No004 アイリの野望、誕生編 「決断、即行動」 父へのお願いで母に薦められる。3歳10月
やっと主人公アイリが動き出しました。
この国のことをアイリは「なんちゃって日本」と呼んでいる。
着ているのは着物だし、言葉は日本語が通じる。
文字だって漢字モドキとひらがなモドキだ。
食事も日本食っぽいし、家も日本古民家風だったりする。
「うーん、時代で言うと室町時代あたりかな・・」
アイリは思った。
それにしては、技術が遅れているし、商業など壊滅的だ。
「英雄見つけるついでに、ここのレベルを日本の歴史並みに上げようか・・・」
前世の記憶にある戦国時代が好きだったオタク歴女は、野望を持つ。
今日、アイリは父におねだりする気で満々だ。
父マサツグは、カザマ家で初めて領主の任命を受けた人物だ。
祖父は大豪族で、この領地の近隣を従え、闘って戦没していた。
直轄地をさらに広げ、周囲の豪族を根絶やしにしたのが、父マサツグである。
武将として名高いが、政治はやや苦手らしい。
領地の内政は、部下に任せている。
皇王と呼ばれるこの国の王様に領主を任命される。
というのは建前で、領主の座を力で認めさせるというのが正しい。
この国の領主というのは、代々引き継ぐものではない。
その領地で、一番力があるものがなるのだ。だから戦争は絶えない。
マサツグは言う「アイリ、今日は何ようだ。」
マサツグの隣には、妻のアヤノもいる。
アイリの話を聞きたいようだ。
娘の前でも父親の威厳を保つのだが、目の前の幼女にはいつも翻弄されている。
アイリももうすぐ4歳になるか・・。この国の年齢は、数え年だ。
「まさか自分の娘が、英知の加護を持っているとは、思っても見なかった。」
マサツグは、いつも妻のアヤノに言っている。
生まれて間もない頃から、大人のように話してきたかと思えば
何をさせても非の打ち所がない娘。
アヤノには、「うふふ、天下を統一するかもですよ 旦那様。」と言ってごまかされる。
日々わけのわからないことをしでかす娘を前に、心の中では冷や汗をかいている。
今日は、娘のアイリが何を言い出すのか・・。
「父上様、今日は話しを聞いてください。」そう娘に告げられた。
マサツグは、娘が何やらとんでもないことを言い出すかもしれないと覚悟している。
この世界では、長男が跡を継ぐという決まり事はない。
皇王の初代が女皇王であったこともあり、能力次第で女性が上に立つことは珍しくない。
遠くない未来、アイリは人の上に立つだろう・・・。
マサツグは、そう思っている。
「父上様、私に直轄地の政策権限を分けてください・・ふふふ」アイリは平然としている。
4歳前の、いや現在3歳の幼児が言う言葉ではない。
普通の子供なら笑って済ませられるが、この娘相手ではそれができないと理解している。
アイリの言葉に驚きながら「そうきたか」と思ったがそれを隠す。
心の中ではたぶん言い負かされると思うが、とりあえず、ごく普通の返答を返してみる。
「アイリ、まだそなたは勉学をする歳ではないのか・・」
この国の常識では、それが普通だ。
どれだけ出来のいい子供であっても7歳までは勉学をする。
普通は、10歳まで親元で手伝いをしながらいろいろ学ぶのだ。
「机上の勉学ではなく、実地の勉学をしたいのです。」
アイリは、そう言って、にこりと笑顔を返す。
領内の部下でアイリを教育できるものはすでにいない。
一部の学士も投げ出すほど、アイリの知識はそこが知れない。
文学だけでなく算術、戦術、軍学においても群を抜いている。
武道においても、
弓術や剣術、薙刀もできるし、馬術や体術もできてしまう文武両道なのだ。
この年齢では、ありえない。
このからくりは、前世で歴女だった彼女が戦国武将にあこがれ、
いろいろやった黒歴史の結果である。
前世で武将並みに、剣道やら弓道やら合気道やら古武道などを散々やってきた。
武将なら騎乗しなきゃと言って、乗馬などもやっていた。
行き過ぎたオタク歴女とは、ただの歴史オタクではないのだ。
前世の知識や経験は、隠れスキルという物だろうか、とにかく技能が高かった。
「しかしだな・・」困ったマサツグは悩む・・・悩んだ振りなのだが。
「アイリのしたいように、させてあげたらどうですか?」アヤノが横やりを入れてきた。
「もうアイリに学ぶものはなくてよ、経験を早くから積ませるのも親の度量ではありませんか」
妻に正論を言われるとどうも弱い。
本音を言えば、妻の助け舟で助かったというのが正直なところだ。
「この領地の内政を助け、地力を上げてみせますから・・お願い 父上様。」
上目遣いでアイリは、可愛くおねだりをする。
苦手意識のある内政という言葉と妻と娘に甘い父は、ここらあたりが引き際だと悟る。
というか、最初から結果はわかっていたのだが、
父と領主の立場上の問題があった。
すぐに、はいそうですか、それではどうぞと言えなかっただけだ。
「わかった・・、但し側近をつけること。」
さすがに幼児一人では何かと不便だ。
「自分が政策権限が欲しいと思う領地範囲をまとめ報告させよ。」
もうこうなれば娘が、何かやらかしても自分が尻拭いすればいいと結論は出ていた。
いや、実際には部下に丸投げなのだが・・・それは言うまい。
「よかったわね アイリ頑張るのですよ。うふふ。」
優しい風をまとい穏やかに微笑みアキノは言う。
母上は、いつも私の味方だ。最高にやさしい・・アイリは思う。
「ありがとうございます。父上、母上・・頑張ります。ふふふ」
アイリは、にこにこしている。
「側近の人選は自分で行います。あと・・部下にする人も自分で人選します。」
さぁこれで、人物事典の実使用ができるし、世界事典もページ増加できるだろう。
いろいろ試したいこともたくさんある。
ふふふんと、アイリの鼻息が荒くなった。