願いと呪い
全27部分です。お付き合いよろしくお願いします。
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「佐子は美人だった。だから選ばれてしまった。それだけだ」
「おっかさんを知っているんだな?」
暁理は姿勢を崩した。
普通の中年男性の表情に変わり、旅の途中で井山を訪れたことから話し始めた。
五里には初めて聞く話ばかりだ。
佐子を攫ったのは武士ではなく、武士を装ったただの山賊だったこと。
佐子は京に着くと、武士に売られ、寺に囲われ、毎日念仏を唱えて過ごしたこと。
いまや左半身を覆うほどに広がった痣の正体が、母の願いを叶えた代償だったこと。
どれも五里の想像を超えていたが、暁理の目を見ていると素直に受け入れられた。
「その痣は私が仕込んだものだ。私を恨むか?」
「いや、あんたを恨めばおっかさんを恨むことになる。おっかさんの願いを叶えてくれたこと、ありがとう」
五里の目は、穏やかではないが、温かみのある目になっていた。これには暁理も驚いた。
「その痣、いずれ全身を覆い、その身を喰らい、お前は死ぬことになる。呪いの一つだ。それを解く術はあるが、どうしたい?」
「このままでいいや。まだこの体が要る。それが終わったら、また来てもいいかな?」
「よいが、私は治す術を知らぬ」
「じゃあ、誰が解けるんだ?」
「私の師匠だけだ」
「どこにいる?」
「二年前にここを出ていかれた。東北の方へ行くと言っていたが、それ以上は分からない」
「名前を教えてくれ」
「それはできない。誰にも言うなと、言われたのでな」
「わかった。感謝するよ、たくさんありがとう」
五里は去ろうと、立ち上がった。
「泊まっていきなさい」
「仏さんの家は居心地が悪いや」
五里は最後に笑って見せた。
閉じられた引き戸に向かい、暁理は手を合わせた。
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