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呪いの魔女と死にたがり少年  作者: 音無田 ゐこ
2/3

訳あり少年

 なんでそんなに食べれるの?と思うほど少年は食べた。野菜と保存のきく固い干し肉しか家にはないが、あんまりにも美味しそうに食べるので途中から私の分も上げてしまった。

 因みに仮面を左手で少し浮かせて、少年から私の顔が見えないようにしてサラダを少し食べた。それにしても少年は昔飼っていた金色の毛の子犬を思い出すような嬉しそうな顔で食べるから、なんだかじぃっと食べっぷりを見てしまった。

 最後の一粒まで綺麗に残さず食べた少年は目を輝かせる。


「久しぶりにこんなにも美味しい料理を頂きました!ありがとうございます呪いの魔女さん!」

「いいえ、こちらこそ見事な食べっぷりをーーって、そうじゃないわ!食べたら早く出ていきなさい!」


 慌てて少年を椅子から降ろして、背中を押して家から出す。

 危ない危ない流されるところだった。仮面から流れる汗を手で拭きつつ、少年が山から降りる所までを見届けようとしていたら、少年はもじもじする。

 

「あの……お礼がしたいのですが……」


 まるで捨てられた子犬のように言う少年に胸が痛くなる。

 だから昔飼っていた子犬を思い出してしまうんだって!すごい可愛い子だったから思い入れが強くって……いや、だからって何よ!私が下手をすればこの可愛い子を殺してしまう。そう、私は呪いの魔女だから。

 自問自答し仮面越しであるが、少年を睨み付けるようにして叫ぶ。


「お礼も何もいらないわ。早く山を降りて家族が待っている家に帰りなさい!」

「家族はいません」

「えっ」


 今まで弱そうに見えた少年の凛とした答えに戸惑う。狼狽えていると、少年は言葉を続ける。


「僕のせいで家族は死にました。……いいえ、僕が殺したも同然です。僕が家族の命を奪った」


 自嘲ぎみに話す少年。本来なら聞きたくないわとでも言って家に閉じ籠っていただろう。しかし、彼はまだ幼いのに達観したような言い方であり、どれほどの過去があったのか気になってしまった。何よりも大好きな家族と一緒に住めなくなった私は家族と言う言葉に弱かった。


「ど、どういうことなの……?」


 少年に問いかけると、彼は苦笑いをして突然、懐に隠し持っていた短刀を取り出した。

 もしかして、私を殺すために来た者だったのかと思い、咄嗟に相手を殺すため自身の仮面を外そうとする。その前に少年はなんと自身の腹部に短刀を突き刺した。

 目の前で赤い血が流れ、ぐちゅりぐちゅりと刃が肉を切り裂く音が響く。


 何が起こっているのか分からない。


 少年はいまだに苦く笑いながら自身の腹を抉るようにして刃を動かしている。仮面をとろうとした手さえ固まって動くことができない。私は久々に恐怖を感じていた。得体の知れない事に関して…………そう、自身が呪いの魔女となった日のような恐怖をこの少年から感じて目が離せなくなった。

 少年はうっとりとするような笑みを浮かべて、短刀を引き抜いた。


「僕は……死ねないんです」


 腹部も手も血でドロドロの少年。普通であれば致死量で死ぬほど血を流しているだろうが彼はピンピンしている。何よりも、腹部から煙のようなものが出てシューシューと音が鳴り、破れた服から見える傷付いた腹部が修復されていった。


 ーー少年は不死なのか。


 その事実を目の前で見せられたが、本当にそんな人間が居るとは思わなかった。しかし、だからこそ、少年は私に殺して欲しいと言ったのか。呪い同士なら死ぬことが出来るかもしれない。そんな理由で。

 巻き込まれた私は堪ったもんじゃない。私は人を殺したくて殺している訳ではないのだ。

 手をぎゅっと握って自身を奮い立たせる。


「死ねないからって人に頼るんじゃないわよ!私は絶対あんたを殺さないから!諦めなさい!」


 そう宣言して家から少年を追い出し、扉を閉める。今さら恐怖が全体に来て体が震える。しかしながら怒りも出てきてすぐに体が動くようになり、怒りに任せて家にある本をベッドに投げる。投げる。投げる。

 何かあった時も大抵は一人で解決しなければいけないため、怒りを沈めるために編み出した方法のひとつだった。本もベッドのクッションで痛まないし、掃除は本を本棚に戻すだけでいいからだ。

 全部本を投げ終わった所でぜぇぜぇと息がなり、仮面で更に息苦しいため外し、仮面もベッドに投げようとした所で我に返り、いつも置いている棚の上の定位置に置く。

 仮面が壊れてしまったら無差別に人を殺してしまうことになってしまう。仮面は忌々しいと思うと同時に自身の安全装置であるのだ。

 少し泣きそうになりながら、まだ明るい朝ではあるが、現実逃避のためベッドの本を片付け横になり、早く明日になれと言霊を唱えるのだった。






 チチチ、チチチという小鳥の鳴き声で起きるというメルヘンチックな起き方をしてみたいなと思いながら、寝れなかったため重い頭を上げつつ、鏡の前にたつ。

 自分でも酷いなと思うほど久方ぶりに目の下にクマが出来ていた。でも、化粧で隠すなんてことはしない。

 一人でここに暮らすようになってから人に会うこともないため(自殺願望者以外)ずっとすっぴんなのだ。顔をバシャバシャと乱暴に洗い、朝食の野菜を取りに行くため仮面を付け、外を覗き込む。

 相変わらず少年は物干し竿の近くの椅子に座って遠くを眺めていた。昨日あんなことをしておいて、呑気に座っていることに腹がたってくる。

 怒りもそこそこ、早く野菜をとって家に籠ろうと扉を開けて少年と顔を合わせずに急いで野菜を取りに行く。

 みずみずしく育っている野菜に対して、野菜は愛情に答えてくれ、裏切らないと可愛いらしいなすを頬擦りしていると、隣でギュルギュルと音が鳴った。

 それに冷静になって、真面目に野菜を取るのを再開する。

 しかし、ギュルギュルと鳴り続けるそれが気になってイライラとしてつい声に出してしまう。

 

「いい加減にしてちょうだい!隣でそんなに鳴らされたら気になるわ!」

「ああ、ごめんなさい!美味しそうで!食べなくてもいいんですが……」


 お腹を鳴らしながら今にもよだれを垂らしそうに少年は言う。昨日食べなくてもいいと言ったのは少年が不死だからだろう。知った今はある意味呪い同士であることもあって少し同情心が湧いてしまう。


「……少しだけなら分けてあげるわ。早く帰りなさいよ」


 少年はパァッと顔を輝かせた。でも、頷かずに礼を言う。


「ありがとうございます!」


 ニコニコとした顔で言う少年に何だか騙されているような気がしたが、人生経験はこちらの方が上だ。そんな訳はないだろうと首を振って野菜を半分あげるのだった。


 そのあと、少年が昨日自身を傷付けた短刀で野菜を切ろうとするもんだから慌てて止め、結局私の家で野菜を切って食べることになった。


「呪いの魔女さんは優しい人ですね!僕こんなに優しい人、母親以外に会ったことがありません!」

「あんたが世間知らず過ぎるから……本当に自分を傷付けた物で食べるかと考えたら……う……とにかく、早くどっか行きなさい」


 コロコロと笑う少年に気味悪く思いながらも何故かほっとけないような気がするのだった。



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