伝説の国
世継ぎが誕生したという知らせは都を駆け巡った。悪い宰相がいなくなり世の中が変わっていくと信じる人々は、この知らせを歓喜を持って受け取った。
その十日後、ホアシャも無事出産した。銀色の髪の、可愛らしい女の子だった。ホアシャはたいそう喜び、ヒョウカと名付けた。
そして……シャオリンはその二日後、女児を出産してひっそりと亡くなった。もともと身体も小さく弱く、ただでさえ妊娠に耐えられるかわからなかったのに、兄の事件以降まともに食事も取らず気力もなくす一方だったのだ。かなりの難産となり、結果として命を落としてしまった。
タイランはシャオリンを丁重に弔った。そしてこの女児を誰に託すか思案していた時、三ノ宮妃シアユンが名乗りを上げた。
「だがシアユン。そなたとチンディエは後宮を出て新たな人生を歩むことになっていただろう」
タイランはいたずらに後宮に妃を縛り付けることはやめようと考えていた。だからまだ懐妊していないチンディエとシアユンは、後宮を出て愛する人を探し結婚する道を勧め、二人ともそれを了承していたのだ。なのに、なぜ。
「私の実家はかなり裕福ですわ。生活に困ることはありませんのに誰かに嫁ぐのも面倒くさいですし、静かな後宮暮らしは気に入っていますの。ここでホアシャ様とのんびり、子育てするのも楽しいかと思いまして」
そう言って女児を嬉しそうに抱いた。
「名前は、どうなさいますか? 私でよければつけてもよろしいでしょうか」
「なんという名前に?」
「ユーリン、と」
タイランはシアユンに感謝した。シャオリンの名を一つ取って名付けてくれたことを。
「シアユン。ありがとう。ユーリンをよろしく頼む」
「はい、タイラン様。お任せくださいませ」
☆☆☆☆☆
半年が経ち、そろそろ暖かくなって移動も楽だろうと、スイランとフェイロン、リーシャは宮城へ移ることになった。
「正妃用の宮は少し広げたぞ。母の部屋とも行き来しやすいようにした。それから、四ノ宮の下女や女官も希望者は雇い入れた」
「まあ、タイラン! ありがとう! ビンスイさんやジンリー、メイユーはどうしました?」
「三人とも喜んで宮城に来たぞ。早くフェイロンが見たいそうだ」
「良かった。またみんなと楽しくお話しできそうだわ」
ふえーん、とフェイロンがぐずる。
「あら、眠たくなっちゃったの? フェイロン」
「貸してみろ。私が寝かしつけてやる」
「ふふ、できるかしら」
タイランの大きな腕の中は居心地が良かったのか、フェイロンはしばらくぐずった後スヤスヤと寝始めた。
「ほら、上手だろう?」
そう言って布団に寝かせようとするが、置いた途端にわーん、と泣き始めた。
「ああ、もう一度か」
慌てるタイランをスイランがクスクスと笑う。
「頑張ってください、お父様」
幸せな、若い家族の姿がそこにあった。
そしてスイランは正妃として宮城へ入り、その半年後に正式に婚姻の儀を交わした。
国民は王の正妃が西国の容姿をしていることに驚き、しかも元アンダール王族の血を引く女性だと聞いて大いに喜んだ。反乱を起こしていた西の民も、アンダール王家の紋章が刻まれた髪飾りをつけた、自分たちの姫ともいえる女性が正妃になったことでようやく国の融合を認めるようになった。もちろん、タイランの優れた政治あってこそである。
スイランはその後二人の王子を産んだ。ホアシャとシアユンとも友情を築き、長い平和の世を生きていった。
これは遠い遠い昔のこと。今はもうない国、遥かな伝説の中のお話である。
(完)




