第四十一話 エマ1
エマ視点
目を覚ますと、見覚えのある白い天井が見える。
「エマ……やっと目を覚ましたわね」
「……ソニア……さん?」
この天井はあまり好きじゃない気がする。
「ソニアさん……ここって?」
「教会よ」
やっぱりそうなんだ。
ところでなんで私はここにいるんだろう?
今までのことを思い出す。
確かソニアさん、アルフさんと一緒に町の見回りをしてたんだっけ?
それで、アルフさんと二人になって、獣人の人と会って……
「あ、あ、あ、あ」
思い出した。
アルフさんが魔族で、私を殺そうとして。
ただベッドで寝ているだけなのに胸が苦しくなってくる。
慌てて何度も自分の首を触り、引っ掻き、両手で掴んでしまう。
「エマ!!」
ソ、ソニアさん……私の手を掴んでくれた。
「大丈夫だから」
そう、ですか。
エマさんの言葉はなんだか信頼できる。
私はソニアさんに聞かないといけないことがある。
「あの、ソニアさん。アルフさんって……」
ソニアは黙ったまま何も言わなかった。
やっぱり、私の記憶は本当なんだ。
「とりあえず、もうちょっと休んでなさい。私もいるから」
「ありがとう、ございます」
ソニアさんがいれば……きっと大丈夫。
そう思って私は再び深い眠りについた。
~
私は、元々孤児院にいました。
物心ついた時から親がいなくて、少し寂しいと思うことはありましたが、私は孤児院での生活だけで十分でした。
私は、助けることが好きでした。
路地裏に捨てられているペットがいれば、私の分の食べ物をあげることはよくありました。
そんな私は、いつしか教会という存在に興味を示すようになっていました。
教会では、怪我をした人々を癒やし、完治した人を見送っていました。
私も人々の手助けをしたい。
そう思い、ある日私は教会の扉を叩いたのです。
「おや、どうしたんだい?」
教会の中から白いローブを着た男の人が出てきました。
「私も教会で働きたいふぇす!!」
舌を噛んでしまって恥ずかしかったけど、男の人はこころよく受け入れてくれました。
教会で働けば、たくさんの人を助けられると思っていました。
教会でたくさんのことを学んで治癒魔術も習得して、怪我をした人々を助ける用意はできていました。
……でも、私が人々を癒やすことはありませんでした。
私が治癒魔術を発動する相手は人ではなく、死にかけの犬や猫でした。
ときには動物の死体に治癒魔術を使うこともありました。
もちろん死体に治癒魔術をかけても意味はありません。
あくまで治癒魔術は傷を癒やすものですから。
何度もボロボロの動物や死体を見るたびに、私はトイレに駆け込んでいました。
それでも、立派な治癒術師として人々を助けるのに必要だと思い、頑張ってきました。
ある日、私は教会の人に聞いてみました。
「あの、なんで私はこんなことをやっているのですか?」
教会の人はさも当たり前かのように答えます。
「それは、あなたがが聖女の生まれ変わりだからです」
意味が分からなかったです。
私が聖女の生まれ変わりなわけがありません。
でも、なんだかこの頃から教会の人が怖くなってきてそう答えることはできませんでした。
ある日、いつものように頑張ってボロボロになった動物を治癒しているときでした。
「聖女様。こちらの人間をお救いください」
そう言って教会の男が連れてきたのは……すでに死んでいる人でした。
教会の人は、手足をだらんと垂らしている死体を真顔で抱えていたのです。
私は怖くなって、その日初めて教会から逃げ出しました。
教会から逃げ出した私は当然お金を稼ぐ手段を持っていませんでした。
なので、冒険者ギルドで冒険者登録をして冒険者になりました。
それくらいしか思いつかなかったからです。
私は運動が苦手でDランクからのスタートでしたが、治癒術師が珍しいからか、いくつかの冒険者パーティーに声をかけてもらってました。
でも、教会での記憶のせいで、人を信頼することができず、パーティーに入ることはありませんでした。
ある日、路地裏で教会の人に出会ってしまい、連れて行かれそうになったことがありました。
その時に助けてくれたのがアルフさんです。
私はその時、私に白馬の王子様が来たのだと思い、一目惚れをしてしまいました。
当然です。
私は今まで可哀想な目にあってきたんですから、そろそろ幸せになっていいと思います。
それからはアルフさん、ソニアさん、私の三人でパーティーを組んで一緒に行動をするようになりました。
最初は辛かったです。
アルフさんもソニアさんも私より全然動けて、私が足を引っ張っているのは明確でした。
でも、辛いと同時に楽しいとも思っていました。
好きな人と一緒に行動できるんです。
こんなに幸せなことは他にあるのでしょうか?
まあ正直、ソニアさんには嫉妬をしていましたが。
だって、アルフさんと一緒に暮らしてるんですよ!?
ずるいじゃないですか!!
私だって同棲とかに憧れちゃいます!!
ある日、私達三人でご飯を食べようという話になりました。
このタイミングならアルフさんとたくさんお話できるかもしれないと、わくわくしていました。
実際にアルフさんとはそれなりにお話をすることができました。
でも、私は見てしまったのです。
アルフさんとソニアさんがイチャイチャしているところを。
私がトイレから戻るときに、明らかに二人の距離が近かったのです。
もしかしたらその時が一番辛かったのかもしれません。
キュッと胸が締め付けられるような感じがして、すぐにその場から逃げ出したくなりました。
でも、私はそんなことで折れてしまう弱い女になるつもりはありません。
二人の距離がある程度離れたときに私は戻ってきました。
すると、アルフさんはお酒をどんどん飲み始めて酔い潰れてしまいました。
ちょうどよかったです。
ここからは女の戦いです。
「あの、ソニアさんは! アルフさんのことをどう思っているのですか!!」
直球勝負です。
「え? 仲間だと思ってるけど」
そんなありきたりな発言に逃げさせません!
「そうじゃなくて、男としてどう思っているかということです!!」
「男として? う~ん、親友、かな?」
ソニアさんの反応に動揺が見えません。
今言ってることが本当に思っていることなのでしょうか?
「あの、私は!! アルフさんのことを、一人の男として好きです!!」
勢いあまって本当のことを言ってしまいました。
恥ずかしくて顔がどんどん熱くなっていきます。
でも、もう言ってしまったんです。
後戻りはできません。
「ソニアさんには申し訳ないのですが、ソニアさんと真っ向勝負させてもらいます!!」
「え、真っ向勝負って……別にいいんじゃない?」
「え?」
別にいいとはどういうことでしょう?
私程度では相手にならないということでしょうか。
確かに、実際の強さでも、アルフさんとの関係でも、それに身体つきでもソニアさんに負けていますが……
「私とアルは仲間で、親友だから。それに私、恋愛って言うの? そういう感情がよく分からないのよね」
そ、そんな!?
恋愛というものを知らないなんて!?
「ソニアさん!! それは人生の半分を損していますよ!! いや、それどころか人生の半分以上かもしれない!!」
「え、半分以上!?」
珍しくソニアさんが驚いた顔をしています。
ここは私が恋愛について熱弁させていただきましょう!!
ついでに昔のアルフさんのこととかも聞き出しちゃいたいですね!!




