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第四十三話 決意

「ねえアルフ。どこに向かってるの?」


 少女がこちらを見つめてくる。


「えっと……分からない」


 今、僕とリネットは首都内を目的もなく周っていた。

 いや、目的がないわけではない。

 ただ、その目的が僕の中でずっと揺れ動いているんだ。


「私、疲れた」


 当然だ。

 ほぼ毎日のように人混みを避けて歩いているのだ。

 それに、リネットはまだ子供なのだ。


「ごめん。でももうちょっと付き合って欲しい」


 もう少しで、目的が定まる気がする。

 だからそれまで一緒にいて欲しい。

 一人は、なかなかキツい。


「いいけど、その代わりに後で美味しいご飯ちょうだい」

「うん、いいよ」


 と言っても、お金は結構使ってて残りもそんなに多くないのだが。

 もしかしたら彼女はご飯が生き甲斐なのかもしれない。


「お、アルフじゃないか。一体どこに行ってたんだ」


 それは突然だった。

 不意に後ろから話しかけられたのだ。

 ふと振り返ると、そこには白い長髪をなびかせている、一人の女性がいた。


「ルイザ……さん……」


 もう少し時間を置いてから会いたかった。


「随分と探したよ。アルフになにかあったんじゃないかてずっと思ってたんだからな」


 ああ、今すぐ逃げ出したい。

 何でこんなところで会ってしまったんだ。

 僕はまだ、彼女に合わせる顔がない。


「ところでそこの少女はどうしたんだい? 見たことない顔だが」

「彼女は……偶然会って、それで……」

「……そうか」


 ルイザさんの言葉が重い。

 その一言一言に何か意味を含んでいる気がする。

 

「ここじゃなんだし、家で話そうか。少し歩けば着くしね」


 そう言ってルイザさんが歩き始めた。

 ルイザさんについていくべきだろうが、気が進まない。

 今からどこかに走り出したら少しは落ち着くのだろうか。

 そんなことを考えていると、右手に温かいものを感じた。


「アルフ、大丈夫?」


 リネットが僕の手を握ってくれたのか。

 なんだか心が落ち着く。


「ああ、大丈夫。じゃあ行こうか」


 そう言って僕とリネットはルイザさんについていった。


 家に着き、ルイザさんと向き合うようにして僕とリネットは椅子に座った。


「アルフ、冒険者はどうだ?」

「冒険者、ですか。それなりに楽しいです」


 すべてが楽しい訳では無いが、冒険者になったことで新しい出会いもあった。


「そうか、それは良かった」


 ルイザは静かに、そう答えた。


「ところでアルフ。どうやら魔族が現れたという話を聞いたのだが、もしかして君のことか?」

「それは……どうでしょう」


 多分自分のことだ。

 しかし、どう答えれば良いのか分からなかった。

 とっさに僕は話題を変えることにした。


「ルイザさんは、最近は何をしているんですか?」

「今はブラックヘルの居場所を見つけようとしているところだ。魔獣が現れる前は根源悪の件について色々動いてたな」


 根源悪か。

 確かダンジョンのときに少し聞いたが、ほとんど覚えていない。


「ところでアルフ、何だか顔色が悪いぞ。大丈夫か?」

「そう……ですかね。大丈夫、です」

「……そうか」


 ああ、なんだかルイザさんに自分を見透かされている気がする。

 なぜかは分からない

 自分の心臓の鼓動がどんどん大きくなっているようだ。


「ルイザさん」

「なんだ?」


 言おう。

 もしかしたらルイザさんは怒るかもしれないし、愛想を尽かすかもしれない。

 でも、いま言うべきな気がした。


「もしも、僕が最低なことをしたらどう思いますか?」


 はっきりとは言えなかった。


「最低なこと……か」


 ルイザが考え込むようにして顎を触る。


「まあ生きていればそういうこともあるかと思うだろうな。もちろん叱るべきなんだろうけど」


 想像と違って随分とあっさりした答えだ。


「もしかして何かやらかしたな?」

「……はい」


 やっぱり正直に言うべきか。


「僕は……仲間を殺そうとしました。いや、実際に殺しているのかもしれません」


 嘘偽りなく言う。

 やはりこういうことを言葉にするのはだいぶ辛い。

 エマの首を締めていたときを思い出してしまう。

 エマの肌の感触、とても苦しんでいる顔、途切れ途切れに発せられる声、何かを訴えかけるような目。

 まるで昨日のことのようで気持ち悪い。


「それは……また繰り返すのか?」

「……分かりません」

「アルフ、お前の気持ちに聞いているんだ。また繰り返すのか?」

「それは……繰り返しません」


 あんなこと、二度と起こしたくない。


「そうか、それなら大丈夫そうだな」

「そうですか?」

「ああ、大丈夫だ。それに、私だって人に言えない失敗はある」


 ルイザさんも失敗するんだ。


「まあアルフはまだ若い。失敗から学ぶこともあるさ」

「それでも……もう手遅れなんです」


 なぜ彼女はそんな簡単に言えるんだ。

 仲間が死んだら、終わりじゃないか。


「アルフ、君にとって仲間とはなんだ?」

「仲間、ですか? それは……一緒に行動して苦楽を共にする味方、ですかね?」

「そうだ。そして、仲間とは、命を預け合うものだ」

「命を……預け合う……」


 そういう……ものなのか。


「冒険者にとっては、自分のせいで仲間が犠牲になることなんてよくあることなんだ。本当の仲間は、それを理解している。だから冒険者は皆こう考えるんだ。自分が死ぬのは自分のせいだと」


 でも……それは酷すぎないか。

 エマがああなったのは、全てエマ自身のせいだと言っているようなものじゃないか。

 僕が暴走したせいなのに。


「なんとなくアルフの考えは分かる。自分のせいで仲間が傷ついたのに何を言っているんだって感じだろう?」

「……はい」


 やっぱりルイザさんに見透かされている。


「今言ったのはあくまで一般論だ。アルフ、自分のことは自分で決めろ。そして、覚悟を決めろ」


 覚悟を……決める……


「私から言えるのはそれだけだ。大丈夫だ。まだやり直せる」


 やり直せる?

 ルイザさんがそう言う根拠が分からない。

 だけど、なぜだかルイザさんの言葉を聞くと安心してしまう。


「まあでも、今の僕の姿だと色々問題が出てきそうですが」

「ん? 何が問題なんだ?」

「え? だって僕、角が生えてて」

「いや、はたから見れば普通の人間だぞ?」

「え?」


 ふと自分の頭を触ると角は元に戻っていた。

 それに、尻尾も飛び出していない。


「ふっ、どうやらたった今、問題の一つが解決したようだな」

「はい、そうみたいですね」


 自然と少し笑顔になってしまう。

 ルイザさんがいれば、間違えた道を進むことはない気がする。

 ルイザさんといい、アネットといい、ジェイクといい、僕は助けられてばかりだ。


「ルイザさん、ありがとうございます。悔いのないように行動しようと思います」

「ああ、そうするといい」


 そういったところで、隣から何か音が聞こえてきた。

 隣を見ると、リネットがお腹をさすっている。


「アルフ、お腹空いた」


 ああ、リネットは相変わらずだな。


「よし、じゃあご飯にでもしようか。私が準備してやろう」


 その言葉を聞くと、リネットの口角がつり上がるのが見えた。

 とても嬉しそうだ。


「ありがとうございます」

「ああ、それと、その少女のことも私に教えてくれよ?」

「はい、もちろんです」


 ここからは、後悔のないように行動しよう。

 僕はそう心に誓った。

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