第四十五話 再会
「……どちら様ですか?」
「エマ……僕だ」
「アルフ……さん?」
最初に何を話すべきだろう?
そもそも今すぐに部屋に入るべきか?
「……何をしに来たんですか?」
「……あのことを謝りに来た」
そうだ、謝りに来たんだ。
エマを殺そうとしたこと。
あの日犯した過ちは決して許されるものじゃない。
「そんなこと、思い出したくないです」
……そうか。
確かにそうだ。
僕だって思い出したくないのに、被害者ならなおさらだ。
どうすればいいんだろう。
しばらく沈黙が続き、僕は扉に背中を預けて廊下に座り込んだ。
「最近の生活はどう?」
「……それなりに上手くやっていると思います」
「教会ではどんなことをやっているの?」
「それは言えません」
会話が続かない。
こういうときだと、何を話せばいいのか分からなくなる。
「……エマ、すまなかった」
エマから返事は帰ってこない。
「僕は、エマと出会えて良かったなって思ってるんだ」
今はただ素直な気持ちを伝えよう。
「確か路地裏で困ってたところを僕が助けたんだっけ。その後に仲間になるなんて最初は思っていなかったな」
「…………」
懐かしいな。
「ソニアと皆で装備を買いに行ったこともあったよね。あの時さ、エマが全身鎧を着てきてさ、僕びっくりしたんだよ?」
昔を思い出して思わず少しだけ笑ってしまう。
「初めて皆でご飯を食べようってなったときさ、ソニアも含めて三人で仲良くなれたらいいなって思ってたのにさ、僕の知らないところでエマとソニアが仲良くなっててさ、ちょっと置いていかれた気持ちになったこともあったんだ」
「…………」
お酒に少しやられたりしたけど、結果的にあのご飯会は成功だったな。
「冒険者の依頼をこなすときさ、エマは僕やソニアに中々ついていけなくて大変だったよね。でもね、治癒術師がいるってだけで僕とソニアは安心して行動できた」
また、エマとソニアと僕の三人で一緒に何かをしたいな。
「……アルフさんはなんで、私を殺そうとしたんですか?」
「それは……あのとき、僕が何なのか分からなくなった。なぜ僕が戦っていたのか、なんのために行動していたのかが。それで多分、おかしくなったんだ」
自分で何を言っているんだろうと思う。
ただ、これが自身の本音だ。
「ここからは僕のわがままだけど、また一緒に冒険者をやらないか? もちろん、あんなことがないように全力を尽くす」
傲慢だ。
あんなことがないように頑張るなんて何の保証もない、薄っぺらい口約束。
エマからしてみれば、常に命の危険にさらされるようなものだ。
「…………」
エマからの返事は帰ってこない。
「……エマは、今の生活楽しい?」
「ええ、まあ、楽しいです、かね? 教会の人は私に役割をくれて、私が求められてるんだなと感じることがあります。だから、ここの生活で満足です」
そうか。
エマはこの生活に満足しているのか。
「それならもう、僕から言うことはないかな」
「…………嘘です」
え?
「今の生活なんて全然楽しくありません。アルフさんやソニアさんと一緒にいた方がずっと楽しかったです」
そう思っていたんだ。
「なんで…………こうなっちゃったの…………? 私はただ、アルフさんやソニアさんと一緒にいるだけで良かったのに」
「……ごめん、エマ」
「そうです! 本当に反省してください!! あなたのせいでこんなことになったんです!!」
彼女の大きな声が響く。
それがエマの本心なんだ。
「私、路地裏で初めてアルフさんと出会ったとき、運命だと感じたんです!! ソニアさんは最初、凄いけどよく分からない人で、話してみたらとてもいい人だったですし!!」
「…………」
「アルフさんはなんで私にあんな怖い思いをさせたんですか!! おかげでずっとあの光景がちらついて、その度に怯えてたんです!!」
「……ごめん」
それしか言うことができない。
「でも、それでも、アルフさんのことを嫌いになったことはありませんでした!! 私でもどうかしてると思ってますけど、またアルフさんと一緒にいたいと思ってしまうんです!!」
「なんで……僕についていきたいって思うんだ?」
「そんなのっ、アルフさんが好きだからに決まってるじゃないですか!!」
……ん?
聞き間違い、だったりする?
今、僕を好きって言わなかったか?
「……アルフさんは、また私と一緒に冒険者をやりたいんですよね?」
「うん」
「なら、私を連れだしてください。私は声を出しすぎて疲れてしまいました」
なんだその理由は。
扉の前で立ち上がり、ドアノブに手をかける。
ゆっくりと扉を開けると、そこにはベッドの上にちょこんと座っているエマの姿があった。
「……お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。と言っても一、二週間くらいだと思うけど」
「確かにそうですね」
ああ、エマだ。
小さなその体、緑色の髪、頭頂部ではねているアホ毛。
エマ本人だ。
…………あれ、なんだか視界がぼやけてきた。
「アルフさん、なんで泣いてるんですか?」
僕、泣いてるのか?
「なんでだろう、よく分からない。でも、僕、もうずっとエマに会えないんじゃないかって思ってて、でも、今こうして会えてて……」
涙がぽたぽたと地面に落ちてしまう。
目元をぬぐって、すぐにまた目元が濡れてしまう。
なんだ、これ?
こんなこと、今までなかったのに。
「なんで、なんでアルフさんが泣くんですかあ、私だって、ずっと辛かったのに。う、う、うわああああああああん!!」
泣き叫ぶエマをそっと抱き寄せる。
「エマ、ごめん。僕が悪かった」
「もういいです!! 全部許します!!」
「ありがとう」
そして、お互いが落ち着くまでずっと抱きしめあった。




