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第三十六話 戦う理由

 雨の音がうるさい。

 かなり強く降ってきている。

 この雨じゃ戦いにくいな。


「さあ、俺と戦おうぜ?」


 目の前の黒いローブをまとった巨大な男が言った。

 こいつは、以前追って逃した男だろう。

 こうして対面するのは初めてだが、身長が人間ではありえないくらい高く、体格もかなりしっかりしている。

 自分の1.5倍はあるのではないだろうか。


 男は背中に背負った二本の剣を抜き、両手で持った。

 それを見てすぐさま僕も剣を構える。

 それにしても奇妙な剣だ。

 男が持つ二本の剣刀身が真ん中辺りからそっており、剣がわずかに丸みを帯びている。


「エマ、下がってて」

「はい、分かりました」


 彼女は男から何かを感じ取ったのか、僕の後ろに隠れるような位置取りをする。


「いや〜お前、なんだか強そうだな。俺を楽しませろよ?」

「……お前は何者だ?」

「おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名前はジャレッド・テイラー」


 そう言って男は深く被ったフードを外す。

 そこには、人ならざる者の顔があった。


「まあ、いわゆる獣人族って奴だ」


 耳は尖り、狼のような顔立ちに、銀色の体毛で顔を覆っていた。

 なぜ……なぜ、獣人族がここにいるんだ!?

 獣人族は魔族であり、本来は別の大陸に住んでいるはずだ。


「おっ、お前。何か知ってそうな顔だな?」

「獣人族はこんなところにはいないはずだ!」

「俺は旅をしてここまで来たんだよ。強くなるためにな」


 そう……なのか。

 世の中にはこんなところまで来る魔族もいるということか。


「エマ、もしものときは……エマ?」


 後ろを見ると、彼女は青ざめた顔をしており、全身を震わせていた。


「そこの嬢ちゃんはだいぶビビっちまっているようだな」

「……エマ、大丈夫。僕が守るから」

「おっいいねえ。女を守ろうとする姿勢は好きだぜ?」


 わずかに顔を上げたエマと視線を交わすが、彼女の様子が変わることはない。

 獣人族というのはここまで恐れられているのか?


「おい、お前。こっちが名乗ったんだからお前も名乗れよ」

「……アルフだ」

「アルフ? どっかで聞いたことがある気がするな……まあ関係ねえか! さあ、戦いを始めようぜ! 俺を楽しませろよ」


 そう言ってジャレッドは両手をだらんと下におろす。

 一見隙だらけに見える姿勢だが、目に見えない力があるような気がする。

 強者が持つオーラというものだろうか。

 そんなもの今まで感じたことないが。


「なんだ、お前。来ないのか? 俺から仕掛けろってことか?」


 一見何もしていないように見えるが、実は既に魔法を発動させるために魔力を操作していた。

 相手はまだ僕が魔人族だということに気づいておらず、先手の魔法は確実に隙を作れるはずだ。

 

「お前がかかってこないなら、俺から行っちまうぞ?」


 タイミングを見誤るな。

 敵が突撃したときが一番避けにくいはずだ。

 打つとしたら、できるだけ強力な魔法だ。

 敵を燃やし尽くすような、炎だ。


「……仕方ねえな。俺から攻撃してやるよ」


 敵が動き出そうとしている。

 まだだ、まだ待て。

 魔法を打つタイミングは必ず来る。

 ……あれ? 

 敵がいない?


「な!?」


 突然殺気のようなものを感じ取り、慌てて剣で防御の姿勢を取る。

 キィーーーーン、と音を立てたかと思うと、すぐ目の前には右手の剣を振り下ろしたジャレッドがいた。


「ぐっ!!!!」


 剣が思い!?

 どれだけ力があるんだ!?


「おっ、これを防ぐとはやるじゃねえか! もっと耐えてくれよ?」


 そう言ってジャレッドが立て続けに剣を振るってくる。

 まずい、耐えられない!!

 魔法だ!!

 慌てて左手を敵にかざして魔法を放つ。


「うぉあ!? 何じゃそりゃ!?」


 マジか!?

 この近距離で避けるのか!?

 だが、何とか距離を離すことに成功した。


「お前……もしかして、魔人か?」


 バレてしまったか。

 こうなったか隠す理由もない。


「ああ、そうだ」

「そうか、だからお前魔法を放ったのか! それに、アルフという名前! そうか、そういうことか!! ガハハハハッッ!!」


 なんだコイツ、急に笑い出したぞ。


「まさか、こんなところで会えるとはな!! こんな偶然あり得んのかよ!!」

「なんだお前! どういうことだ!」

「あ? 教えてやってもいいが……やっぱり教えねえ。教えて変に意識したらお前に迷いが生じそうだからな!」


 明らかに僕を知ったような口ぶりだ。

 しかし、僕にはあいつと会った記憶がない。

 一体何を知っているんだ?


「さあ、さっさと続きをやろうぜ!」


 そう言って再び剣を振るってくる。

 こいつの剣、重くて速くてヤバすぎる!!

 両手で二本の剣を振ってくるし、その剣が曲がっているから微妙に防ぐタイミングがズレて変に体力を消費してしまう!!

 魔法と剣を併用することでギリギリで防げているが、やれるのは時間の問題だ!!

 一呼吸すら置けない状況で魔術を詠唱する暇もない!!

 どうする、どうする、どうする!!

 どうやったら、相手を倒せる!!

 何とか、こいつを倒さないと!!


「…………」


 何だ?

 突然攻撃が止まった?


「……お前、つまんねえわ」


 は?

 急に何を言ってるんだ?


「お前、何のために戦ってるんだ?」

「……どういうことだ?」

「俺はな、剣を交えた相手の考えをなんとなく感じることができるんだよ。それで、何のために戦ってるんだ?」

「それは……仲間を守るためだ」


 そうだ。

 今は後ろにエマがいる。

 僕は彼女を守らなければいけない。


「何を言ってんだお前? 後ろを見ろよ」


 ジャレッドにそう言われて後ろに振り向くと、そこにはうずくまったエマがいた。


「え、エマ!?」


 すぐさまエマの側に駆け寄る。


「エマ! 大丈夫!?」

「やだっ! 来ないで!!」

「えっ?」


 エマに手を払われてしまう。


「ア、アルフさん……ごめんなさい……」


 エマが青ざめた顔でこちらを見て、すぐに目をそらした。

 一体どうしたんだ?


「お前、まさか仲間に自分が魔族だってこと言ってなかったのか?」


 ジャレッドの発言に黙り込んでしまう。


「お前、マジか!! クソ野郎じゃねえか!」


 あれ、似たようなことを昔にも言われた気がする。

 確か、ダンジョンの中で。

 ルーファスに最低のクズって言われたんだっけ。


「いや、そんなつもりは」

「その嬢ちゃんは俺が怖くてすぐにでも逃げ出したかっただろうに、お前のそばにいたんだぜ!? それなのにお前、魔族だってことを隠すのは、嬢ちゃんを裏切ってるようなもんだぞ! ほら見ろ! 嬢ちゃんお前に対しても怯えてんじゃねえか!」

「黙れ!!」


 思わず叫んでしまう。

 大丈夫だ。

 僕とエマは一緒に冒険者をやっていて、信頼も厚いはずだ。


「ねえエマ、僕達、仲間だよね?」

「は、はい。そう、です」


 ああ、これは完全に怯えている。

 ジャレッドに対してではない。

 僕に対してだ。

 最初に魔族だってことを言うべきだったのか?

 ……というか、なぜ言わなかったんだ?

 僕とエマは仲間なのに。


「だからお前と戦ってもつまらなかったのか」

「どういうことだよ」

「お前、その嬢ちゃんのことを守ろうとしてなかっただろ」

「そんなわけあるか!!」


 僕は、エマを守ろうとして、こいつと戦っていた!!


「それなら、何で嬢ちゃんがうずくまっているのに気付かなかったんだ? 俺と戦っているときに他のやつが嬢ちゃんを襲ってたらどうしたんだ?」

「その時は僕が助ける!!」

「いいや、無理だね」


 僕ならできるはずだ!!

 ダンジョンのときだってソニアを救い出したんだ!!


「お前、どうやったら俺を倒せるかとかしか頭に無かっただろ? だから嬢ちゃんのことにも気付かなかった」


 そんなわけがない!!


「明確な目的のない力はゴミだ。なんの役にも立たねえ。お前は今まで何のために強くなったんだ?」


 何のために?

 それはエマやソニアを助けるためで、ソニアに遅れを取らずについていくためで、強い魔獣を倒すためで……稽古をするのが日常だったからで……そういえばだいぶ昔にお母さんから魔法を教えられたな…………あれ、強くなるきっかけはルイザさんに憧れたからだっけ…………?


「はあ、やっぱりな。どおりで力はあるのに弱っちい訳だ。赤ん坊みたいだぜ、お前」


 僕は弱いのか?

 確かにルイザさんやソニアには負けるし、他にも戦ったら負けるであろう人はいる。

 でも、一般人よりは強いはずだ。

 本気でやれば冒険者の中でも上位に食い込んでいける自信もある。

 Sランク冒険者を倒した実績だってある。

 

「僕は……弱いのか?」

「ああ、弱いね。大した目的もないただの木偶(でく)(ぼう)だ。はあ、戦って損した気分だぜ」


 でも、僕はエマや周りの人を助けようとして……

 あれ、助けようとしたんだっけ?

 僕は、ただこいつを倒そうとしてたんだっけ?

 でも、実際に助けた命もあった……よな?

 ん?

 多分、ちゃんと目的を持って戦っている……んだよね?


 ふと後ろを向くと、エマと視線が合う。

 エマはビクッと体を震わせてすぐに視線を下に向けてしまった。


 何で、守ろうとしている子が僕に怯えているんだ?

 あれ?

 守ろうとしてるんだっけ?

 えっと…………ん?

 何で僕…………戦っているんだ?

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