その2
衣ヶ原飛行場での試験飛行が繰り返されると…。
陸軍や海軍からの問い合わせが増えた。
元々、衣ヶ原飛行場は訪れる軍人が多い。
物珍しさに話題になるのだろう。
見学した陸軍省から遂に試験機購入の打診が来た。
「MM君、あの機体を量産しようとするなら…。どれ程の資材と設備が必要だね?」
拳母工場に呼び出したMM君に尋ねる。
「ギヤーはトラックのを使っています最大の問題はメインローターギアボックスの量産ですね。回転主翼はジュラルミンから鋼に置き換えができます。」
悲痛な表情のMM君…。
「そうかね…。うん?ボディーは?」
なぜか不安になる。
何故、工場面積の話に成らないのだ?
「あれ、元々ガス管です。」
「燃料タンクは…。」
「油缶です、オイルタンクは一斗缶使ったら流石に変形したので米式ペール缶を使ってますが…。在庫は潤沢に在ります。」
確かに家は自動車会社だ…。
初期のころから米国から購入したオイル類(缶)は多い。
「エンジンさえ社外から調達できれば…。正直、トラス構造でガス管の長さも共通させて種類を減らしています。何処かの町工場で切らせて…。組み立て場が在ればボディは作れます。」
「取り合えず…。12機作る用意をしてくれ。」
海軍からも一度、見せてほしいと話は在る。
多めに生産しておこう。
「はい、社長。」
何故か二か月後…。
東会飛行機、挙母工場の着工式の折、立ち寄った格納庫には10機のヘリコプターと試験、組み立て中の2機のヘリコプターが在った。
「社長。どうしてここに?」
驚くMM君。
神主が祝詞を上げる最中でも飛行音とエンジン音が聞こえるので気になって見に来たのだ。
「いや…。順調かどうか見に来た。何か問題は?」
「そうですか…。機体のほうは問題ないのですが…。パイロットが。」
「パイロット?」
「飛行機とは操縦法が違いすぎるので…。試験飛行が進みません。」
「あー。」
それはそうかもしれない…。
「返って固定翼操縦経験の無い方が良いかもしれません。」
「解った。」
まあ…。売れないだろう。
この時、確かに戦局の悪化の空気が漂っていた。
だが南方のブーゲンビル島では敵の上陸を撃退したとラジオや新聞で囃し立てていた。
学徒動員も在った、軍人さんの焦りも見えた…。
だが、神国日本が負けるハズない…。
楽観的な空気な師走の忙しさへと移っていった。
年が明けると昭和19年…。
陸軍と海軍に見せたヘリコプターの反応が良いので驚いた。
MM君は積極的に軍部と交渉している様子だ…。
運用についての話らしい。
実務に関しては全てMM君に任せている。
「社長ー、こんなに日立航空からエンジン買って良いんですか?」
ある日、経理課の課長が納品書の束を持ってきた。
型式を見て驚く。
「え?家で作るエンジンだよね?」
「ええ、評価用にしても…。こんなに沢山要ります?」
まだ部品の製造はしているが完成品はできていない。
まだ工場に工作機械を据え付けているところだ。
伝票を見ると今年に成って60基以上のエンジンが衣ヶ原飛行場に届いていることになっている。
急いで電話する。
「モシモシ!ちょっと!MM君。事務の方から知らない物品が届いてるって!エンジン。」
『あー、陸軍さんからの支給品ですね。会社に発注書出すら先に量産に入って良いって。』
「いや!聞いてないよ!」
『え…。でも。もう既に納品型式貰ってますよ、特殊レ-10って。』
「知らないよ!」
『えー。じゃあ、社長。パイロットと整備員の養成で岐阜から少年飛行兵と陸軍航空整備の学生さんが新年度から来るって話は…。』
「初めて聞いた。(棒)」
『うーん、困ったな。ちょっと陸軍さんに問い合わせてみます。部品も届いちゃっているし。』
「ちょっと待って、今、何機作ってるの!?」
『今日、完成する予定も入れて46機です。』
「…。ちょっとそっちに行くから!!」
黒電話を置くと…。
「ちょっと車回して。東会飛行機に行くから。」
「社長!」
席を立ちコートと帽子を取って…。
「なに!?今忙し…。」
「海軍の方が見えてます。」
「へ!約束してないよ。」
とりあえず…。
身形を整え社長室で出迎える。
立派な海軍士官の出した名刺を見て…。
「海上護衛総司令部所属?」
「ええ、聞き覚えの無い名だと思います。まあ、未だ去年に創設たばかりでして。」
「はあ…。当社に何をお求めで…。」
トラックの納品催促だろうか?
軍需省を通してもらわないと困る。
「こちらで面白い物を作って居るそうですね…。回転翼機。」
「え?ええ、一応。飛ぶ物に成っています。」
「何機位作れますかね。」
「今年に入って40機以上生産してます。」
見てないけど。
「それは素晴らしい。ぜひ購入させていただきたい。」
「ソレは…。実はエンジンが未だ自社製造出来ていないので…。エンジンや一部部材は陸軍からの支給品でして…。」
「うーん。ソレは困った。」
「細かい所は現場の主務に聞いて見ないと答えられません。但し、操縦が従来の固定翼搭乗員では難しいそうで、専門の搭乗員教育が必要だそうです。」
「ほう…。それは初耳だ。」
驚いた顔の海軍士官、本当に買う心算なのだ。
「エンジンと…。部材さえ在れば今、建築中の工場が稼働した暁には…。」
海軍さんの要望にも応えられるだろう。
「出来れば急いで機体を欲しいのです。パイロットの教育を進めたい。」
「あの…。陸軍さんは少年飛行兵と航空整備学生さんを衣ヶ原飛行場に派遣するそうです。」
「!!…。」
表情が険しくなる海軍士官。
「あ。あの…。」
「生産工場を見学させて貰えないでしょうか?」
「え?ええ。よろしいですよ。私も用事が在った所です。」
MM君に事情を聞かないと。
海軍士官と一緒に車で衣ヶ原飛行場へと向かう…。
向かう途中でヘリコプターが操縦者の顔が見える程の低空で追い抜く…。
「軽快にとびますね。」
「え?ええ。」
飛行場に付いて驚いた…。
数機のヘリコプターが飛行場から砂塵を上げて一斉に飛び上がり編隊を組んで飛んで行った。
格納庫の中は組み立て中のヘリコプターが並んでいる。
MM君を探す。
「いた!MM君!」
飛行帽と眼鏡白いマフラーの陸軍のパイロットらしき男と話をしている。
「あれ?社長。どうしたんです?」
駆け寄る。
「どうしたもこうしたもないよ!MM君。勝手に会社の機材を使ってなにしてるの!」
悠々と歩く海軍士官が追いついた。
「えー、でも陸軍さんが会社には言っておくからとにかく量産しろって…。」
海軍士官を向き言葉が止まるMM君。
「どうも、海上護衛総司令部所属SO大尉です。」
「あーどうも。東会飛行機のMMです。」
握手をしながら…。
海軍士官は尋ねた。
「君が作った飛行機…。船から飛ばせるかな?」
(´・ω・`)卜ヨ夕自工の豊田喜-郎社長が航空機(特にヘリコプター)を意識していたのは知っていたので何時かはやりたいネタの一つでした。
(´・ω・`)喜-郎社長はコッソリ研究して。本田宗-郎社長はオープンで社員に発破かけていたのでホンダジェットを商用に漕ぎ着けた。
(´・ω・`)…。(ホン夕゛は何度も経営が危なくなったけどね。)