第二十九話 ソニアとダレル
アルフ、ソニア、エマの三人は魔獣の鳴き声をもとに森を探索していた。
「エマ、大丈夫か?」
「はい……大丈夫です」
言葉ではそう言っているが、魔獣討伐の後で少し疲れが出ているようだ。
なるべく早くことを済ませたい。
「アル、もうすぐよ」
「ああ、この茂みを抜けたあたりかな。少し様子を見るか」
茂みに隠れるようにして先を見ると、そこには何人かの人と一匹の魔獣がいた。
その魔獣は眠るようにぐったりしており、周りには一人を除いて黒いローブをまとっている人が何人かいた。
「これは……何なんでしょうか?」
「……分からない」
様子を見るに、あの魔獣は死んでいない。
一体何をしているのだろう。
この距離から僅かに話し声が聞こえてくる。
「さて、眠らせたことですし、この魔獣を運びましょうか」
「こいつを台車に乗せればいいんだよな?」
「はい、よろしくお願いします」
魔獣をどこかに運ぶのだろうか。
口調を見るに、あのローブを着ていない男が立場が上なのだろうか。
「それにしても、魔獣を王国に放つなんて面倒くさいこと考えるんだな」
「団長の指示には従ってくださいね」
「もちろん」
魔獣を王国に放つ?
これは……よくないものを見ている気がする。
「この魔獣さ、台車に乗せるの大変なんだよな。だからさ、別の奴らに手伝ってもらわない?」
そう言って男はこちらに目線を向ける。
「ソニア、これって……」
「気付かれたわね」
こっちは全然音を立ててないのになぜ気付かれるんだ。
「あの男、強いわ。私より強いかも」
そう言うソニアは明らかに笑っている。
強者と出会えて嬉しいみたいな感情だろうか。
それにしても……今って結構ヤバい?
「おい、そこの奴ら、出てこい」
さっさと出ないと面倒そうだ。
逃げるという手段もあるが、向こうが本気を出したら追いつかれる気がする。
「アルフさん……」
「大丈夫」
とりあえずエマの頭を撫で、三人で茂みから姿を現す。
「ダレルさん、あれは……」
「あいつら、こっちを覗いてたんだよ」
「なっ!?」
ローブの人々は驚くが、見つけた当の本人は至って冷静そうだ。
「ダレルさん、あいつらはここで片付けましょう」
まずいな……
ダレルという男をソニアに任せるにしても、ざっと見てローブをまとっている人は6人いる。
エマを守りながらの戦闘を考えると中々厳しい。
下手をしたらあっさりとやられてしまうかもしれない。
ふとエマを見ると、僕の袖を掴みながら小刻みに震えている。
それもそうだ。
戦闘の経験すらなかったのに、突然危険な状況に晒されているのだから。
「ダレルと言ったかしら? あなた、私と手合わせをしなさい」
そう言ってソニアは剣先をこちらに気付いた一人の男に向ける。
「随分と上からだな。まあ俺もそのつもりだったからいいぜ。おい、お前ら」
そう言って男はローブの人達に視線を向ける。
「お前らは黙って見てろよ」
「駄目だ。こいつらはここで殺さなければいけない」
殺すという言葉にエマが僅かに体を震わせる。
「ああ? お前らは黙って俺の言う事を聞いてろよ。殺すぞ?」
「……分かった」
向こうの関係性が見えてこない。
あの連中は完全な味方ではないのか?
「ダレル・ヒューズだ。そこの女、名前は?」
「……ソニア・ウォルター」
「じゃあソニア、少し遊ぼうか」
そう言ってダレルが手を広げる。
「簡単な手合わせをしてソニアが俺を満足させることができればお前らを見逃してやる。その代わり、もし満足できなければ、お前ら三人の首を跳ね飛ばす」
「随分あいまいね」
「なに、ソニアが俺に強さを見せればいいだけだ。それで俺は満足だ」
「……分かったわ」
「よし、じゃあ剣を構えてやり合おうじゃないか」
そう言って二人は互いに剣を構える。
これは見守るしかなさそうだ。
ダレルは体が極端に大きい訳では無いが、遠目でも分かるくらい引き締まった筋肉をしている。
「好きなタイミングでかかってきていいぜ?」
その声を聞くや否や、ソニアが走り出して距離を詰める。
「おおっ! 威勢がいいじゃねえか!」
「はああああ!!」
ソニアが放つ剣をダレルは剣で防ぎ、受け流し、避けていく。
ソニアは常に強さを変え、リズムを変えながら剣を振るうため、常人ならあっさりとやられる。
そんなソニアの剣が簡単に防がれるとは。
「いいじゃねえか! 中々強いなお前!」
そう言ってダレルはソニアの剣を受ける。
その後も何回か攻防が繰り広げられるが、一瞬ダレルの体勢が崩れた。
その隙をソニアは見逃さず、ソニアが剣を振るおうとして……後ろに飛んだ。
「あなた……なにそれ?」
ソニアが目を見張る。
ダレルは、体を変な方向に曲げながら剣を振っていた。
それは、常人ではあり得ない体の曲がりようだった。
「この攻撃を避けるとは、やるじゃねえか」
「気持ち悪いわね」
「はっ! よく言われるな、それ」
ダレルは薄く笑っている。
「ソニア、お前しばらく王国にいるか?」
「そうね」
「じゃあまたやろうぜ。今回は見逃してやるよ」
随分とあっさりしているな。
まるで再び会うのを確信しているようだ。
ローブの人達はダレルに対して何も言えないのか、ずっと黙って見ている。
ソニアは剣を鞘に戻し、ダレルに背を向けて僕達のもとに来る。
「アル、エマ。あいつに気が変わらないうちに行くわよ」
「ああ、そうだね。エマ、行くよ」
そう言ってエマの手を握るが、彼女の手はあせでベタついており、未だに震えていた。
……仕方ない。
エマに対してお姫様抱っこをする。
「え? え? アルフさん? 何をしてるんですか?」
「エマ、僕に任せて休んでていいよ」
そう言って僕達三人は急いでその場から離れた。
その後、ダレル達が追ってくることはなかった。
しばらく歩いてなんとか森を抜けた。
「あの……アルフさん。自分で歩けますから、もう大丈夫ですよ?」
エマの顔が赤くなっているように見えるが、大丈夫だろうか。
「エマ、僕は大丈夫だよ。まだまだ体力は残ってるしね。」
「……じゃあ、もうちょっと休みます」
エマの顔が更に赤くなっているように見える。
一体、さっきの集団は何だったんだろうか。
とりあえず急いで冒険者ギルドに戻って報告したほうがいいだろう。




