れない。
ガタン……
馬車が動き出す。
まるで私の初めての殺人から、物語が動くように、運命の車輪は回ってしまったようだ。
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