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白くない白、黒くない黒

全27部分です。お付き合いよろしくお願いします。


よろしければ、ご評価もお願いします!

 同じ都の別の武家屋敷。


 検非違使庁勤めはなかなか疲れるようで、良就は今日はいつもより長く寝た。


 目が覚めたころには、日が沈みつつあった。


「江ノ介や。鬼はいまどこにいる?」


「庭に隠れさせております」


「それでは、呼べ」


「はい。五里よ、姿を現してくれ」


 江ノ介は手を三度叩いた。


 庭の端に黒いものが降った。それは素早い動きで座敷に上がった。


「こ、これが、五里か」


 良就は江ノ介から五里の様相について聞いていたが、驚いた。鬼という言葉はなんとか飲み込んだが、恐怖に顔がひきつってしまった。


「紹介しましょう。これがヤヤを救ってくれた五里です。五里、このお方が源良就さまだ」


「玄将はどこだ?」


 五里には挨拶など必要なかった。目的を果たせれば良い。


「玄将はこの都にいる。奴の家も知っているぞ。しかし、その痣は、見覚えがある」


 良就は無防備に五里に近づいた。


 五里は一歩も動かない。


「ふーん。その痣、あと少しか」


 痣は膝から下と右顔面と右腕を残し、全身にある。が、ここ二日間は広がっていない。


「玄将だったな?」


 良就は襖を全て開けて、誰も近くにいないことを確かめた。


「江ノ介、誰にも聞かれたくない」


「はい」


 江ノ介は庭に出て、床下に誰もいないことを確認した。


「見えるところには誰もおりません」


「その慎重さ、頼りにしているぞ」


「畏れ入ります」


 江ノ介は押し入れから座布団を一枚だけ出した。座るのはもちろん良就である。


「もう二枚出せ。おまえたちも座りなさい」


 三人は顔を近づけ、良就は小声で話し出した。


「五里、お前は玄将を討ちたがっていると聞いたが、その気持ちに揺らぎは無いな?」


「無い」


「お前はマロに玄将の居場所を訊きたいのだろ?教えてやっても良いが、質問に答えてくれたら教えてやろう。お前の持つ恨みとは何だ?」


 五里は見た目こそ恐ろしいが、中身はまだ八歳児だ。良就は下手(しもて)に出る気などさらさら無い。


 一方、五里は良就がどんな人間かなどに興味が無ければ、こうして話をすることをもともと求めていない。


 力ずくで聞き出すという手もあるが、江ノ介には恩があるし、ヤヤのこともある。


「お前には関係ない」


 母の人生を簡単に口にしたくないのだ。


「先日は玄将の罠にはまり、捕らえられたと聞いたぞ。マロならば、奴の隙を突く方法くらい、幾つでも思いつく。知りたくはないか?」


 五里の表情は変わらない。しかし、その拳には力が込められている。


 江ノ介は咄嗟に五里の左手を握った。


「玄将の前にお前を殺してもいいぞ」


「ふっふっふ。恐ろしいのう」


 良就は余裕そうに笑った。


「五里、ヤヤはお前のことを気にかけておる。どうか無事でいて欲しいのだ。そのためにはできることはしたいと、この江ノ介は思っている。だから助けたし、ここにも来てもらった。どうか、話してはもらえないだろうか?」


 一方的に向けられた好意ではないが、かまってはいられない。

 死期も迫っているのだから、無用と分かれば去るのみだ。


「もういい」


 五里は立ち上がり、出て行こうとした。


「もういい!」


 良就も立ち上がった。


「五里とやら、もういい。お前の決意はよくわかった。なに、役人を討つ手助けなど、マロでも容易くできることではないのだ。わかっておくれ」


 五里は足を止めたが、振り返りはしない。


「玄将を討つならば、明日の昼だ。都の東、山の入口に奴が通っている社がある。そこへ行くとき、奴は庶民に変装する。連れは子供一人だ。お前は鴨川の二条大橋に潜み、江ノ介の合図で躍り出て、討てばよい。どうだ?」


「考える」


 五里は静かに闇の中へ消えていった。


「良就さま」


「わかっておるな?江ノ介」


「はい」


近々 次話投稿 予定

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