その6
(´・ω・`)ふわっと戦記。
8月8日に門司港を出港した我々と回転翼機を乗せた空母大鷹は、各商船と合流、ヒ71船団として南方へと進路を向けた。
出航までの間は散々、着艦訓練と対潜戦闘訓練に明け暮れた。
意見を出し合い、ヘリコプターに追加された装備は多い。
六番対地爆弾を流用した対潜爆弾と投下装置。
発煙筒と探照灯。
磁器探知機と無線機は重量や技術的な制約で搭載は出来なかった。
無線機は重要だと思うが、どうせ輸送艦護衛任務は無線封止だ。
一発でも多くの爆雷か燃料を搭載して飛行時間を稼いだほうが良いという結論に至った。
出港してから護衛船団は無線を封止して対潜航行を行っている。
しかし、船団の周囲で不審な電波の発信を感知している。
怪電波は日に日に受信感度は強く、多く成っているため。
”敵の補足を受けている公算が大。”という事で第六護衛船団司令内での意見は一致した。
敵電探の性能は色々と噂に成っている。
”敵の電探は駆逐艦は勿論、潜水艦と大型航空機にも搭載されている。”との情報だ。
その為、我々直掩任務を回転翼機は交代で船団の周囲を飛び回っている。
朝日と共に低空で。
何も変わらない灰色の海面を目を皿の様にして飛ぶ。
流木や白い波に惑わされる…。
漂流物に駆け付け徒労に終わる。
『左舷、方向に電信柱…。』
後部の搭乗員が叫ぶ。
副長が答えるが…。
「何を言ってるんだ…。海の中に電信柱が有る訳な…。な…潜望鏡を発見!!10時方向。南に移動している。」
すぐに目標を視認した様子だ。
「了解!進路変更!!」
状況が変わったので進路を変更する。
『発煙筒投下ですか?対潜爆弾ですか?!』
初陣に混乱する搭乗員。
俺も初めて見たアレが潜望鏡か…。
確かに電信柱が海の中に立っている。
白い波を立てながら…。
進んでいる。
「馬鹿野郎!両方だ!!激発深度20m、こっちは艦尾から侵入する!!爆雷優先。投下後発煙筒!!」
冷静な副長が命令を下す。
『了解!!爆雷激発深度20mに設定!投下後に発煙筒!』
海に突き出た電信柱の白い波を見ながら進路を修正する。
「進路、チョイ右!」
『投下準備よろし!安全ピン外しました!』
現在、この回転翌機には一発しか爆雷を装備していない。
このまま敵進路を捕捉して航空爆雷(60kg爆弾変更型)を投下する。
「ヨーソロー!」
海面に広がる曳航の白い波の電信柱に合わせる。
機首が敵潜水艦の進路と合わさった。
『ヨーソロー!!』
海面下、足元の下に灰色のクジラの様な影が見えた…。
ドンピシャだ!
友軍の潜水艦は黒い塗装だ間違い無く敵の潜水艦だ。
思わず興奮する。
白い波を立てる潜望鏡を超えた。
叫ぶ。
「てー!!」
『てー!投下完了!!発煙筒掛かります。』
小さな水柱を上げ海面に没する航空爆雷。
機体は一瞬で海面の下の灰色の影を追い抜く。
右に旋回すると海面に白い泡と波間に揺れる煙を上げる赤い煙。
海面が丸く白く泡立つ。
『爆発を確認!』
潜望鏡脇でゆっくりと小さな水柱が発生する。
「至近弾だ。」
電信柱が海中に引っ込んだ。
「やったのか…。」
呆然と呟く副長に…。
『水柱が収まりましたが、新たに泡が海面に発生!移動しています。』
白い泡が海面を走っている。
「通報!発光信号”ワレ!テキ センスイカン ヲ ミユ”」
無線封止中なのでそのまま高度を上げる。
『発光信号!了解』
後方で探照灯のシャッターを操作する機乗員。
泡の発生源が移動したのか旋回しながら追いかける。
気が付いた僚機がこちらに向かっている。
明らかに海面の泡が走る。
発生源が移動している。
未だ敵潜水艦は生きている。
航空爆雷を一発しか搭載できない事が悔やまれる。
海面の泡を追跡する。
「あともう一発あればな。」
「ああ、あそこの先にぶち込めば撃沈できるのに。」
発煙筒は波に流されて空しく離れていく。
僚機が到着したので探照灯で泡の発生源を示す。
いったん離れ、投下準備に入った様子だ。
いきなり海面に白い円形の泡の塊が発生した。
「は?」
明らかに今までとは違う泡だ。
「え?」
『海面に油膜が広がってます…。夥しい量です。』
嘗て海兵団で潜水艦乗りに聞いた話を思いだす。
「偽装のために魚雷発射管に油管を詰めて…。」
白い泡は円形にどんどん広がって行く。
「すごい量だぞ…。」
「ああ…。」
やがて白い海面は油膜を残して収まってゆく。
細々とした残骸を残して…。
殆どは布か木片にみえる。
『撃沈した?』
「いや…。解らん。」
波に広がる…。
油の帯。
「位置を記入してくれ。」
「わかった。」
副長が記入して読み上げる。
僚機は投下を止め周囲の捜索に切り替えている。
「いったん母艦に帰投する。」
時計を確認する、軽くなったので未だ飛べるが弾を補充しないと心配だ。
『「了解!」』
初めての対潜戦闘が幸運にも成功した。
あっけない結末だった。
きっと敵の潜水艦を撃沈したのだ。
乗務員と共に。
読み上げた位置を記憶する。
今度、この海を飛ぶ時は花束を用意しよう。
生きて帰る事が出来たなら。
その後、多くの潜水艦と遭遇し対潜戦闘を経験した。
今回の事例は撃沈確実だったと思うようになった。
わが船団は多少の損害を出しつつも、母艦と船団はルソン島にたどり着くことが出来た。
陸兵を揚陸させ別の港へ向かう。
毎日、母船と共に移動しながら海面を捜索する。
潜望鏡を探すのだ。
敵潜水艦は頻繁に潜望鏡深度まで上がってくる。
恐らく電探を頻繁に使っているのだろう。
上空から見ると一目瞭然だ。
追伸、花束を投下する事は出来た。紙で作った造花であったのは残念だった。