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望郷の形  作者: 直凪
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エピローグ

 縦に長い直方体の台の上に敷き詰めた小石。その上に純白の卵をそっと乗せる。尖った方を上にまっすぐ置いたが、不安定な土台の上でわずかに傾ぐ。微妙な角度が彼の優しげな顔と重なって、そのまま展示することに決める。


「いよいよですね」


 スーツに蝶ネクタイのテディベアみたいなシーさんが頬を上気させて緊張気味に言った。


 あと十分もすれば展覧会の観客が会場に入ってくる。あの王国に眠っていた魂の形を見るために。


 年明けにようやく島から出て自宅に戻ってきた時は、画廊から駆け付けた久我にしこたま叱られた。知らない間に私は有名人になっていて、久我のところにまで取材が来て大変だったそうだ。


 原因となったのは一本の動画。異星人たちの王国での暮らしを内部から詳細に記録したもので、編集された映像には私も映っていた。内容は王国の住民たちに対して好意的なもので、動画の投稿者は異星人であった身内を追い詰めてしまった後悔をも自らの肉声で語っていた。久我に見せられたスマホの画面に収まっていたのは、島で会っていた時とは大分印象が変わっているものの、紛れもなくスバルだった。


 動画は瞬く間に拡散され、激しい議論を巻き起こした。反射的な拒絶反応を示す人ももちろん多かったが、中には地球人でありながら共感を示す人もいた。彼らの後押しがあって、淡雪のような桜が華やかに散り、瑞々しい若葉が命を沸き立たせるこの良い時節に、いつもの画廊で展覧会を開催できる運びとなったのだ。


 それぞれの魂の形に彫刻された骨が星座のように転々と展示されている間を縫って、シーさんは落ち着きなく歩き回っている。いつもより少しフリルの多い服で講演会に備えているイナミも、奥の部屋で同じように浮き足立っていることだろう。ネクタイを締めたスバルは入口の前に立って腕時計を確認した。開場まで、あと五分。


「ありがとう」


 背後から声をかけられ、驚いて振り向いた。上品なロングスカートに身を包み、腰まである髪を束ねた女性が微笑んでいる。一瞬、脳が混線する。彼の顔には見覚えがある。間違いなくワタさんだ。だが私はワタさんに出会う以前にもこの人に会ったことがある。


「あなたでしたか、あの木の魂を買ってくださったのは」


 神木から彫り出した作品群のうち最も大きなもの。羽ばたこうと限界まで翼を広げた鳥のようだった。個展に展示していたそれを何時間も見つめ、そのまま買い手となったのは確かにこの人だった。


「あの木の形、ぼくの形と同じ。同郷の生き物と初めて会えた。君のお陰」


 流暢に喋るワタさんに呆気に取られていると、いつの間にかそばに来ていたシーさんが笑った。


「いつもと違うんでびっくりしたでしょう。ワタさんは何でもできちゃうんです。仲間を集めて王国を作ったのもワタさんなんですよ」


 私はへぇとあやふやな返事をして頷いた。意外と言えば意外ではあるが、海のように得体の知れない彼からは何が出てきても不思議ではないような気もする。


「——あ、そうだ」


 ふと思い出して鞄から粘土細工を取り出し、手の平にころりと載せた。ただのごつごつした小石のようだが、凹凸の一つひとつにはきちんと生命の一器官としての意味があることを私だけが知っている。


「私自身の形を表現してみました。別の素材を使って表しているので解像度は低いですが。——この形が、私の名前です」


 ワタさんは私の魂の形を受け取り、指先で愛おしそうに撫でた。


「はじめまして」


 うふふと無邪気に笑う顔もまた私が知らない一面だ。私にはワタさんの全てを推し量ることはできないし、彼を理解できるようになる日も永遠に訪れないだろう。そのわからなさが、何故か心地良い。


 画廊の柱時計が鳴り、扉が開かれる。私たちは流れ着いたこの星に根を下そう。


(了)

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