面接
翌日、緊張して役所へ向かったリンファ。今日面接を受けるのは三人。一人は黒髪を真ん中から二つに分け、耳の下で結んだ少女。笑った口元がとても可愛い。もう一人は前髪を真っ直ぐに切り揃えたまだ幼い様子の少女だった。
三人は一つの部屋に通され、並んだ椅子に腰掛けて待っていると、扉が開き面接官だという女の人が入ってきた。
「待たせましたね。今から面接を始めます」
書類と三人を見比べながらじっと何かを考えている様子だ。
「シーシ。あなたはもう帰ってよろしい」
幼い娘はすぐに部屋から出されてしまった。面接官はリンファたちに向き直るとニコリと笑った。
「さっきの子は親が推薦して申し込んできたのですが、後宮にはふさわしくない容貌のうえまだ幼なすぎました。ですが、あなたたちは合格です」
「えっ、もう合格ですか?」
思わずリンファは聞き返してしまった。顔を見られただけで、何も質問されていない。
フフ、と面接官は笑った。
「後宮は見た目重視なのです。それに、身元はまず役人がちゃんと調べていて、その上で容貌の良い者を推薦してきますからね。役人からの推薦枠のあなたたちは、もうそれで合格なのです。ところであなたたち字は読めますか?」
「はい」
リンファは即答したが、もう一人は小さな声で読めません、と言った。
「ではリンファ。あなたがこの紙に書いてあることをメイユーに説明してやりなさい。ここに、注意事項が書いてありますから」
「はい、わかりました」
「それと、早速明日から後宮に入ってもらいます。家族と過ごせるのは今日が最後ですから、心残りのないように」
隣のメイユーが体を震わせるのをリンファは感じた。きっと、家族と離れるのが辛いのだろう。
「では明日、同じ時刻にここに来ること。それから私があなたたちを後宮に連れて行きます」
面接官が部屋を出たあと、リンファは紙に書いてあることをメイユーに読んでやった。
「支度金は明日後宮に入る時に渡す。給金は月に一度。働きのいい者は昇給あり。王以外の男性と接触禁止。後宮から出ることも禁止。上級女官には絶対に服従すること。もしも王のお手付きがあれば、部屋をもらえる。それまでは大部屋で……」
恐ろしくたくさんの決まり事が書いてあった。メイユーも頭が混乱しているようだ。
「どうしよう、間違えてしまったら……」
「大丈夫よメイユー。一番良くないのは男性との接触。それと外出。あとはもう、慣れていくしかないんじゃないかしら」
「リンファ……は、怖くないの? 親と離れて後宮に入ること」
「もちろん、初めてのところへ飛び込むんだもの、怖いわ。でも私には、恩返しという目標があるから。明日、それは一つ叶うんだけど、これからもずっと仕送りをするためにも頑張って後宮で長く働いていかなくちゃね」
「そう、だね。私も親に仕送りしたいの。うち、兄妹多くて、食べるのがやっとだから……」
近所では器量の良いほうだったから、役人から推薦された時、親は飛び上がって喜んだそうだ。
「でも、ここに来てリンファを見たら、私程度の顔でよく推薦されたなあって不思議になっちゃった」
「何言ってるの! メイユーは可愛いわ。笑顔がとっても素敵よ。仲良くなれそうだなって一目で思ったの。ねえメイユー、私たち友達になりましょうね」
「ええ、リンファ! お友達がいれば後宮も怖くないわ、きっと」
後宮の女の闘いの怖さは庶民にも漏れ聞こえている。もちろんそれは、王が足繁く通うであろう上級妃たちの間でのことだけれど。
「じゃあまた明日ね、メイユー」
「ええ、リンファ。また明日」
役所を出たあと、リンファはふと、あの森に行ってみる気になった。あれ以来、一度も行ったことはない。ガクは今でもしょっちゅう薬草を取りに行っているけれど。
(後宮に入れば王が代替わりするまで出ることはできないわ。もしかしたら生きてるうちに出てこられないかも。一度だけ、行って見ておこう。私がすべてを忘れた場所を)
ガクや町の人々が出入りしている、外壁の崩れた場所は知っている。そこからそっと外へ抜け出て、リンファは森へ向かった。