信じてみる
全27部分です。お付き合いよろしくお願いします。
よろしければ、ご評価もお願いします!
昼に休み、夜に動くという生活をしていた五里は、なかなか寝つけずにいた。
すると、皆が寝静まった夜半に誰かが屋敷に入ってきた。
足音はまっすぐに五里のもとへ進んだ。
五里は部屋の隅に立ち、足音のほうを向いて身構えた。
襖がゆっくりと開き、男が顔を出した。
「おーい、寝たか?」
暗くてほとんど見えていない男と違い、五里はうっすらと見えていた。
男は小声で続けた。
「起きろ。静かに起きて、ついてきてほしい」
どうやら、殺しに来たわけではないとわかったので、五里から話しかけた。
「江ノ介か?」
「うわぁっ!」
男は驚き、勢い余って、襖を押し倒してしまった。
しかし、昼間と同様、誰も来なかった。
「そうだ、江ノ介だ。驚かさないでくれよ」
「勝手に驚くな。いくつか知りたい」
「とにかく、今はついてきてほしい」
誰もいない暗闇に向かって話す江ノ介だが、外に出るのは造作もないようで、物音一つたてなかった。
二人はその足で大津を離れた。
だいぶ空が明るくなってきたころ、山の始まりで休んだ。
「まずはじめに言わせてほしい。妹のヤヤを助けてくれたこと、心より感謝いたす。返しきれぬ恩ができた」
五里は初対面の男を信用しないのだが、普通に向き合ってくれるとなれば、ヤヤの兄でもあるし、話は違った。
「運が良かったのだ。俺のほうこそ、お前に助けられたようで」
江ノ介はまったく恐がる様子がない。ヤヤといい江ノ介といい、五里はまともに接してくれることが、何より嬉しかった。
「五里といったな?何故に、あの屋敷に入ったのだ?」
五里は、誰であろうと全てを語るつもりはない。それがヤヤの兄でも、ヤヤでも。
「玄将には恨みがある。許せない。必ず殺す」
五里は視線を逸らして言った。
「この度、俺はお前を助けたが、それでヤヤの恩を返せたとは思わない。どうか、俺にできることがあれば言ってくれ」
復讐することに五里は後ろめたい気持ちもあるのだから、それを手伝うと言われても、受け入れるわけにはいかなかった。
「これは俺が一人でしないと意味がない。嬉しいけど、手助けはいらない」
五里は立ち去ろうとするが、江ノ介は腕をとって付いてきた。
「なれど、このまま別れることもない。せめて、俺が世話になっているお方に会ってもらえないか?ヤヤのことを話したら、感動されて、涙を流して、会ってみたいとおっしゃるんだ!」
そんなことなど、五里には意味がない。無視して歩き続けた。
「そのお方も、玄将と同じご身分にあり、玄将のことをよく知っている。五里が入った屋敷には玄将はいなかった。玄将に辿り着きたいのならば、会ってみてはどうか?」
五里は足を止めた。
「武士は嫌いだ。もしかしたら、その男も殺してしまうかもしれないぞ!?」
五里の目は急に、刃の切っ先のように鋭く冷たくなった。
江ノ介も武士の端くれであるが、このときばかりは縮み上がった。
それを必死に隠して、続けた。
「とても立派な御仁だ。そんなことにはならん」
二人は夜になってから京を目指した。
近々 次話投稿 予定