第三十九話 リネット
目が覚めると、見慣れない天井があった。
あれ、ここはどこだ?
確か昨日は…………
ああ、そうか。
いろんな人から逃げてきてこの家にたどり着いたんだっけ。
「ん~、う~ん」
ふと隣を見ると、そこには同じベッドで寝ている少女の姿があった。
なんで僕の隣で寝ているんだ?
というか、めっちゃいい寝顔をしている。
さぞかし快適に寝れたのだろう。
もしかして、昨日寝たときのあの暖かさは彼女だったのか?
もしそうだとしたら、感謝しかない。
「ありがとう」
そう言って、そっと頭を撫でておく。
まだ体にだるさは残っているが、十分な休息は取れた。
そのうち家主も帰ってくるだろうし、さっさと出ていった方がいいだろう。
少女を起こさないようにそっとベッドから出て準備を始める。
まだ角や尻尾は出ているため、それを隠せるような服装がいい。
ちょうどローブがあったので、それを着ることにする。
灰色のローブなので、ブラックヘルと間違えられることもないだろう。
僕は、これからどこに向かえばいいのだろう。
家に向かうべきか?
でも正直、ルイザさんやソニアにあまり会いたくない。
どんな顔をして会えばいいのかわからない。
そんなことを考えていると、不意に後ろから袖を掴まれた。
「もう大丈夫?」
あの少女だ。
いつの間に起きていたのか。
「うん……ありがとう」
そう言って少女の頭を撫でる。
昨日と比べて自分が落ち着いているのを感じる。
「僕はもうここから出ていくよ」
「あ……待って」
「ん? どうしたの?」
「……私も連れてって」
マジか。
昨日会ったばかりの少女にそう言われるとは思わなかった。
正直、あまりこの少女を連れて行きたくない。
もちろん、二人だと体力差があって行動しにくいのもあるが、何より僕が彼女を傷つけるかもしれない。
一人で行動したほうが気が楽だ。
「ごめん。君を連れて行くことはできない」
「え……う……う……」
え、この子、急に泣き出しちゃった。
なんでこうなったの?
どうしよう?
「もう……ここに……いたくない……」
ああ、そうか。
少女は多分奴隷で、酷い仕打ちを受けてきたのかもしれない。
よく見ると、殴られた後のようなものも見える。
もちろん、自分の思い違いかもしれないが、それでも少女の反応を見てしまったら、そう思わざるを得ない。
「……分かったよ。僕と一緒に行こうか」
「え、いいの?」
正直まだ不安はある。
「いいよ。じゃあ、行こうか」
「うん!」
心なしか少女が元気になった気がする。
二人は準備を終え、外に出た。
と言ってもどこに行くかもろくに決まっていない。
とりあえず、落ち着ける場所に行きたい。
一度首都から離れるか?
その方がいいかもしれない。
「あの……名前はなんて言うの?」
そういえば言ってなかったな。
「僕の名前はアルフ。君は?」
「私は……忘れた」
「え?」
忘れたってどういうこと?
普段から名前で呼ばれていなかったのか?
「じゃあ、リネットにしよう」
適当に考えた名前だ。
「嫌だったら後で考えるから」
「いや、その名前でいい」
どうやらお気に召したようだ。
できるだけ人に見つからないように路地裏を進む。
たまに人とすれ違うが、フードで隠れているのか、意外に魔族だと気付かれることはない。
路地裏から大通りの方を見ると、日中だからか、既に人が多くいた。
魔獣が発生したせいか、復興に取り組む人や見回りをする兵士がいる。
見回りの兵士が話しているのが聞こえてくる。
「なあなあ、聞いたか? 魔族の話」
「ああ、聞いたぜ。なんでも魔人と獣人が出たらしいじゃねえか。俺は魔族なんて見たことないけどな」
僕とジャレッドのことか?
「これってさ、もしかして宣戦布告だったりしないよな? だってさ、普通魔族がこの大陸まで来るなんてありえないだろ?」
「それは、分からん」
基本的に魔族は南大陸、人族は北大陸に住んでおり、大陸間の行き来はない。
だから兵士も不安に思っているのだろう。
「それによ、何よりヤバいのは、ブラックヘルとかいう奴らに禁術書を盗まれたそうじゃねえか」
「そうなんだよな」
禁術書?
それは初耳だ。
禁術は過去に封印された魔術だ。
そんなものが使われたら王国もただでは済まないだろう。
それって結構ヤバくない?
「もしかして、ブラックヘルと魔族って何か繋がってるんじゃないか?」
「う~ん、そう言われるとそんな気がしてくるな」
確か、ジャレッドは旅をしてここまで来たと言っていた。
ブラックヘルと魔族全体が関係を持っている可能性は低い気がする。
そんなことを考えていると隣からぐう~~、という音が聞こえてきた。
「アルフ、お腹すいた」
リネットの腹の音か。
子供がお腹を鳴らすのは何だか可愛らしい。
「じゃあ、ご飯にしようか」
とは言っても、どこで食事を取るべきだろう。
幸い、お金は肌見放さず持っており、食事を取るには十分な金額がある。
すると、リネットがぐいぐいと袖を引っ張ってくる。
「あそこで食べたい」
リネットが指差す先は、大通りに面しているごく普通の飲食店だ。
正直、露店でさっさと買って人のいない場所で食べたいが、まあ多分、フードを被っていれば僕が魔族だとバレないだろう。
多分。
「いいよ、じゃあ行こうか」
大通りを横断し、店内に入る。
店内は薄暗い雰囲気で、いくつかあるテーブルの内、一つだけ使われていた。
店内は僕達以外は店主と食事を取っている一人の冒険者だけだった。
「いらっしゃい。2名様かい?」
「はい」
「じゃあ好きな席に座ってくれ。頼みたいものが決まったら俺を呼んでくれ」
店主にそう言われ、僕とリネットは適当な席に座る。
すると、さっきまで食事を取っていた冒険者が立ち上がり、こちらに近付いてきた。
もうバレたか!?
そう思っていると、向こうから声をかけてきた。
「お前……アルフか?」
その声にはどこか聞き覚えがある。
「もしかして……ジェイクさん?」




