第十四話 不穏な空気
"凶暴な魔物に再び出会ったらダンジョンから脱出する"
ジェイクはそう言った。
突然のことでアルフは驚く。
ジェイクは常に僕の手助けをしてくれた。
ソニアを助けるって言ったときも彼はとても協力的だった、なのに、なぜ急にそんなことを言うのか。
「勘違いしないでほしいが、アルフの仲間を見捨てたいと言ってるわけじゃない。ただ、俺は会ったことのない人より俺の仲間を優先したい」
僕はソニアを見つけるまでダンジョンから出るつもりはない。
彼は僕をここまで連れてきて、見捨てるのか。
…………自分のせいか?
僕が、自分の一番の武器である魔法を使わなかったから、そのことに腹を立てているのか?
「当然だ。こいつのためにわざわざ危険な目に合う道理はない」
ルーファスは、冷淡に言った。
「俺は、もし魔物が再び現れたら、辛いかもしれないが、無理矢理にでもアルフくんも連れて帰るぞ」
アーロンは少し辛そうな顔で言った。
ソニアを見捨てるのか。
この二人も……僕の敵なのか?
「私は……アルフを助けたい」
フィオナは違った。
彼女は……彼女だけは、味方なのかもしれない。
しかし、ジェイクはフィオナの言葉を否定する。
「ダメだ。お前も外に連れて行く。今ここで起こっているのは、いうなればありえないことだ。もしかしたらダンジョンの奥には、ケルベロスよりずっと強い魔物がいるかもしれない。本当なら、ここで引き返すべきなんだ」
「ジェイク……あなた、変わったわね。昔なら何があっても絶対アルフを助けてる」
ジェイクは難しい顔をする。
「俺は……背負うものが……増えた。だから、アルフを助けられないかもしれない」
どういうことだろうか。
よく分からない。
「とりあえず、今回は俺に従え。フィオナの考えも分かるが、ダメだ」
「そう……」
フィオナは渋々納得したのだろうか。
「さて、色々言ったが、要は魔物に会わなければいいんだ。今まで大量の敵がいたってことは、案外ダンジョンもネタ切れかもしれないぞ?」
ジェイクは冗談交じりの言葉を言ってダンジョンの奥へと歩き出す。
アルフ達はジェイクに着いていった。
〜
明らかにおかしい。
しばらく歩いた気がするが、魔物どころか、魔獣とも出会わない。
「まさか、本当にネタ切れを起こしたとか言わないわよね?」
フィオナの言葉に誰も反応しない。
洞窟内は静かだが、妙にピリついているような、変な違和感がある。
ジェイク達も何かを感じ取っているのだろう。
「一体、何が起きてるんだ」
「さあ、分からん。どうなってるんだろうな」
アルフの前を歩くアーロンとルーファスが言った。
一体でも魔獣が出れば少しは気が楽になるのだが。
しばらく歩くと左右の分かれ道があった。
「ここからは俺達も行ったことがない場所だ。今更だが、気を引き締めてくれ」
ジェイクの言葉に全員が気を引き締める。
ヴヴォォォォォォ
突然左の道から何かの鳴き声が聞こえる。
聞いたことがないような鳴き声だ。
「ジェイク、あの鳴き声はヤバい。今すぐ引くべきだ」
ルーファスの言葉にジェイクは考え込む。
「いや……ダメだ。右の道を進もう。それをアルフと約束したからな。魔物に出会ったら引き返すって」
彼は僕を助けるつもりなのだろうか。
さっきは突き放したのに。
よく分からなくなってくる。
ルーファスはしばらく考えてから言う。
「……分かった。俺はジェイクについていこう」
こうして更に進むことになった。
謎の鳴き声を聞いてからずっと静かだ。
魔獣との戦闘も一度だって起きていない。
不気味すぎる。
先頭を歩いていたルーファスは何かに気づいたのか、その場に立ち止まる。
「ジェイク、奥に人がいる。一人だ。こんな奥に一人なのは不自然だ」
ルーファスの言葉を聞いて思わずアルフは走り出す。
すると目線の先には洞窟の壁にもたれるようにして座っている女性がいた。
その顔は、アルフの知っている顔だった。
「ソニア!!」
たくさんの戦闘をしたせいだろうか、彼女の体は既にボロボロだった。
アルフはすぐさまソニアのそばに駆け寄り、目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「大丈夫か! ソニア!」
「アルフ……何で……ここまで来たの?」
「当然だろ! ソニアは仲間だからだ!!」
ソニアは驚き、そして安堵した表情をする。
しばらくの間、生活を共にしたアルフにとって、ソニアを助けることは当然の事だった。
「あなたは……バカね……私なんかを助けるために……ここまで来るなんて」
そう言うとソニアは唐突にアルフの肩を掴む。
「いい、アルフ? ここから逃げなさい……化け物がいるから」
化け物?
何のことだろうか。
ケルベロスのことか?
「ケルベロスなら僕達が倒した! 安心して大丈夫だから!」
「ケルベロスなんかじゃないわ……本当の化け物よ」
「本当の化け物って何のことだ?」
「それは……」
ズシンッズシンッ
大きな足音だ。
そんな音がアルフ達が来た道から聞こえてくる。
一番に気づいたルーファスが叫ぶ。
「何かが来るぞ!!」
アルフとジェイク達は戦闘準備に入る。
やがて姿を現したそれは、本物の化け物だった。
「グヴヴォォォォォォ!!!!」




