第三十三話 詠唱省略
「最近は冒険者になってみてどうだ? 新しい発見とかはあったか?」
ルイザはテーブルに乗っているクッキーを手に取りながら言った。
「いや、新しい発見とかはまだないですが、新しい仲間ができたんですよ!」
アルフは水を飲みながら答える。
「そうだったのか! 新しい仲間というのはどんな人なんだ?」
「その子がエマって言う子で……」
ルイザにエマがどんな人なのか説明をした。
「そうか! 治癒魔術を使うなんて珍しいじゃないか! 私でも使えないよ!」
「え、そうだったんですか!? つまり、エマって実は凄い子なんですかね?」
「珍しい子ではあるだろうね」
二人は家のテーブルに向かい合って座っており、お互いに会話を楽しんでいた。
最近ルイザさんは忙しくて日中にいないことが多かったが、今日はずっと家にいてくれるとのことだ。
ちなみにソニアは朝のうちにどこかに行ってしまった。
そこらへんでぶらぶらしているのだろうか。
「しかし、こうして二人で話していると出会った頃を思い出すな」
「そうですね。あの頃は誰とも話せなくてとても困っていました。ルイザさんには本当に助けられました」
「いやいや、アルフを拾ったのはある意味自分のためでもあるからな」
きっと魔法のことだろう。
結局彼女は魔法を習得することはできなかったが、魔法の仕組みを理解することが重要だと過去に言っていた。
ルイザさんは魔術の知識が凄いから何かが分かるのかもしれない。
「そういえば、アルフは禁術についてなにか知っているか?」
「え、禁術ですか?」
突然の話に少し戸惑ってしまう。
「えっと、禁術のことは深くは知りませんが、昔人族と魔族の戦争で使われた魔術ということは知っています。その魔術で、その土地が大きく変化してしまったとか」
「魔族でも禁術の知識はそこまでないのだな。それとも大人の魔族は知っているのか?」
「それは分かりませんが、どうして急に禁術の話を?」
「ああいや、そういえばこの王国が禁術書を持っていたと思ってな」
「え?」
王国が禁術書を持っているなんて初耳だ。
「知らなかったか? 昔の大戦争以降、禁術は大規模な環境破壊を引き起こすとして誰も触れない場所に保管されているんだ」
そんなものがこの国にあるのか。
「まあ君には関係のない話だろう」
「それもそうですね」
自分が禁術と関わるようなことをすることはないだろう。
「それで、ソニアさん。この後は……」
「ああ、分かっている。じゃあ、ちょっと外に行こうか」
〜
僕達二人は家の庭に移動した。
決して広い訳では無いが、狭いわけでもない。
丁度いい広さといえばいいだろうか。
「さて、じゃあ始めようか」
「はい、よろしくお願いします」
「まずは見ててくれ」
そう言ってルイザは少し離れた木に手のひらを向ける。
「ウォーターボール」
そう言うと魔法陣によって水球が形成され、木に向かって飛んでいき、木にぶつかると音を立てて散った。
「これがいわゆる詠唱省略というものだ。本来なら魔術を扱うには長い詠唱が必要だが、詠唱省略を習得すれば短時間で魔術を発動できる」
今日はルイザさんに詠唱省略について教えてもらうことになっている。
詠唱省略はかなり高度な技術で、使える者はごく僅かだ。
「まあ習得するにはしばらく時間がかかるだろうが、教えるタイミングとしてはちょうどいいだろう」
「はい」
基本となる魔術の属性は水、火、風の三種類で、その派生の属性もいくつか存在する。
自分は今のところ水、火、風、氷、光の五種類を扱うことができる。
と言っても、光魔術とかは少ししか使えないが。
また、魔術は初級、中級、上級の三階級に大きく分けられる。
上級よりも上の階級があるらしいが、そこらへんは教えることはできないらしい。
また、これらとは別の特殊魔術も存在する。
どがそれに該当する。
「さて、詠唱省略を習得するにはイメージが大切だ。詠唱でその言葉が持つ力を無理矢理引き出して魔術を発動するイメージだな」
そう言ってルイザは手のひらを上に向ける。
「初級魔術を例に出そうか。よく私の手を見てるんだ。……この身、この気に力を与え、」
そう言うと彼女の手の上にに魔法陣が作られ、何かが集まっているような感じがする。
はっきりと見える訳では無いが、何かを感じた。
「この場に水の精霊の力を借りん、」
次は、彼女の手に集まった何かが小さな水球へと形を変える。
「ウォーターボール」
その言葉と同時に水球が軽く打ち上がり、落下して地面と衝突した。
「見ていたか? こんな感じで、詠唱の節々には意味があり、魔術の発動をスムーズに行える。要は、今の工程を詠唱を介さずに瞬時に行うということだ」
なるほど。
少し魔法と似ている気がする。
魔法は、自分の魔力を上手く扱って発動し、詠唱を必要としない。
魔術の詠唱省略は空気中の魔気を魔力のように扱うということだろうか。
「試しにやってみます!」
そう言って先ほどルイザが水球を当てた木に手を向ける。
魔気を集め、水の球に変えて、それを飛ばすイメージだ。
「ウォーターボール!」
何も起こらない。
「ふふっ。まあこれに関しては練習を重ねて感覚を身につけるしかないからな」
やっぱり簡単にはできないようだ。
「最初は詠唱の一部分だけを削るというやり方がいいだろう。いきなり詠唱を全て省略しようとしてもイメージをつかめないだろうし」
これは、かなり練習が必要な気がするな。
「この後もやっていくか?」
「はい! 感覚を掴むまでやりたいです!」
「そうか。じゃあ私も見ていてやろう」
「ありがとうございます!」
その後も詠唱省略を何度も試し、少し感覚を掴んだ気がしたが、その日のうちに習得することはできなかった。




