刹那の煌めき
アポリア王国軍の一斉射撃が髪を白く輝かせるルナに向かう。
もちろん今のルナにとって砲撃や銃撃など見てから避けられる程度の攻撃だ。
『ルナ様? もし聞こえているならワタクシを主様のように受け入れてください』
「霙さん!?」
仮に当たったとしても大したダメージにはならない。
そのはずだ。
しかし現実は違った。
(あっ、霙さんが入ってくる――――)
攻撃がルナに当たるまでの刹那。
その無限にも等しく引き伸ばされた時間の中でルナは霙の魂が自身の中に入って、ナニカを解放しようとしているのを感じた。
目覚めた力はルナの中から外へと広がり、ルナの髪を白く輝かせ、彼女の瞳を銀色に染めていく。周囲の物体はたちまち分解されて光の粒となる。
「太陽神の加護!?」
覚醒したルナを見たナラーシャは最初こそ驚いていた。ルナの姿は間違いなく【創造】を司る太陽神エリンの加護を受けた者に見られるものだったからだ。それでも、今の自分の力の前では無力だとナラーシャは知っている。
だから、後は眺めていればいい。
『どうして……どうして発動しないの!?』
歯噛みする霙。どうしてこうも自分の人生はうまくいかないのか。
【……彼女を騙すアナタの思い通りになるとでも?】
【自分の力でなんとかしなきゃね】
【**のところ*****協力してあげるんだ**ね~】
『女神共! どれだけ奪えば気が済むんだ!!』
ルナの日常からは想像もできない声で怒鳴る霙。その声は繋がっているルナにも聞こえる。しかしルナには霙が誰と話しているのか分からない。
超常の存在。天上にて座する三女神。超越者。
それらが実在するなど、ルナにも誰にも分かるまい。
「霙さん? ぁッッッ……――――」
止まぬ銃撃と砲撃。
覚醒したルナの魔法で少しは攻撃を分解し、霧散させたが無駄だった。最終的にナラーシャの能力と女神達の決定によりルナは元の少女に戻ってしまった。
「……すまない、ルナ。結局俺は……お前を……」
遠くで眺めるナラーシャの懺悔。
銃声の中、彼の声はルナに届かない。あまりに過剰な火力による攻撃が止み、煙が晴れるた先に人の形など残っていない。原形をとどめていたのはルナが持っていた剣。たったそれだけ。
後は黒々とした肉片が散らばるのみ。
「終滅の魔女の殺害及び、封剣ルーイン』の回収を確認。これより全軍撤退します」
「……あぁ」
剣を回収した兵士がナラーシャに報告する。
聞いてはいる。だが、今のナラーシャにまともな返答をする元気は残っていない。
なすべきことをした。その結果ルナが死んだ。
俺はどうすればよかったのかと、ナラーシャは頭を抱えた。抱えたところで何も変わらない。考えたところで三女神の奴隷である自分にできることなどない。もし変えられるとしたら、それは自分ではなくルナ達だ。これが勇者の役目だと、分かっていても涙が溢れる。
翌日。
巨大な黒いスライムのような敵にアポリア王国が襲われ、完全に飲み込まれた。
純粋な黒ではなく、すべての色を混ぜて作ったおぞましい黒。その濁流に王国は飲み込まれ、一夜にして滅んだ。王国のあった場所は不毛の更地となり、跡形も無く消えた。消滅した。
唯一、人類の幸福な点は黒いスライムも同時に消滅したことだけ。
ルナの最期。
村の最底辺のまま、何もなせずに銃撃と砲撃にて戦死――――――――BAD END1
【無知無能の最底辺少女編】終了