表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/47

第四話 森の中

 ルイザさんの元で暮らし始めてから一ヶ月が経った。

 言葉は多少理解できるようになってきたが、まだまだ会話ができるレベルではない。

 そのため、ソニアと話すことはない。

 彼女のことはよく分からない。

 態度を見るに、少なくとも嫌われてはなさそうだ。


「だいぶここの生活に慣れてきたんじゃないか?」


 ルイザはそう言うと、テーブルに置いてあるパンを口に運ぶ。

 今は三人で夕食をとっている最中だ。


「そうですね。まだ分からないことも多いですが、楽しく暮らせています。」


 この場所は森に囲まれている。

 今までずっとここにいるが、ここから出たことがない。

 一体周りはどうなっているのだろうか。


「ルイザさん。僕、森の中に入ってみたいです。」


ルイザとソニアがわずかに反応を示す。


「そうか。じゃあ明日にでも行ってみようか。」

「え、いいんですか?」

「ああ、いいよ。私と二人で行こうか。」

「ありがとうございます!」


 こうして僕とルイザさんは森の中へ行くことになった。





 アルフとルイザは森の前に並んでいた。

 二人はローブをまとい、背中にはバッグを背負っている。

 ソニアは一人で修行に励んでいた。


「ソニアは一人でいいんですか?」

「彼女は大丈夫。一人でやれることもたくさんあるからね。」


 ルイザは続けて思い出したかのように言う。


「森の中には強力な魔獣は基本的にいないけどいるかもしれない。」


 魔獣についてはある程度知っている。

 生き物が大量の魔気を浴びることで魔獣となる。

 魔獣はとても強力で危険だ。

 実際に会ったことはないが。


「アルフが魔法を上手く使えれば倒せるだろう。」


 以前、ルイザさんに魔法を見せたことがある。

 きっとその時のことを思い出しているのだろう。

 とても驚いていた記憶がある。


「だけど、魔獣は手ごわい。君が死ぬ可能性もある。」


 ルイザは真剣な眼差しでこちらを見ている。

 初めて死ぬかもと言われてアルフはゾッとした。


「まあ私が守るから大丈夫だけどね。安心して。」


 ルイザさんがそう言うなら大丈夫なのだろう。

 アルフとルイザは森に向かって歩き出した。


 森の中に入ってから十分くらい経っただろうか。

 木々が生い茂っており、まだ午前中だというのに薄暗い。

 ルイザの魔術で作られた浮かぶ球体は光を発しており、あたりを照らしている。


「ほら、これを見てみて。」


 そう言うとルイザはしゃがみ込み、地面の方を指さした。


「この左側の草が薬草でポーションの素材にできるんだ。右側の草は似てるけどただの雑草だね。」


 ルイザは2つの葉っぱをめくり、裏側を見せる。


「ほら、ここの模様が違うでしょ?こういう知識は知っておいて損はないよ。」

「なるほど。こういう知識があれば一人になってもなんとかなりそうですね。」

「その通りだ。私も冒険者の頃、こういう知識に何度も助けられてきた。」


 ルイザは昔を懐かしんでいるようだ。


「どうせだからここらへんの薬草を採っておこうか。後々使えるかもしれないからね。」

「はい! ここらへんに薬草を取り尽くしちゃいましょう!」


 そう言って二人は薬草を集め始めた。





 どれだけ薬草を集めたのだろうか。

 意外と薬草集めは楽しい。

 薬草集めに没頭し過ぎたせいか、気づいたらルイザとはぐれていた。


「あれ、ルイザさん? どこに行ったんだろう。」


 あたりは薄暗い。

 アルフが手を正面にかざすと、あたりが明るくなっていった。

 アルフは光の魔法を多少ではあるが使用することができる。


「どうしよう。」


 とりあえず薬草を集める。

 バッグから溢れてきそうだ。


 ガサガサ


 草むらから音が聞こえた。

 アルフは思わず音のなる方へ注目した。

 すると、草むらから小さな生物が現れた。

 白い毛並みで耳が縦に長い。


「うさぎだ。」


 かわいい。

 家で飼えるだろうか。

 そう思っていると、うさぎの上から何かが落ちてきたように見えた。


「え?」


 上から落ちたように見えたものは、巨大な頭だった。

 頭が上にあがっていく。

 その頭から血が滴る。

 食べたのだ。

 うさぎを。


「グルルルルルルッ」


 これはヤバい。

 薄暗いせいで全体像は見えない。

 ただ、凄く大きいことは確かだ。

 アルフは後ろを向き、駆け出した。


「グルルアアァァァッ!!」

「うおおおおぉぉぉぉ!!」


 絶対追ってきてる!!

 止まったら死ぬ!!

 止まらなくても死ぬかも!!

 やばいやばいやばいやばい!!

 そうして走っていると、足に何かが引っかかるのを感じた。


「あれ?」


 顔面から地面に倒れ込む。


「ぐふうううっ!?!?」


 森に慣れていないせいか、アルフは木の幹に足を引っかけたのだ。


「グルルオオオオォォ!!」


 思わず声のする方を見てしまう。

 それは、巨大な熊だった。

 体長は五メートルはあるだろうか。

 そんな化け物がアルフを食べようと顔を近づけた。

 思わず、アルフは目をつむってしまった。

 しばらく経って、目を見開く。

 巨大な熊はアルフを襲っておらず、別の方向を向いていた。

 そこには人影があった。


「アルフ! 大丈夫!?」


 そこにはルイザがいた。

 

「ルイザさん!」


 ルイザは腰につけた剣を取ると、巨大な熊に向かっていく。

 その動きに反応するように、巨大な熊もルイザに向かって四本の足でかけていく。


「グルルオオオオ!!」


 熊の右手がルイザに向かって飛んでいく。

 ルイザはその攻撃を避けるとそのままふところに飛び込み、剣を振るう。

 ルイザの剣によって熊の腹から血が流れる。


「ガアアアアァァ!!」


 痛みのせいか、熊は暴れだす。

 ルイザはとっさに後ろに飛んだ。

 熊は着地のタイミングを狙うように腕を振るう。


「ルイザさん!! 危ない!!」


 とっさにルイザは熊が降っている腕に手をかざした。


「アイススピア!」


 瞬時に魔法陣を形成し、熊の腕に氷の槍を飛ばす。

 氷の槍は熊の腕に刺さった。


「グアアアアァァ!!」


 熊は痛みに悶える。

 ルイザはチャンスとばかりに熊に向かって飛び、剣を振るった。

 ルイザの剣は熊の首を両断し、首を失った熊はその場に倒れ込んだ。

 敵を倒す姿は凄いとしか言いようがなかった。

 ルイザはすぐに剣を鞘に納めると、座り込んでいたアルフに寄ってくる。


「大丈夫!? 怪我はない!?」


 ルイザはアルフの全身を触る。


「はい、ルイザさんのおかげで助かりました!」


 ルイザは安堵したように一呼吸を置いた。


「それは良かった。まさか魔獣が出てくるなんて……ごめんなさい。」


 そう言うとルイザはアルフを抱きしめた。

 そういえば最初に出会ってルイザさんが転移魔術を使ったときにも抱きしめられたっけ。

 懐かしいし、ドキドキする。

 でも、あの時よりも強く抱きしめられている気がする。


「私……森がどういうところか知ってもらおうと思ってアルフを一人にした……でも、間違ってた……」


 ルイザの肩が震えている。

 そうか、ルイザさんは僕のことを危険に晒したことを悲しんでいるのか。

 ルイザさんがここまで心配してくれるとは思っていなかった。


「そんなことないですよ。僕は一人になって森の危険さを知ることができました。」

「アルフ……」


 ルイザの腰に手を回し、軽く抱きしめた。

 もちろんアルフの心臓はバクバクである。


「ルイザさんの剣、かっこよかったです。もちろん魔術も凄かったですが。」


 場違いなことを言っているのだろうか。

 しかし、これは本当に思ったことだ。


「ルイザさん、帰ったら、僕に剣術も教えてくれませんか? 僕もルイザさんみたいに、かっこよく敵を倒したいです。」

「ふふっ、そうね。」


 ルイザはゆっくりとアルフから離れた。

 ルイザと目が合う。


「剣術も教えてあげる。家に帰ろうか。」

「はい、分かりました。ありがとうございます!」


 二人は立ち上がる。

 目の前には魔獣の死体が転がっていた。


「あの、この魔獣はこのままでいいんですかね?」

「え? そうね、この魔獣の爪とかは貴重だから回収しておこうか。」


 二人は魔獣から素材を回収すると、家に向かって歩き始めた。

 ルイザさん、かっこよかったな。

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ