雲から見る雲
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しかし、いつになっても現れなかった。
そのころにはすでに、五里は都に入っていた。
昼は屋敷の陰に潜み、夜になると歩き回って玄将を探していた。
忍び込んだ屋敷で、枕もとに話しかけた。
手がかりすら掴めないうちに、不気味な幽霊の噂が都中に広まっていった。
その話は良就たちの耳にも入るのだが、時すでに遅かった。
五里は玄将の屋敷に忍び込み、奉公人に訊いたことがあった。
その奉公人は機転をきかせ、玄将は大津の屋敷に出張中であると嘘をついた。
五里は疑わず、玄将に一間ほどまでに近づいていたが、引き返してそのまま京を出てしまった。
夜が明けると、玄将が出勤中の屋敷に動きがあった。
「良就さま。なにやら、玄将さまのところの者たちが騒がしく出て行きました」
ヤヤの話を聞いて、良就は江ノ介に玄将を見張らせていた。
「玄将は残っておるか?」
「残っておられます」
「ふん。さては、鬼が出て、罠を張ったか」
「どのように」
「うん。家臣たちの後を付けよ。やつらよりも先に鬼に会い、ここに連れて来るのだ。必ずやマロが別当になるぞ」
すぐに荷物をまとめ、江ノ介は京を出た。
軽装の江ノ介は速く、すぐに玄将の家来を見つけることができた。
尾行して、江ノ介が大津に着いたのは、翌日の昼過ぎだった。
噂では、鬼は夜中の寝静まったころに出るようなので、まだ時間がある。
屋敷に張り込むにはまだ明るいので、江ノ介は実家に帰った。
突然の戻りだが、母は喜んでご馳走を用意した。
「江ノ介や、いつまでいるんだい?」
「夜になったら出る。鬼に言伝てがあっての、それが終わればすぐまた京に戻る」
「鬼だなんて、大丈夫なのかい?」
「わからんが、ヤヤを助けてくれた鬼だ。大丈夫だろう」
江ノ介の声を聞いて、ヤヤが奥から出てきた。
「兄上、私もあの方にお会いしたいです。会って、直接お礼を言いたいです」
「そんな悠長なことをしている時間はないだろう。そのうち会えるかもしれないから、今夜は我慢しなさい」
奉公人たちが膳を準備し、久しぶりに三人で食事をともにした。
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