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呪いの魔女と死にたがり少年  作者: 音無田 ゐこ
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小さな訪問者


「だから見ちゃダメって言ったのに」


 すらりとした美しい黒髪女性の足元に、明らかに似つかわしくない大男の死体があった。女性はその死体を眺めて吐息をもらす。


「魔法なんて使えない私が死体を運ぶ身にもなってよ」


 女性は考えても仕方ないなと死体の手を持ち、墓地まで引きずって行くのであった。




××××××××××




 王都から離れた田舎町、その更に離れた小さな山の天辺に私の小さな家がある。あまり人が居ないこんな辺境の地に住んでいるのは訳があるのだが、何故か私を求めて人がやってくることがある。

 それは私が呪いの魔女と呼ばれているから……。


「呪われているけど、呪われている以外一般人な私は土を掘り起こすのも一苦労なのよ!ほんと、墓を作る身にもなれっての」


 ザクザクと墓地と言えるか分からないが、私特製の墓地に今朝死んだ大男の死体のため、新たな墓を掘っているのだった。


 結局日が天辺に登るまでかかってしまった。木の板を重ねただけの歪んだ十字架を埋め立ての土に差してため息を吐く。


「ああ、静かに暮らしたい」


 人から離れた場所に家を作ったが、噂が噂を呼んでいるのか、人はやって来るのだった。

 散々人が来ないような対策をしているのだが、それは意味をなしていないのだろう。そのひとつである、家の前に立て掛けた木の看板に『家へノックする前に、隣にある墓地を確認して。そこに貴方の墓が立つのをお望みならノックをしなさい』と自分で書いたのだが……効果がない。

 当て付けのように看板に蹴りを入れるのだった。


 土と汗で汚れた服ごと近くにある川へ飛び込み、全身ずぶ濡れになる。

 しょっちゅう人が来ることもないため、ズボラにしていても誰も文句は言わない。まぁ、例え私を見たとしても直ぐに口無しとなってしまうから問題ない。泥と気持ち悪いのを一緒に流して全身びちゃびちゃのまま、川から上がる。家まで水浸しの道が出来た所で家に入り、服を着替えるのだった。


 着替えた後で、流石に朝から何も食べていなかったことに気付き、家の墓地とは反対側にある庭に行き、みずみずしく育った野菜をいくつか採る。田舎町と比べ山であり、土の栄養がいいのか、野菜がよく育つのだった。


 家に戻り、切った野菜を食べている所だった。

 ドアをノックする音が鳴る。今日は訪問客が多いな。また墓を作らなければならないかと気落ちしながら一応確認のため、黒と白に分かれた不気味に笑っている仮面を手に取る。仮面をすると、直接でないからか、呪いの効果は発動しないのだった。仮面をしてから窓から外を覗き見る。


 ーー思考が一時停止した。


 なぜなら眩しいほど金糸の髪を垂らし、蜂蜜色の瞳を輝かせる美少年がそこに居たのだ。自殺願望者のような目が死んでいるような奴でもなく、ニヤニヤと笑う度胸だめしで来たような奴でもない。


 いや、待って。これは想定外過ぎる。


 流石に未来ある子供を呪い殺す覚悟なんて出来ていない。

 では、どうするか……居留守しかないだろう。

 その後、何度も少年はノックをするが、私は出なかった。そして、諦めたのだろう。扉から離れる。

 少年は帰る……のだろうと思ったら私が洗濯物を干したあと、いつも座っている椅子に座った。

 そこは諦めて帰ってよ!!まぁ、開かなかったら開かなかったで無理矢理抉じ開ける馬鹿が何回か居たけど、それよりは可愛いもんだけれども!もしや、私が家から出てくるまで少年は待つつもりなのか?いいだろう、籠城してやる。

 幸い本日は凌げるだろう食事に使う野菜は先ほど取ってある。寝る頃には帰るだろうと仮面を外し、暇潰しに編み物をするのだった。






 時間も忘れて編み物に没頭していたため、あっという間に時刻は夕方になっていた。

 一応少年が居ないか確認しておこうと仮面をして外を覗きみる。


 少年は朝と変わらず椅子に座っていた……。


 流石にこの時間に帰らなければ、山を下っている途中で野生動物が少年に襲いかかってくるかもしれない。

 此方の顔を見せて殺すのも嫌だが、野生動物に殺されてしまうのも後味が悪い。

 どうしようと悩むも答えは出ない。 ……いや、まだ夜にはなっていないし時間はある。お腹が減ってきたため、まずはご飯を食べようと準備するのだった。






 食事が終わり、日が完全に落ちるも少年はまだ座って居た。そもそも呪いの魔女見たさに好奇心で私の元へ来たとしても、これほど長く居るものだろうか。何か深い理由があるのか……。

 仮面をしたままで話しかければ呪いは発動しないため、理由だけでも聞いてみようかとそっとドアを開けるのだった。


 ドアを開けると少年は気付いて此方に顔を上げた。その瞬間、私の不気味な仮面に驚いたのだろう。椅子ごと後ろに倒れた。

 少年がこのまま怖がって逃げてくれたらいいけど、野生動物が来たら危ないから引き留めなきゃいけないなどと考えているだけで辛い。

 そもそも大きな問題があった。


 私コミュニケーションとれない!!

 

 椅子ごと倒れて大丈夫と声をかけても仮面の所為で逆効果だろうし、こういう場合は脅しても駄目だろうし、そもそも少年にどうやって話かければいいか分からない。


 立ったままどうしようか悩んでいると、少年がすみませんと立ち上がってキラキラとした目を此方に向けて口を開けた。


「呪いの魔女さん、どうか僕を殺して下さい!!」


 綺麗な顔をして物騒な発言をしている少年を見て、今まで考えていた事が全部吹っ飛んだ。それよりもなんだか腹がたってきた。

 コミュ障を忘れて勝手に口から言葉が出る。


「絶対嫌。あんたは殺さない」

「えっ?なんで……」

「何がなんでも殺さない。明日の朝帰ることね!」

「待って下さ……!」


 バタンと戸を閉め、そのままドアにもたれてずるずると座る。

 今まで会った自殺願望者はあんな強い意志を持っていなかった。もう既に死んでいるかのような顔をしていたのだ。

 ましてや私は人を殺したくて殺している訳ではない。あんな少年を殺してしまったら流石に罪悪感が強すぎて引きずってしまうだろう。明日早く家へ帰ってくれと願うのだった。


 翌日の朝となったが、願ってもそうそう叶う訳はなく、仮面を付けて窓を覗けば少年はいた。持参していたのか、毛布のようなものでくるまって座っている。一向に帰る気配はなかった。


 さて、どうしようか。


 考えても何も出てこず、お腹が減って余計に考えることが出来なかった。

 そのため、腹ごなしをしてから考えようと重い腰を上げて仮面を付け、戸を開けるのだった。






「あ、あの!」

「…………」


 少年が必死に話しかけてくるが、私は無視してぷっくりと健康に太った野菜を収穫していく。今日はトマトも那須も食べ頃であり、炒め物でもしようかなと現実逃避する。

 途中から雑音は聞こえなくなった。諦めたのだろう……。野菜もとり終わったところで顔をあげると、なんと目の前に顔があった。


「ちっか!?」

「あ、ごめんなさい!野菜が美味しそうだったのでつい近くで見てしまいました!!」


 私が大声を出すと少年は後ろへ下がって謝った。そして、盛大に腹の音を響かせるのだった。


「あぁ……本当にごめんなさい。食べなくても生きていけるんですが、昨日から何も食べてなくて……お腹は減ると鳴ってしまうんです」


 今だにグゥグゥとなり続ける少年のお腹。それを手で止まるように必死に押さえている。食べなくても生きていけるってそれどれだけ貧乏だったんだと、何度も謝る少年のことを少しだけ可哀想と思ってしまった。


「……食べたら帰りなさいよ」


 ついと出てしまった言葉にはっとする。

 別に久しぶりに話し相手が出来て嬉しいとか思ってない。そう、少年が山を降りている途中で倒れられたら困るから食事に誘うのだ。

 そう自分に言い訳をして、野菜を家まで運ぶのだった。


ゆっくり続きます

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