第三十話 Sランク冒険者と手合わせ
魔獣討伐の依頼を達成し、アルフ達は冒険者ギルドの受付にいた。
「それではこちらが依頼の報酬になります」
そう言って受付嬢は大量の銀貨を渡してくる。
今まで低ランクの依頼ばかりなので、この報酬の量は中々凄い。
「ありがとうございます。それと、一つ話しておきたいことがあるのですが」
「はい、何でしょうか?」
「実は、魔獣を討伐したあとに起こったことなんですが……」
受付嬢に森の中で起こったことを簡単に話す。
「……なるほど。この後はお時間ありますか?」
「はい、大丈夫です」
「それでは、ギルド長の部屋にご案内致します。どうぞこちらへ」
そう言って受付嬢が立ち上がり、誘導してくれたので、ついていくことにする。
やはり結構大変なことが起こっているのだろう。
「あの、僕一人でも大丈夫ですか?」
「はい。他の方がついていきたいと言うのなら構いませんよ」
「仲間に確認を取ってきます。少し待っててくれませんか?」
「はい」
丸テーブルで待っているソニアとエマに一人でギルド長と話すことを伝え、一緒に来るか聞いてみる。
「私はそういうのは苦手だからアルに任せるわ」
「私もソニアさんと待ちます!」
彼女らの返事を聞き、受付嬢と共にギルド長がいる部屋に向かう。
部屋の前につくと、受付嬢がノックをした。
「ギルド長、例の件について新しい情報を持つ冒険者を連れてまいりました」
「入れ」
その一言を聞いて僕は部屋に入る。
受付嬢は中には入らないようだ。
部屋の中には、見たことのある人物が椅子に腰掛けていた。
「あなたは試験のときの……あなたがギルド長だったのですね」
「ああ、そうだとも。私がギルド長のアーノルド・ウィレムスだ」
アーノルドと名乗るこの男は、剣士としての試験を受けたときの試験官だ。
髭を生やしたおじさんで、試験のときにやけに風格があると思ったら、ギルド長だったのか。
「それで君がブラックヘルを目撃したのか?」
「ブラックヘル?」
「黒いフードを被った集団のことだ」
あいつら、そういう名前でやってるのか。
カッコいい名前で何やってるんだ。
「じゃあブラックヘルの情報を教えてくれるか? もちろん情報料としての金は出す」
「お金をくれるんですか? もちろん話します!」
「おう、やけに食いつきがいいな。じゃあ話してくれ」
お金はたくさんあって損はない。
それに、まだ依頼でそこまでお金を貰っているわけではないので、正直かなりありがたい。
それから僕は、自分の知っていることを詳しく話した。
「魔獣を王国に放つか……中々面倒なことを考えてるじゃないか」
そう言ってギルド長は腕を組む。
きっと色々考えてるのだろうけど、顔がいかつすぎてなんだか怖い。
「貴重な情報をありがとう。近々ブラックヘルに関する依頼を出すだろうから、是非参加してくれ。依頼の報酬は高めに設定しよう」
「はい。余裕があれば依頼を受けようと思います」
ギルド長から情報料としてのお金を貰い、部屋を出る
ほう、意外とたくさん貰えたな。
ほくほく顔でソニア達のもとに戻ると、他の冒険者とエマの声が聞こえてきた。
「君達っ! なぜ俺の誘いを断る?」
「だから、私達は既にパーティーを組んでいるんです!」
「この俺が誘っているのに、それを断る理由が理解できない!」
なんだあの金髪イケメンボーイは。
美人な女性を四人も引き連れている。
羨ましいな。
それにしても、エマ達は面倒くさそうな奴に絡まれてるな。
エマがこちらに気付くと、こちらにトコトコと歩いてくる。
「アルフさん、やっと来てくれたんですね! 何か変な人に絡まれたんですけど、どうしましょう?」
「う〜ん、どうしようね。もういっそのこと逃げる?」
ソニアは静かにこの場を眺めているが、何を考えているのだろう。
「お前がリーダーだな」
そう言って金髪イケメンボーイが近づいてくる。
「俺はSランク冒険者のルーカス・イリック。お前、俺と勝負しろ」
ん?
急に何言ってんだ?
「俺が買ったら彼女ら二人を俺のパーティーに入れる。お前が勝ったらこの話はなしにしてやる」
とんでもないわがまま金髪イケメンボーイだ。
こっちが勝ってもメリットがないじゃないか。
それに、パーティーが増えるみたいな話になって君の仲間が嫌そうな顔してるし。
「いいわ、その勝負乗ったわ」
ソニアがルーカスを指差して言う。
なんで君が言うんだ。
それに僕、勝てる気しないんだけど。
〜
冒険者におけるSランクとは、規格外の力を持つものがなれるランクだという。
基本的には、どんなに頑張ってもほとんどの人はAランクまでしかいけないのだ。
そのランクの壁を超えた男、ルーカス・イリックが稽古場で準備をしていた。
以前冒険者ランクを決める試験を行った場所だ。
「さて、アルフと言ったか。準備はできたか?」
「はい、大丈夫です」
ソニアやエマが見守っている中、カッコ悪いところはあまり見せたくない。
というか、気付いたら周りに冒険者がめちゃくちゃいるんだが。
この人達はは暇なのか?
「じゃあ開始の合図は俺の仲間に任せるが問題ないな?」
「はい」
ルーカスの仲間の一人が俺とルーカスの間に立つ。
「使用できるのは木刀、魔術のみとします。それでは両者、木刀を構えて……」
声に合わせて二人は木刀を構え、お互いに視線をぶつける。
相手は恐らく格上だ。
その場合、手の内を晒したあとは勝ち目がかなり薄くなるだろう。
やはり勝負は短期決戦が望ましい。
魔法で一気にたたみかけるのがいいだろう。
あれ、魔法ってルール違反だったりするのかな。
「始め!!」
開始の合図と共にルーカスが走り出す。
僕は剣の読み合いが苦手だ。
相手に近寄らせないためにも、魔法で敵を牽制する。
「ウォーターボール!」
「なっ!? 詠唱省略か!?」
そう言ってルーカスが大げさに避ける。
周りの冒険者も驚いているようだ。
詠唱省略は高等技術で、使える人はほんの一握りだ。
僕の知っている人ではルイザさんぐらいだろうか。
ちなみに今のは詠唱省略ではなく、適当に喋って魔法を放っただけだ。
魔法陣が出ないので、一部の冒険者は怪訝そうな顔をしている。
「ウォーターボール! ウォーターボール!」
連続して放つが、ルーカスはことごとく避けていく。
このことごとくこちらの攻撃が読まれている感じ、ソニアとの手合わせを思い出す。
しかし、無駄なことを考えている暇はない。
「魔術の弱点は詠唱が少しでも必要なことだ! 詠唱があるなら普通の魔術師程度、避けるなんてたやすい!」
ルーカスがウォーターボールを避けながら言ってくる。
確かに、魔術にはそういう弱点があのは事実だ。
今の状況だと少しでも隙を出したら接近戦に持ち込まれて負けてしまう。
いや……あえて誘うか。
「ウォーターボール!」
魔法を大きく外してしまう。
ルーカスはその隙を見逃さず、近距離戦に持ち込もうと接近する。
「はあっ!!」
ルーカスが木刀を振ろうとした。
今だ!!
木刀で受ける体勢を取りながら左手を相手の腹に向けるようにかざす。
ルーカスは何かを感じ取り、すぐさま避けようとするが、風の魔法を受けてしまう。
マジか、今のを避けようとするのか。
「ぐっ!!」
しかし、ルーカスは確実にダメージを受けて怯んでいる。
今がチャンスだ。
「ウォーターボール!」
すかさず魔法を放つ。
ルーカスは避けきれず、まともに受けてしまう。
「ぐはっ!!」
やがてルーカスは倒れる。
「……勝った」
僅かな静寂の後、周りから一気に歓声が湧き上がる。
僕はSランク冒険者に勝ったのか。




