第三十二話 見回り
ガヤガヤと冒険者達の話し声が聞こえてくる。
ルーカスとの手合わせがあった日の数日後。
現在、アルフ達を含めた冒険者がギルドのとある部屋に集められていた。
「冒険者達よ、私達の依頼に参加してくれてありがとう」
そう言っているのは冒険者ギルドのギルド長だ。
ギルドから発行された依頼を受けており、今回はその説明をするということで僕達は集められた。
「依頼の通り、君達には夜に首都の見回りをしてもらいたい。君達の担当は西地区だ。他の地区は地区ごとの冒険者ギルドに任せている」
この王国首都内には東西南北に一つずつ、計四箇所の冒険者ギルドが存在しており、僕達がいるギルドは西地区にある。
「一番の目的はブラックヘルの暗躍を防ぐことだ。ブラックヘルの団員だと思ったら生かして捕まえてほしい。ほとんどの団員は黒いローブを着ているとのことだ」
人間との戦闘も考えられるということか。
「ブラックヘルの目的はまだ分からないが、生きた魔獣を保有している可能性がある。その辺りも注意してくれ」
ソニアやエマも含め、周囲の冒険者が真剣な顔つきで聞いていた。
「見回りは今日の夜からだ。よろしく頼む」
その後、細かな説明を終え、解散となった。
「夜の見回りってなんだかわくわくしますね!」
エマのアホ毛がピョンピョンはねている。
機嫌が良さそうだ。
「そうだけど、危険もあるから注意しないと」
「そうですね! 注意します!」
元気なのはいいが本当に分かっているのだろうか。
「それにしても、首都内全体の見回りをするとは、結構大規模な依頼だね」
「そのくらい危険視してるってことじゃない?」
ソニアがそっけなく答える。
「確かにね。魔獣の存在が大きく影響しているのかもしれない」
ソニアぐらいのレベルなら魔獣をものともしないが、一般人にとっては脅威そのものだ。
そんなものが使われでもしたら大変なことになるだろう。
「とりあえず、依頼は夜からだから、それまではゆっくり休もうか」
「そうね」
そうしてアルフ達は夜になるまでそれぞれの時間を過ごした。
〜
夜になり、再び冒険者ギルドに向かう。
ソニアとエマが夜になるまで何をしていたかは知らないが、僕は家で寝ていた。
たまにする昼寝も中々に心地が良かったな。
「アル、来たわね」
「アルフさん!」
ソニアとエマは既に冒険者ギルドについており、準備も終わっているようだ。
「他の冒険者達は?」
「来た人は皆見回りに行ったわ」
「もう一回集まるとかはないんだね」
てっきりパーティーごとに見回る場所を指定するものだと思っていたが、そこまで細かな指示は出ないらしい。
「じゃあ早速僕達も行こうか」
「ええ」
「はい!」
とりあえず冒険者ギルドを出て外を歩く。
夜ということもあり、人通りは昼より少ない。
と言ってもまったくいない訳では無いが。
「見回りと言ってもどこに行けばいいんだろう?」
「どうでしょう? とりあえず怪しい人を探せばいいんですよね?」
エマがキョロキョロと辺りを見回している。
「人通りの少ない場所を探すのがいいでしょうね」
なるほど。
やはり何かが起こるとすれば路地裏とかだろうか。
「何か、いつもの依頼と違った雰囲気で楽しいですね!」
エマのアホ毛がぐるんぐるん動いており、機嫌が良さそうだ。
確かに普段の依頼は昼に行動することが多い。
違う時間帯だと感じるものも違うのだろう。
「この道を曲がるわよ」
ソニアの言葉で大通りを外れ、人通りの少ない道を進む。
普段はこういう道を通らないから以外に新鮮な気分だ。
「う~、人が全然いなくて少し怖いです」
「まあ確かに暗いしね」
「二人共、あまり気を抜きすぎないほうがいいわよ」
ソニアにそう言われて改めて気を引き締める。
「確かに、以前ソニアが戦ったダレルという男とまた会ったらまずいかもね」
仲間がいればやりようがあるかもしれないが、正直僕一人であれに勝てる気がしない。
「それもあるけど、あの男より強い奴がいない保証もないわ」
確かにそうだ。
ダレルの印象が強く、あれ以上の敵はいないだろうと勝手に思っていたが、根拠は何もない。
強敵と会ったときの対応策をちゃんと考えておくべきかもしれない。
「あの……そんなに強い人と会っても大丈夫ですかね?」
「私がいれば大丈夫」
その言葉にエマは安堵する。
ソニアの言葉はなんだか安心感が凄い。
そう話している時だった。
「ソニア。だいぶ先に誰かいる。一人だ」
「ええ、怪しいわね」
黒いローブをまとっていて、特徴はブラックヘルと一致している。
しかし、距離が遠いからだろうか、何か違和感を感じる。
「ソニア、あいつ、なんだか変じゃない?」
「変というか、デカいわね」
そういうことか。
自分の距離感がおかしくなったのかと思ったが、単純に相手がデカいのか。
「追うか?」
「……ええ。エマ、なるべく静かにね」
「はい」
ソニアはエマに注意したが、正直僕もあの男をしっかり尾行できる自信はない。
そんなことを考えながらも、相手に気付かれないように、なるべく遠くから跡を追う。
初めは静かに尾行できていたが、エマが小さな石を蹴飛ばしてしまう。
「あっ」
エマが慌てているところを見て、すぐに怪しい人に視線を向けると、怪しい人が立ち止まっていた。
「バレたわね」
ソニアが怪しい人に向かって走り出し、エマと一緒に慌ててソニアを追う。
怪しい人も走り出し、路地裏の曲がり角を曲がる。
ソニアが曲がり角にたどり着き、その場に止まった。
「ソニア! あいつは!」
「……見失ったわ」
路地裏を曲がった先は一本道だ。
どうやって逃げたのだろう。
「ソニアさん、アルフ、二人共、速いです」
エマが膝に手をついて呼吸を落ち着かせている。
尾行していた何者かはブラックヘルの可能性が高い。
しかし、見失ったのは仕方ない。
「ソニア、エマ。見回りを続けようか」
その後も路地裏を中心に歩いたが、怪しい人を発見せずに今日の依頼が終わった。




