第二話 新しい居場所
第二話ですね。
先ほどまで真っ白だった視界が開けてくる。気づくと視界にはたくさんの緑があった。
背の低い草が生い茂っており、周りは木で囲まれている。
森の中の草原といった感じだろうか。
目の前には木でできたこじんまりとした建物があり、右手には湖がある。
「ここは……どこ?」
ふと隣にいる女性に声をかけてしまった。
通じるわけがないのに。
「〜〜〜! ……えっと……こんにちは。」
返事が返ってきた。
理解できる言葉で。
「魔族語、話せるんだね。何も話さないから言葉自体分からないかと思っちゃった。」
「あの……えっと……。」
突然の会話に戸惑ってしまう。
ここはどこなのか。
なぜ会話できるのか。
聞きたいことが溢れてくる。
「とりあえず家に入ろうか。中で色々話そうね。」
見知らぬ場所に来てからはじめて言葉が通じた。
ただそれだけと言うことも出来るが僕は少し救われたように感じた。
家に入り、家の中の一室に案内される。
そこには木製の長テーブルに椅子が四つ置かれている。
僕は四つの内の一つの椅子に座っている。
彼女は別の部屋から何かを持って来たようだ。
持ってきたものをテーブルに置き、僕の正面の椅子に座った。
テーブルにはお皿に盛られたクッキーと、二人分のグラスが置いてあった。
「最初は自己紹介からかな。私の名前はルイザ・アークライト。エルフと人間のハーフだ。普段は魔術などの研究をしている。今は外出しているが、私と弟子の二人暮らしだ。」
彼女は言い終えるとクッキーを一枚取る。
エルフや人間の存在は話でしか聞いたことがない。
ここ二週間で会った人たちも人間ということだろうか。
「まさか魔族語を使う日が来るとは思ってなかったよ。ほら、次は君の自己紹介だ。」
自分が話す番になった。
名前以外に何を言おうか。
「僕の名前はアルフです。種族は魔人族で、14歳です。家の近くの洞窟で遊んでたんですけど、気づいたらあの町にいました。」
そうだ。
ルイザさんと一緒にこの場所に来るときに見た模様、あれは多分、僕が洞窟に入ったときに見た模様と似ていた気がする。
気づけばルイザはクッキーを一枚食べ終え、グラスの水を飲んでいた。
「やっぱり魔人族だったんだ……。アルフ、君は聞きたいことが色々あるんじゃないかな?私が答えられる範囲なら何でも答えるよ。」
僕が聞きたいこと。
なんだろう。
さっきの模様のこと、人間やエルフのこと、この場所のこと。
考え出すときりがない気がする。
何から聞こうかな……
「あの……ルイザさんは彼氏とかいたりしますか?」
やってしまった。
何を言っているんだ僕は。
ルイザさんは明らかにキョトンとしている。
自分の顔が熱くなっているような気がした。
「ふふっ。そうね。あいにく魔術の研究ばかりで私に相手はいないの。最近は弟子の稽古を見たりするしね。」
ルイザさんはこんな訳の分からない質問にちゃんと答えてくれた。
そうか……彼氏……いないんだ。
〜
ルイザさんによるとどうやらこの世界には北大陸と南大陸があり、ここは北大陸らしい。
北大陸には人族、南大陸には魔族が住んでいる。
また、人族は大きなくくりで、人間族やエルフ族など、実際は様々な種族がいる。
人族と魔族は文化や言語が異なっているとも言っていた。
だから誰も何を言っているのか分からなかったんだ。
なんでルイザさんは魔族の言葉を知っているんだろう。
ルイザさんは僕を奴隷として買ったらしい。
そうか、僕、奴隷だったのか。
また、さっきの瞬間移動についても教えてもらった。
あれは転移魔術で、失われたとされる魔術のようだ。
そんな魔術を使えるなんて、ルイザさんって実はすごい人なのかもしれない。
僕が自分の家に帰りたいと言ったら厳しいと言われてしまった。
昔から魔族と人族は交流を断っているらしく、南大陸まで行くルートが確立されていないとのことだ。
すごく悲しいとか、そういうのはあまりなかった。
ルイザさんと出会ったからだろうか。
確かにお母さんや友人に会いたい。
でも、ルイザさんと別れたくないという気持ちもある。
会ったばかりだが。
クッキーを何枚か食べたが、とても美味しかった。
ルイザさんの手作りらしい。
すごい。
「色々質問に答えたし、今度はこちらから聞いていいかな?」
僕は首を縦に振った。
断る理由などもちろんない。
「ありがとう。ちなみに、アルフは魔人族だと思うけど、魔法は使えたりする?」
「はい。お母さんに魔法のことを色々教えられたので。」
「ほんと!?!?」
ルイザはおもむろに椅子から立ち上がった。
両手をテーブルにつき、僕の顔を覗き込むように顔を近づけてきた。
「あっあの。近いです……」
そういうことをされると思わずドキッとしてしまう。
「あ、ごめんなさい。」
そう言うとルイザはすぐに自分の椅子に座った。
すると、さきほどの勢いはどこにいったのか、真剣な表情になった。
「えっとね、アルフ。はっきり言うけどね、現状、君は南大陸に帰ることは出来ない。そしてあなたはこちらの言語を知らない。そんな状況でこの大陸で生きていくのは相当厳しいことだと思うの。」
その通りなのかもしれない。
言葉が伝わらないことの辛さはすでに思い知っていた。
「それで、もしアルフが良ければ、私の家で暮らさない?」
魅力的な提案だ。
「その代わり、私に魔法を教えて欲しいの。まあ、そもそもあなたを買ったのは魔法の知識が目的なんだけどね。」
ルイザは奴隷であった僕のことを買った。
そのことは今までの話ですでに聞いていた。
だからこそ、一つの疑問が思い浮かぶ。
「僕を買ったということは、僕はルイザさんの所有物ってことですよね? それなら、僕に命令すればいいのでは?」
ルイザが目を見開く。
すぐに元の表情に戻ったが。
意外な発言だったのだろうか。
「うーんとね、アルフ。奴隷と主人の関係って結構色々あって、私は信頼関係が大事だと思ってる。それに、魔族の奴隷なんて聞いたことないから正直どうすればいいか分からないし。」
魔人国にも奴隷はいた。
しかし、人間族の奴隷とは違うように感じた。
人間族の奴隷は魔人族の奴隷と比べて環境がよく、食事や寝床は決して豪華ではないが十分生きていける程度だった。
それに対して魔人族の奴隷は劣悪な環境での生活を強いられ、栄養不足などの理由で死ぬことがよくあった。
奴隷にも違いがあるのだろう。
「そもそも私は君を奴隷として扱うつもりはないよ。あくまで対等な関係でいたいんだ。」
「なるほど。分かりました。」
ルイザさんにも色々考えがあるのだろう。
「ルイザさんに魔法を教えます。だから、僕をここに住まわせてください。」
「もちろんだよ!!」
ルイザはとても嬉しそうだった。
「あと、僕も魔術に興味があって、魔術についても教えていただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
きっかけはあの転移魔術だ。
魔術は魔法とは全く異なっている気がする。
元々魔法が好きで母親に色々教えてもらってた訳だし、魔術の方も気になる。
「そのくらい全然大丈夫だよ!」
その後もルイザとアルフは他愛もない話を続けた。
ありがとうございました。




