第六話 久しぶりの町
とある日の昼頃。
いつものようにアルフ、ルイザ、ソニアの三人で食卓を囲んでいるときだった。
コンコンッ
不意に家の扉がノックされる。
誰だろう。
もしかしてあの人が来たのだろうか。
少しドキドキしてくる。
「誰かが来たようだね。ちょっと出てくるよ。」
ルイザはそう言うと席を立ち、玄関に向かっていった。
ルイザが戻ってくると、後ろに一人の人影が見える。
女性だ。
身長はそこまで高くないが、大人な女性の雰囲気がある。
金色の長い髪を後ろに束ねており、触覚がひらひらと揺れている。
水色で統一されたドレスにも見えるような服を着ていた。
ドレスとの違いは広がった袖と膝より少し上の高さに揃えられたスカートだろうか。
「アルフくん、ソニアちゃん久しぶり〜! 食事中だったんだ。邪魔してごめんね~。」
服と同じ水色の瞳でこちらを見据える。
その声を聞いて食事をしていた僕とソニアは返事をする。
「アイリスさん、久しぶりです。」
「久しぶり、アイリス。」
すると、アイリスがこちらに近づき、唐突に僕のことを抱きしめた。
自身の顔が彼女の大きな胸に埋もれてしまう。
「アルフくん〜あいたかったよ〜! あれ、少し大きくなった? 体つきも良くなってるんじゃない?」
アイリスは頭を撫でながら言った。
彼女はいつもこうだ。
僕を見るとまず最初にハグをしてくる。
ドキドキしすぎて心臓が破裂しそうだ。
「さてさて、こっちのほうはどうかな~?」
そう言うとアイリスさんが僕の腰に手を回し、ズボンの中に手を入れてくる。
「ちょっと、アイリスさん!?」
尾てい骨あたりを触ってくる。
何か突起物があることに気づくと、アイリスはその突起物をグニグニをと触ってきた。
魔人族の体には人間族とは違う特徴があった。
それは魔人族が持つ尻尾と角だ。
アルフも頭に二本の角を持っている。
しかし、元々アルフの角は遺伝でとても短く、髪に隠れてほとんど見えない。
また、ほとんどの魔族の尻尾は短い。
昔は長かったが、長い時間をかけて退化したと言われている。
そしてその尻尾は魔族にとって性感帯である。
「お〜お〜、やっぱりあるね〜。この感触、なんか癖になるんだよね~。」
「ちょっ……アイリスさん……やめっ……」
ヤバい、めっちゃ触ってくるんだが。
この感覚は、ヤバい。
「アイリス、そのへんでやめたらどうだ。アルフも嫌がってるだろ?」
先ほどまで傍観していたルイザがアイリスの行動を咎めた。
ソニアは何も気にせずに食事を進めている。
「そうだね〜。私も満足したし。でも、本当に嫌がっているのかな?」
そう言ってアイリスは手を話した。
僕はしばらく席から立つことは出来なかった。
〜
彼女の名前はアイリス・グラッドストン。
ルイザの友達でたまに家に遊びに来る人間族だ。
僕がここ来てからも何回か来ており、来るたびに何かと僕の体を触ってくる。
彼女がかなりの美人ということもあって触られるたびに僕の理性が大変なことになる。
アイリスは尻尾が性感帯なのを知っているのだろうか。
「それで、町に行こうかと思うんだけど、アルフくんを連れてってもいいかな?」
食事を終え、ルイザとアイリスが話している。
「別に構わないけど、何でアルフなんだ?」
「普通にアルフくんとデートしたいなって。」
アイリスがチラッとこちらを見てくる。
思わずドキッとしてしまう。
あまりからかわないでほしい。
「どうだアルフ? 町に行ってみたいなら行ってもいいと思うぞ?」
「それって僕がルイザさんと出会った町ですか?」
「ああ、そうだ。」
ここに住み始めてから町には一度も行っていない。
少し怖いが、そろそろ行ってみてもいいかもしれない。
どんな町か気になるし。
「町に行ってみたいです。」
「そうか。楽しんでくるといい。ソニアも行くか?」
「私はいいや。」
ソニアは興味がないのか、そっけない返事をした。
そして僕とアイリスは町に行くことになった。
〜
ペトロフ王国と呼ばれる国のとある町に着き、町中を二人で歩いていた。
着いたと言ってもアイリスさんの転移魔術で来たのだが。
多分アイリスさんもルイザさんと同じすごい人だ。
ちなみに転移するときに抱きしめられてドキッとした。
「町に来たね。アルフくんはどこか行きたいところはある?」
そんなことを言われてもすぐには思いつかない。
「特に思いつかないです。アイリスさんは何か目的があってここに来たのでは?」
「別に目的なんてないよ~。」
「そうなんですか?」
アイリスさんは気分屋なのかもしれない。
アイリスさんが以前ルイザさんの家に来たときはただ遊んだだけで帰ってた気がする。
それにしても知らないものばかりだ。
色々な建物があるが、なんの建物か分からない。
周りを歩いている人はみんな人間なのだろうか。
中には耳が特徴的な人や身長が周りより低い人がちらほらいる。
ああいう人は違う種族なのだろう。
「アルフくんって人族についてまだ知らないことが多いよね?」
「はい、そうだと思います。」
「じゃあ図書館に行ってみようか。」
そう言って二人は図書館に向かっていった。
二人は図書館に着き、本を漁っていた。
「アルフくん、これとか読みやすくていいと思うよ。」
彼女から一冊の本を渡されたので冒頭を少し読んでみる。
四人の英雄が協力しながら敵を倒す英雄譚だ。
少し気になる。
「この本、気になるので読んでみますね。」
「それは良かった。私は別の本を読もうかな。」
そう言うアイリスは既に何冊か本を持っている。
僕とアイリスは静かに本を読み始めた。
中々面白かった。
四人の英雄が七人の敵を倒す話だった。
童話かと思ったが、どうやら実話をもとに作られているらしい。
中にはまだ生きている英雄もいるのだとか。
本当だろうか。
二人は図書館を出て大きな道を歩いていた。
「たまには読書もいいでしょ?色々知識も増やせるしね。」
「はい、楽しかったです。」
「それは良かった~。」
そう言うとアイリスは僕の頭を撫でてくる。
ちょっと恥ずかしいけど意外と心地いいんだよな、これ。
ふと気づくと周りからいい匂いがする。
そこには道に沿って露店が並んでいた。
「ちょっとお腹が空いたから何か食べよっか。」
「はい。」
そう言って歩いていると、懐かしい露店を見つける。
「あれを食べたいです!」
アルフは指を指しながら言った。
店員さんは肉を串に刺して焼いていた。
懐かしい。
初めてルイザさんと出会ったときに食べたものだ。
「あのお店ね。じゃあそこにしよっか。」
人数分の串を買い、二人は歩きながら食べた。
「これ、初めて食べたけど美味しいね!」
「はい、とても美味しいです!」
ふとルイザさんと初めて出会った頃を思い出す。
「あの、アイリスさん。行きたい場所があるのですが。」
あそこにも行ってみようかな。
〜
とある店の扉を開け、中で何か作業をしている人の元に歩いていく。
「お久しぶりです。」
声に気づいたのか、中の人はこちらに振り向く。
「いらっしゃいませ……って、お前、まさか……」
「はい、元奴隷だったアルフです。あのときは拾ってくださりありがとうございます。」
「あのときの坊主か! 久しぶりだな〜! あれ、ていうか、言葉話せるようになったのか?」
「はい。あの後色々ったので。」
話している相手は身長がやや低く、小太りな男性だ。
彼は最初にアルフを拾ってくれた二人のうちの片方である。
奴隷に対して悪い印象を持つ者は多い。
しかし、言葉が通じなかった頃のアルフにとって、自分を奴隷にしてくれた彼は命の恩人であった。
「そうか~色々あったのか~ってお前、とんでもない美人さんといるじゃねえか!」
「こんにちは〜。アイリス・グラッドストンと申します。」
「あっ、いらっしゃいませ。私はヘイデン・ルーブルと申します。」
二人は軽く挨拶を交わす。
「羨ましいな〜坊主。坊主を買った人といい、坊主には何か美人を惹きつけるものでもあるのか?」
「それはどうでしょうね……ところで、もう一人いると思ったのですが……」
そう言ってあたりを見渡すが、この部屋には、今いる三人以外は誰もいない。
奥の方にいるのだろうか。
「ああ、リオネルさんか。坊主を拾ったもう一人のことだろ?」
「はい、そうです。」
リオネルと言うのか。
「リオネルさんは首都の方に行っちまったなあ。ここにはもういねえ。」
「そうだったんですか。」
直接会って拾ってくれたお礼を言いたかったのだが……仕方ない。
「どうだ、どうせなら奴隷でも見ていくかい?」
「すみません、今日は挨拶をと思って来ただけなので。」
「そうか、じゃあまた今度必要になったら来てくれ!」
「はい、お邪魔しました。」
そう言って二人は店を出た。
「あれだけでよかったの? もうちょっと話しててもよかったけど。」
「いえ、向こうに迷惑をかけるわけにもいかないので。」
道を歩きながらアルフとアイリスは話していた。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか。」
「はい、そうしましょう。」
いつか自分が奴隷を買う日は来るのだろうか。
自分はルイザさんに買ってもらって助けられたから、次は自分が助ける番になってもいいかもしれない。
日が暮れてきたので、家に帰ることにする。
帰りも転移魔術だ。
転移するときもアイリスさんに抱きしめられてドキッとした。
いつか理性が爆発するかもしれない。
そう思いながら家に帰っていった。




