拾い物の踊り手
「困ったわ。明日が本番だというのに、一人欠けてしまった」
チンリンが頭を抱えている。舞台から落ちた女官は足首を骨折していた。この足では舞をすることなどとても無理だ。
「ただでさえうちの宮は踊れる人数が少なくて見栄えがしないのに……」
他の宮は八人以上で踊る。二ノ宮などは十二人で踊るらしい。四ノ宮の踊り手は六人。左右対称の振り付けもあるので、五人ではバランスが悪くなる。
「だからといって四人に減らすともっと貧弱だし……。でも、しょうがないわね。他に踊れる子はいないんだから」
「……あのう、チンリン様」
悩んでいるチンリンの前に一人の女官が進み出た。
「何? ビンスイ」
ビンスイは女官の中では一番位が下だ。そのせいか下女たちと気が合い、普段から仲良くしているらしい。
「下女の新入り、リンファが踊れます」
「なんですって? 本当に?」
「はい。休憩中に舞って見せてくれました。昔、踊りを習っていたそうです。練習をチラッと見ただけなのに四ノ宮の舞をちゃんと踊れていました」
しかも女官たちより美しく、と思っていたがそれは言わなかった。
「そう。この際、下女でもかまわないわ。一番後列に配置すればいいでしょう。ビンスイ、リンファを呼んできて」
「これは……ずいぶんといい拾い物だわ。よく教えてくれたわね、ビンスイ」
めったに褒められることのなかったビンスイはチンリンに微笑まれ、嬉しくなってほんの少し胸を張った。
ついさっきビンスイに呼ばれたリンファが女官たちの前で舞を披露すると、その出来に皆が驚いたのだ。他の踊り手たちは内心悔しい思いをしていたかもしれない。だが明日の本番を成功させるためにはこの下女の力を借りるしかないこともわかっていた。
「素晴らしいわ、リンファ。これほど踊れるとは思わなかった。振り付けもしっかり頭に入っているようだし。リンファは厨のほうはもういいから、この後はみんなと合わせる練習に専念しなさい。衣装は今夜中に自分に合うように手直ししておくのよ」
興奮したチンリンが早口でまくしたてる。リンファも思いがけず掴んだ好機に心を躍らせていた。
(フォンファに教わってはいたけれど、家の中で踊るだけだった。こうして人前で踊りを披露して褒めてもらえるなんて、とってもやりがいがある。嬉しい)
遠くのほうでメイユーとジンリーがピョンピョン飛びながら手を振っている。頑張れ、と言ってくれているようだ。
その日は夕刻まで六人で踊りを合わせることに時間を費やした。だがリンファが足を引っ張るというよりも、むしろ一人だけ舞が美しいために変に目立ってしまっていた。
「うーん……これだと逆に釣り合いがとれなくておかしくなるわね。リンファ、あなた前列に来なさい」
チンリンに呼ばれて前に出ることになったリンファ。さすがに女官たちの鋭い視線を感じてしまった。下女の後ろに回るなど、自尊心が許さないはず。だがチンリンの言葉は絶対だった。
「うん、これで良くなったわ。リンファの舞に引っ張られてみんなもよく踊れてる。もしかしたら褒賞をいただけるかもよ。みんな、明日は頑張ってちょうだいね」




