有り難いこと
全27部分です。お付き合いよろしくお願いします。
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ヤヤが離れても、江ノ介を待とうと、五里は部屋から出ずにいた。
寝ている間に、きれいな服に着替えさせられたのだが、血まみれ泥まみれの服は洗って干してくれているらしく、それがどうしても気になった。
「おーい、ヤヤ!?」
奉公人の実家だが、武士の家。ここにも奉公人が来ている。しかし、誰も返事をしてくれない。
堪らず、そうっと襖を開けて、誰とも会わないように庭に出た。
物干しにかけられた五里の服はぼろぼろになっていた。
素早く取って、部屋に戻ったら、ヤヤが来ていた。
「驚かさないでください。消えてしまわれたのだと思いました」
「ごめん、ごめん」
五里は自分の服を探り始めた。
「もしかして、これを探しているのですか?」
ヤヤが出したのは小さな木片だ。
「良かった、良かった」
「それは何ですか?」
「おっかさんの形見だ。俺にはこれしかない」
「捨てずにおいて良かった」
ヤヤはそれを風呂敷に包んでいたらしく、五里は大切に扱ってくれたことが嬉しかった。
「ところで、あなたの名前をまだ知りません。聞かせてください」
村を出てから、まだ誰にも名乗っていなかった。
「俺の名前は五里だ」
「五里。覚えやすい名前ね。私の名前も忘れないでね」
まだ江ノ介は帰って来ず、五里はその日もヤヤの世話になった。
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