No005 アイリの野望、内政編 「政策着手」 側近と視察。行政改革を決断する。3歳10月
ここからいろんなことを考える幼女時代の始まりです。
アイリは今日、お出かけをする。
背中にリュックサックを背負い、ポシェットを肩にかける。
お菓子や水筒や着替えや、いろんなものが入っている。
リュックもポシェットもウサギ型にしてある。
出かけるためにアイリが自分で作っていたものだ。
アイリはこれを、お出かけセットと呼んでいる。
この国の中央は、皇王がいる皇都のある場所だ。
皇都は、皇王の直轄地である。
皇都から、東に3領ほど離れたところが、マサツグの領地カザマ領だ。
この国は、領、郡、郷、という単位で領地が構成されている。
10郡で1領。1郡は、5~10郷で構成されている。
領とは県、郡は地区、郷は市と考えればいい。
郡を治めれば、豪族と言われる。郷レベルなら郷士。
複数の郡を治めていれば、大豪族と呼ばれることもある。
父のマサツグは、厳密にいうと大豪族になる。
全領地の8郡を直轄地としているだけだが、皇王から領主任命を受けている。
領主は勝手に領名を付けることができる。
マサツグは、8郡の直轄地を、カザマ家の領地としてカザマ領と名付けている。
直轄地内には、カザマ家以外の豪族はいない。
カザマ領内には、4つの川が流れている。
中央にあるのは、中川。東にあるのは、東川。西にあるのは西川。
実に安直な命名だ。命名権は領主のマサツグにあるから性格なのだろう。
そして西端の大きな川は、青河と呼ぶ。他に比べて川幅が広い。
中川の周辺地域は、中川郡と呼ばれる。
中川中流域の東側に、カザマ本郷があり、そこに領主館がある。いわゆる首都だ。
祖祖父の時代は、この本郷を拠点にした小豪族だったらしい。
東川を越えた先に、この領の残り2郡の領地を支配する豪族がいる。
マサツグの支配外の存在だ、反カサマ家勢力である。
領地を完全支配したければ攻め取るしかない。
仮に豪族が支配下にある場合は、2郡は属領扱いになる。
直轄していないから、外部委託している感じになるのだろう。
領地の北は、森と山が広がり、青河の上流がある。
そこが北の領地境になっている。
北にある隣領地は、豪族の治める属領を含め、10郡すべて領主の支配下だ。
西端の青河が西の領地境だ。
青河の向こうにある隣領地では、今だ豪族が競っている。
領主もいるが、大豪族レベルで領内支配ができていない。
いつ領主が入れ替わるか、わからない状況だと言える。
南は全部、海に面している。
西川の河口から、更に南に半島があり、半島だけで1郡ある。
半島は、ほぼ森と山だ。
4つの川のおかげで、カザマ領は平野が広がり、水利のおかげで水田が多い。
富養な土壌により、ここは豊かな土地だ。
アイリが目を付けたのは、西川流域と青河までの西部一帯の土地。
相変わらず安直な名称だが、西川郡、青河郡、北青河郡。
更に、西川河口の南にある海に囲まれた半島を半島郡という。
カザマ領の西部4郡を占める地域範囲となる。
西川周辺は、平野が多い。しかも、未開拓地がまだある。
そこに、アイリが拠点にしようと計画した場所がある。
ここまでの情報は、鑑定スキルを使い、人から聞いた情報だ。
確実な情報を得るためには、直接行って、現地を鑑定する必要がある。
移動手段が徒歩しかないこの世界で、
4歳に満たない幼女の足ではとても大変だ。
アイリは、まず馬と馬車を手に入れた。
次に、アイリの手伝いをしてくれる側近を任命する。
側近は、馬車の御者も兼ねる。
アイリの側近に選ばれたのは、祖父の時代から使えている老人。
名前をカンドウ(勘堂) 42歳 アイリは、爺と呼んでいる。
老人と言っても、前世時代なら中年だ。
老人扱いなのは、「人生50年・・」というものかもしれない。
祖父や父が戦場で暴れていた時。
物資の補給など、兵站支援を担っていた裏方的人物でもある。
戦場で、目立つ功績がなかったから、下級武官として埋もれていた。
アイリの人物鑑定によると、「交渉」というスキルを持っていた。
祖父や父が戦争し続けていたから物資の徴収で苦労したのだろう。
武官ではなく、内政官向きだろうと判断し、側近として迎えたのだ。
この国の馬は、身体が小さくて、足が太く短い。
日本でいう木曽馬のようだ。こちらでは山馬という。
山馬の脚は遅い、馬車を引かせて走らせても人の小走り程度の速度だ。
しかし、歩くより楽なのは間違いない。
2人は馬車に揺られ、領主館から西川中流域へ向かう。
西川郡役場がある場所だ。
領内には、郡境ごとに関所がある。領境の関所は砦だ。
関所は、税の徴収を行ったり、治安を維持するための拠点でもある。
郡役場は、郡の中央にあって、役所と警察署と税務署の様な機能を持つ。
郡役場でも鑑定しまくり人物事典のページを増やした。
電気がない世界だから夕日が出たら、あっという間に真っ暗になってしまう。
日が暮れてきたので西川郡の郡役場宿舎に泊まることにした。
ここまでの移動中でも鑑定していたのは言うまでもない。見ていただけだが。
翌日の朝、目的地へ向かうため西川中流へ行き、さらにそこから南下する。
周囲を見ながらアイリは爺に言う。
「爺、南に行けば海が近いし、北に行けば森もある。さらに北には山もある。
平地も広くとれるし、いい場所ね。」
やがて目的地に着いた。そこには、野原が広がっている。
アイリは、満足したように爺に微笑みながら、その小さな胸を張る。
「水運や陸運に向いている場所だし、ここを拠点にして改革するわ。」
その後アイリは、爺と二人で10日間ほど、西部4郡を移動しながら鑑定しまくった。
土地、人物などあらゆるものが、世界事典に記録されていく。
アイリには歴女としての夢がある。
憧れの真田幸村・・そして十勇士。
実際には存在しない架空物語ではあるのだが、アイリには関係ない。
かっこいいは正義。
だから、そのうち自分で十勇士みたいなのを作りたい。
鑑定しまくりなのは、そういう理由もある。
連れまわしている爺には内緒だが・・。
「めぼしい人材は早めに手を付けなきゃね・・ふふふ」
アイリは心の中で微笑む。
アイリ個人の野望はおいておくが、4郡行脚の後
カンドウからマサツグに報告をしてもらい、
西部4郡をアイリの政策権限地とする許可は取れている。
「さて、内政政策を始めますか・・・ふふふ」
アイリは、微笑みながらカンドウに大まかな方針を告げる。
「まずは、商業を奨励してお金と資材、人材を集めましょう。」
カンドウは、姫なら何か策があるのではないかと思って聞き続けることにした。
「私が納める4郡は、関税無料とします。来るものの自由往来を宣言するのよ。」
来るもの拒まず、お金取らないから来てね。というわけだ。
「自由貿易郷を作り、そこでの税金も取りません。」
「自由に商売をしていいと許可します。」
これは爆弾発言である。
この国において、商人とは行商人だ。移動しながら仲買人のようなことをする。
商店など存在しない。ほとんど移動した先で露天で商いをする。
職人に関しても同じで、自分で作ったものを売りに行ったり、移動先で期間雇われになる。
仕事を求めて、移動するのが当たり前だ。
領主や豪族らは、行き来する都度に関税やら移動税を取るため、関所を置く。
商人や職人などに、お金を払わせるためだ。
領主によっては、儲けた分を巻き上げる売り上げ税もある。
領民は、農産物などの現物納税だから、現金確保のための手段になっている。
税取得のために行われてきたことを、すべてぶち破るのだからびっくりである。
アイリは言う
「この政策を実施するためには、行政の見直しをしなければなりません。」
アイリは、西川郡役場の宿舎を仮の住まいとした。
しばらくの間、4郡と内政拠点の改革をするためだ。
メイドさんの仕事とアイリの仮の料理人として
領主館からサヤカもやってきた。
アイリの屋敷ができる間、面倒を見てもらう。
アイリは、感謝をしてサヤカに自作のエプロンをプレゼントした。
「和服メイドさんに白エプロンは、はずせないよね・・ふふふ」
胸のあたりにウサギマークを刺繍してある。