第二十八話 魔獣討伐
「この依頼をお願いします」
「はい、問題ないですね。それでは皆さん頑張ってください」
受付嬢からの見送りと共に僕達三人は冒険者ギルドを出た。
「初めての魔獣討伐、なんだかわくわくします!」
「まあエマはサポートメインだから直接戦うことはないだろうけどね」
相変わらず自分が元気だと言わんばかりにエマのアホ毛がピョンピョンはねている。
「アル、私達の腕の見せ所ね」
「うん、そうだね」
ソニアも乗り気のようだ。
今回僕達が受けたのは、森に潜む魔獣の討伐だ。
どうやら近くの村に被害が出ているようで、早めに対処したいということだ。
僕達のパーティーがCランクなのに対して今日受けた依頼はBランクだ。
ランクで見ると厳しい依頼ではあるが、僕とソニアは過去にダンジョンに潜った経験があるため、問題ないだろうと判断した。
「エマ、魔獣は危険だから先に言っておくけど、自分のスタミナ管理はしっかりしてね。エマは無理しがちだから」
「は、はい!」
今まで何回か依頼をこなしているが、エマは疲れているのを隠す傾向がある。
まだ仲間として完全に信頼されているわけではないのだろうか。
僕やソニアに迷惑をかけないためかもしれないが、実際の戦闘では些細なことが命取りになる。
そんなことを考えていると、エマが隣で歩いていたはずなのに消えている。
「……エマ、何やってるの?」
エマが店の窓に張り付いている。
彼女が見ているのは……ドレスだろうか。
ソニアがエマのもとに向かう。
「え? えっと、こういう服も着てみたいなって」
「お金を稼いで借りたりすればいいんじゃない? ほら、行きましょう?」
「はい!」
今回は魔獣討伐だ。
寄り道する必要もないだろう。
森にたどり着き、魔獣の捜索を始める。
魔獣が現れた場所は既に大体把握しているので、そこら辺を調べればいいだろう。
「アル、こっちに来て」
しゃがみ込んでいるソニアのもとに行って隣でしゃがみ込む。
ソニアの目線の先を見ると、地面に凹みのようなものがある。
「これ、多分魔獣の足跡だよ」
「確かにそれっぽいね。とりあえずこの足跡を追ってみよう」
エマにも見せてみたが、よく分からないのか首をかしげていた。
しばらく足跡を追っていると、ほら穴のような場所が見えてくる。
「これは……当たりかもしれないわね」
「え!? つまりあの穴に魔獣がいるってことですか!?」
「確認すれば分かるわ」
ほら穴に入ってみるが、魔獣はいない。
しかし、そこには食い散らかされた肉が散らばっている。
「ひどい場所だな」
「あの……私、もう外に出てもいいですか?」
エマが顔色を悪くしている。
ここらへんは臭いもキツイから仕方ない。
「分かった。ソニア、調査を任せてもいい?」
「ええ、問題ないわ」
その言葉を聞いて、僕はエマと一緒に外に出た。
「ごめんなさい、アルフさん……私、ああいうのを見たのは初めてで……」
大きめの岩に座り込むエマの背中を撫でる。
「仕方ないよ。ゆっくり休もう」
「はい……ありがとうございます」
しばらくすると、エマの呼吸がだいぶ落ち着いてきた。
「お二人は凄いですね。薬草採取のときとかもそうですし。私はいつも足を引っ張ってばっかりです」
「そんなことないよ。エマには助かってるよ」
そう言ってエマの頭を撫でる。
「そんな嘘言わなくてもいいです……」
「嘘じゃないよ。エマは可愛いからね、いつも僕達を元気にしてくれる」
「それは……ずるいです」
エマは顔を赤くしている。
彼女は小さくて愛らしい。
パーティー"ストロングイーター"のマスコットキャラクターだな。
「それに、治癒魔術を使えるってだけで安心できるからね」
以前エマに治癒魔術を使ってもらったことがある。
深い傷ではなかったが、傷が塞がるのを見て驚いたものだ。
「ソニアが戻るまで待とうか……エマ、静かにしてね」
「え?」
こちらに向かって何かが近づく音が聞こえる。
エマを背にして剣を抜いて構える。
やがてその音が大きくなり、姿を表す。
「グルルルル……」
イノシシだ。
しかし、その体は大きく、普通のイノシシとは言えなかった。
「アルフさん……あれって……」
「ああ、魔獣だ。それに、依頼通りの魔獣のようだね」
魔獣一体ならなんとかなるだろう。
エマには後ろで見ててもらうか
「グルルアアッッ!」
魔獣が動き出すと同時に剣を持って走り出す。
この手の魔物は突進を始めたら急に曲がることはできないだろう。
そう思い、魔獣の攻撃をかわすが、魔獣は急停止し、すぐさまこちらに向かってきた。
「ぐっ!?」
「アルフさん!!」
ここまで小回りがきくとは思わなかった。
思わず左腕に傷を追ってしまった。
魔獣は体勢を立て直すのを待つことはせず、すぐに突進を始める。
傷を負った左腕を持ち上げ、水球を放った。
水球は魔獣とぶつかり、大きな音をたてた。
「はあっ!」
魔獣が怯んだ瞬間を見逃さず、首を剣で深くえぐると、魔獣は倒れ込んだ。
「アルフさん! すぐに治癒魔術を!」
そう言ってエマは詠唱を始めた。
左腕が淡く光ったと思うと、傷はみるみるうちに癒えていった。
「ありがとう、エマ」
傷は浅かったので、治癒魔術を使わなくてもなんとかなったが。
「この程度の傷で済んで本当に良かったです」
そう言うエマの目の端には涙が浮かんでいた。
戦闘に傷はつきものだが、エマは明らかに動揺している。
彼女はやはり戦闘に慣れていないのだろう。
するとソニアがほら穴から出てきた。
「アル、大丈夫? 魔獣を倒したようだけど」
そう言ってチラリと魔獣の死体を見る。
「大丈夫だよ。エマの治癒魔術もあって、今は傷一つついてないしね」
でももうちょっと早く来ても良かったんじゃない?
まあ、そのくらい信頼されているということなんだろうけど。
「あの……ソニアさん……」
「ん? どうしたの?」
「……いや、何でもないです」
「そう」
仲間なんだから何でも言った方がいいだろうに。
エマは初めてのことばかりで色々考えているのかもしれない。
「それじゃあ魔獣の素材を取って帰ろうか。」
「そうね。帰りましょう」
そうして魔獣の素材を回収しているときだった。
「……アル、聞こえた?」
「うん、魔獣の鳴き声かな」
「どうする?」
結構距離はありそうだ。
エマの方を見ると少しぐったりとしているように見える。
魔獣討伐で彼女は精神的、肉体的にも疲れているようだ。
「エマ、君はどうしたい?」
「私は……アルフさんが行くならついていきます」
「ちゃんとついてこれる?」
「は、はい! 頑張ります!」
エマはやる気になっている
「よし、じゃあ声がした方向に向かおう」
「はい!」
そうして僕達は森の奥に向かっていった。




