一筋の希望
「じゃあ、いつものように、俺は診療をやってるからお前らは聞き込みだな」
「うん、父さん。中心部は人も多いし、今年こそ何か収穫がありそうだよね」
「ジーマ、二手に分かれよう。俺は大通りを北から、ジーマは南からな」
「わかったよ、チュンレイ。じゃあ後でね、父さん」
二人が走って行く背中を見つめながら、ライードはもし今回スイランの情報がなかったら、チュンレイにスイランを諦めさせる方向に持っていかなければと思っていた。
(いつまでも追い続ける人生はしんどい。あいつにも、幸せになってもらいたいんだ)
チュンレイとジーマが互いに好き合っているのをライードは感じていた。だがスイランが見つかるまではと、その思いに蓋をしているのもわかっていた。
(あいつらはもう結婚して子供がいてもいい年なんだ。若い二人が幸せになれないなんて酷な話だよ。王よ、俺はあんたを恨むぜ)
ふうとため息をついてライードは下町へ向かった。
宮城から南へ向けて伸びる大通り。ここが都の一番栄えている場所であり、両側にたくさんの店が立ち並んでいる。この通りの東西には貴族の屋敷が多く、そこで下働きなどさせられていたら、きっとお使いでこの辺の店にも顔を出しているだろう。チュンレイは大きな店を一軒一軒、尋ねて回った。
「翠の目の拾われっ子? 知らないね。商売の邪魔だ、出て行ってくれ」
大通りの北側は老舗の高級店が多く、まったく取り合ってはもらえなかった。おそらく使用人の身元もしっかり調べているだろうし、捨て子を育てたりしないのだろう。
何軒尋ねても何も収穫がなかった。ふと、チュンレイの頭に嫌な考えがよぎる。
(あれからもう六年になる。誕生日がくればスイランも十六歳。今回は娼館も調べなければならないかもしれない)
そうだとしても、見つかりさえすれば必ず助け出す。スイラン、俺のたった一人の妹。
次の店に入ろうとしていた時、南からジーマが走ってきた。
「チュンレイ……! 情報が! あったよ!」
「ジーマ! 本当か?」
チュンレイはジーマに駆け寄る。ジーマはよっぽど急いでいたのか、ハアハアと息が荒い。
「うん、今聞いた店で、新しくできたガクの店ってとこの拾い子が翠の目だったって。歳も十四、五くらいだって言ってた」
「ガクの店にも行ったのか?」
「ううん、まだ。チュンレイに先に知らせようと思って」
「ありがとうジーマ。今から行ってみよう」
この六年で初めての情報。空振りかもしれないが胸が高鳴る。
(どうか、スイランであってくれ)
ガクの店はまだ真新しかった。明るい店内には客と使用人が何人かいて、そこそこ賑わっている。
「あの、少しお話よろしいですか」
「へい、いらっしゃいませ。何にしましょう?」
「実は人探しをしているんです。僕と同じような茶色い髪に翠の目の、十五歳くらいの女の子がこちらの店にいると聞いたのですが」
使用人は首を捻り、少々お待ちを、と言って奥に引っ込んだ。
「そんな子は知らないという顔だな」
「そうだね……大丈夫かな」
チュンレイとジーマがこそこそ話していると、奥から店主らしき男が出てきた。彼はチュンレイの顔を見ると驚いた様子で、髪や目を何度も確かめるように眺めた。
「私が店主のガクだが。あなたたちはいったい?」
「僕はチュンレイといいます。こっちはジーマ。僕は妹を探しているんです。六年前に森で生き別れた妹を」
「生き別れた、とは」
「妹と薬草を取りに行った森で僕は殺されかけ、土に埋められていました。ジーマに助けられて命は取り留めましたが、一緒にいたはずの妹はどこにもいなかった。それから毎年、この広い都を尋ねて回ったがまだ見つかっていません。今回ようやくここに翠の目の女の子がいるという情報を得て訪ねてきたのです。その子に会わせてもらえませんか」
ガクは頷くと二人を奥へ促した。
「こっちへ。家で話そう」
やはりここにスイランがいるかもしれない。チュンレイとジーマは期待に胸を膨らませてお互いの顔を見た。ようやく、ここまできたと。




