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望月の虫

全27部分です。お付き合いよろしくお願いします。


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  昔むかし、越前と若狭との境の山間の、井山の村は小さく貧しかった。


 村人は皆百姓で、老若男女全員がたいへんに働いて、ようやく年貢を納めることができた。


 村の長である多良の息子、多朗が元服した年のことである。


 稲の実りが良く、収穫に汗を流した秋だった。


 多朗の嫁を決めるために村中の娘が集められ、その中で一番の美人の佐子が選ばれた。


 佐子の親は働き者で、親同士の信頼関係は厚く、話はすぐにまとまった。


 しかし、嫁入りの前日に、越前から帰京する武士の一行が村の近くを通り、山菜を摘んでいた佐子と遭遇した。


 武士の一人が佐子に惚れて、京に連れ帰って嫁にすると言い出した。


 多良を筆頭に村人たちは抵抗したが、刀を抜かれては仕方がない。米三俵で手を打たなければ、佐子も村人たちも殺されるところだった。


 佐子は村を離れる前に、井山に来ていた旅の僧の暁理(ぎょうり)を訪ねた。


 佐子は、多朗に嫁げなくなったことが不服で、悔しくて、必ず井山に帰ってきたいと伝えた。


「良いことが起これば、必ず悪いことも起こる。願いが叶っても、良い結果になるとは限らない。それでも望むのならば」


 暁理は囲炉裏の灰を湯に溶かし、佐子はそれをひと息に飲んだ。


「お前は男児を産み、その子とともにこの村に帰ってくるだろう。その子には五里と名付けなさい」


 佐子は着物をまとめるなり、すぐに村を発った。


 京に着くと、その日のうちに、佐子は再び売られた。


 買ったのも武士で、佐子は京から少し離れた寺に囲われることになった。


 佐子は武士の隠し妾にされたが、酷い扱いを受けることはなかった。それでも、(さら)われた恨みは消えず、毎日念仏を唱えて過ごした。


 三年後、佐子は子を産み、言いつけ通りに五里と名付けた。


 その子の左目は白目の部分も黒く、左腕は真っ黒で大きかった。


 悪霊の子を産んだと言われ、父から送られた刺客に母子揃って殺されそうになったが、寺の住職によって保護された。


 しかし、いつまでも護られるはずもないので、佐子は子の父に別れの意を書き置いて旅に出た。


 佐子はすぐにでも村に帰りたかったのだが、まっすぐに帰れば村に迷惑をかけかねないので、しばらくは方々を彷徨うことにした。


 そのため、佐子が井山に帰ったのは、子が三歳になってからだった。


 佐子の両親は、娘を失ったことでやつれていたが元気で、娘の帰郷を手放しで喜んだ。


 しかし、村の連中は五里の姿を見て、怖れた。


 さらに、佐子たちを人でなしと呼んで、距離をとった。


 見かねた多良が佐子と五里を引き取ったのだが、そのときには多朗にも妻子がおり、やはりどこにも二人の居場所はなかった。


近々 次話投稿 予定

早々 完結まで投稿 予定

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