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銀色の恋は幻 〜あなたは愛してはいけない人〜  作者:


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翠の目の親子


「何だろう、この石碑。去年はこんなものなかったのに」


 鬱蒼とした森の中でジーマが振り返り、後ろから来ている二人を呼んだ。


「ねえ早く来てよ。チュンレイの石碑が建ってるよ」

「は? 俺の石碑?」


 チュンレイと呼ばれた青年が走って来た。


「うん。ほら、これ見て」

「『母孝行の息子チュンレイここに眠る』。え、もしかして俺のこと?」

「絶対そうだよね。ここ、あの現場でしょ。王が建てたのかな。ね、父さんどう思う?」


 ゆっくりとやって来たライードは石碑をじっくりと眺めた。


「王だな。ここにタイランって書いてある。お前ら、ちゃんと読め」

「なんで五年も経った今頃、こんな石碑を?」


 チュンレイは背丈ほどあるしっかりした石碑にガシガシと足をかけながら言う。


「王が反省したんじゃないか。お前が死んだと思ってるんだろ」

「反省なんてそんなこと王がするかなあ? 庶民の命なんて虫ケラ以下にしか思ってないでしょ、ああいう人種は」


 ジーマは口を尖らせて悪態をつく。


「何か心境の変化があったんだろうよ。こんな、人が滅多に来ない森の中に建ててるんだ、民衆への宣伝とは考えづらい。本人の心の平穏のためだろうな」


 ライードは穏やかな口調だ。二人の気が昂ぶらないように気を配っているのだろう。


「今年、摂政のコウカクが倒され、皇太后が流刑地に送られた。王も成人して自分で政をやるようになり、自分の頭で考え始めた証拠かもな」


 黙っていたチュンレイが口を開いた。


「なあライード。スイランは生きていると思うか?」

「何度も言ってるが、お前と一緒には誰も埋められていなかったし、あの場にはいなかった。狼に食べられた様子もなかったんだから、きっと誰かに拾われて生きているはずだ」

「そうだよ、チュンレイ。今回は都の中心部で聞き込みするんだよね? 今度こそ、見つかるよ、きっと」


 ジーマがチュンレイの背中をドンと叩く。痛いなぁ、ジーマは……と苦笑しながらチュンレイはなぜだか、スイランがすぐ近くにいるような、そんな気がしてならないのだった。



☆☆☆☆☆



 五年前。薬草を取りにこの森にやって来たライードとジーマ親子は、地面から突き出た白い腕を見つけて驚いた。慌てて近寄るとその細い腕がかすかに動いている。


「大変、父さん! 早く助けないと!」


 まだ土は柔らかく、すぐに掘り返すことができた。助け出してみるとまだ子供、しかも肩から胸へ大怪我を負っていたのでさらに驚いた。


「ほとんど意識もないのに必死でもがいていたんだな」


 ライードは少年に布を巻きつけて抱き上げ、ジーマに薬草を取れるだけ取ってこいと言って荷車へ戻り、そこに寝かせた。戻って来たジーマが後ろを押し、あまり揺らさぬようゆっくりと今日の寝ぐら――と言っても野宿だが――に向かう。


「どう? 父さん。助かりそう?」

「五分五分だな。いや、もうちっと悪いか」

「大丈夫でしょ。優秀なモグリ医者のライードさん」

「うるせえな、黙ってろ」


 それから少年は三日三晩熱を出した。もしかしたらもうダメかもしれんな、とライードも思うくらいには生死の境を彷徨っていた。

 だが彼は生き残った。


「父さん! 起きたよ!」

「おう、大丈夫か、坊主。俺たちが見えるか?」

「あなた……は……」

「通りすがりのモグリの医者だ。お前さんひでぇ怪我をして地面に埋まってたんだ。だがとりあえず峠は越えた。安心して眠りな」

「スイ……ラン……」


 そしてまた目を閉じた。


「なんだろ、スイランって」

「家族の名前だろうなあ。次に目が覚めたら事情を聞いて親元に届けてやるか」

「えー! 帰しちゃうの? やだー」

「なんだよジーマ、気に入ったのか、そいつが」

「だってさ。あたしたちと同じ血が流れてるっぽいじゃん。目も翠色だったし」


 ジーマとライードは濃い金茶色の髪に翠の瞳だ。西方の国の人たちに多い色。


「もう民族はいろいろ混ざり合ってるんだ。そんなことにこだわってると、大事なものを見逃してしまうぞ」


 ジーマは口を尖らせてふて腐れたがそれきり何も言わなかった。


(俺たちの国はもうないんだ。あとはこの国に飲み込まれてゆくだけさ)

 


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