最強剣士はコミュ症です〜寡黙なだけなのに勘違いで持ち上げられる〜
レナード・ウィルクスという男がいた。彼は寡黙な男だった。
彼は王国の騎士団の一員だった。黙々と剣の腕を磨き続けた。彼は20歳にして最強の剣士だと噂されるようになった。その努力と腕前が認められ、やがて彼は隊長に上り詰めた。
「隊長! 休日は何をなさってるんですか?」
「ん? 寝てるだけだな」
「す、睡眠。なるほど! 常に英気を養い臨戦態勢でいるということですね? 流石隊長です!」
「い、いや……ただ寝るのが好きなだけなんだが……」
「みんなー! 聞いてくれえ! また隊長の凄いお言葉をいただけたぞー!」
「「「ナ、ナンダッテー!?」」」
彼は寡黙だったが、何故か人を惹きつける才能があったのだ。まぁそれ故に勘違いされることも多々あったようだが。
そんな彼が隊長になって5年が経ったある日、隣国との領土争いで戦いに赴いた。戦いは激化し、戦争になってしまった。レナードは部隊を指揮し、戦いを優勢に進めていったが、ある場所で謎の次元の歪みに吸い込まれてしまった。
彼が次に目を覚ました時は、見たこともない場所に飛ばされていた。そこは森だった。彼は訳もわからず歩き、そして1匹のしゃべるトカゲと出会った。
「私の名前はルイーザ。こう見えて人間さ、呪いでこんな姿になっちゃってんだ」
「呪い?」
「そう。あんた、私の呪いを解く手助けをしてよ。世界のどこかにある呪いを解く宝玉を探しにさ」
そこからレナードはルイーザから様々なことを聞いた。そしてこの世界は彼が前にいた場所とは全く別の異世界であることが判明する。
そんなこんなで、レナードは元の世界へ戻るため、ルイーザは元の姿に戻るために一緒に旅をすることになった。
そんな彼らは、ある日盗賊の被害を受けている町に偶然足を踏み入れた。
「旅の人。今この町は盗賊がいて危険です。引き返した方がいいですよ」
町の住人がレナードにそう言った。
純粋に盗賊について興味を持ったレナードは、ついついこう尋ねた。
「盗賊の狙いはなんだ?」
「町にある先祖代々から伝わる宝石『ルビライト』を手に入れるためですが……はっ! ま、まさか……あなたが盗賊を退治してくれると!?」
住人は驚いたあと、感激した様子でレナードに近づいた。
「い、いやそうは言ってないが……」
「ありがとうございますありがとうございます! 通りで力強い体格だと思いました! 盗賊は今町の中央で自警団と交戦しているはずです! お願いします」
「……わかった」
レナードは、言い返すことができず言われたように町の中央へと向かう。そんなレナードを見て、型に乗っかっているトカゲのルイーザは、あきれた様子で言った。
「馬鹿だなーレナード。あんなん断れよー」
「まぁ、そういうなルイーザ。宝石があると言ってただろう。もしかしたらお前の探す石かもしれないぞ」
「まぁ、そっか。けどそれ最初から考えてた?」
「……今考えた」
レナードが町の中央に到着すると、確かに盗賊たちが自警団と交戦していた。そして明らかに自警団が劣勢だった。
レナードは、それに割って入ると、盗賊に剣を向ける。
「なんだてめえ?」
盗賊たちはレナードをみて疑問を浮かべた。
それと同様に自警団も困惑していた。
「あ、あんた! 危険だぞ、何してるんだ」
「大丈夫」
レナードはただそれだけ言うと、盗賊に向かって人差し指を曲げて、「かかってこい」というジェスチャーをした。
「舐めてんのかてめえ!」
盗賊たちは、一斉にレナードへと斬りかかる。レナードはそれを恐れぬことなく、冷静に剣でさばき、そして一瞬のうちに斬り捨てた。ただし峰打ちでだ。異世界で人殺しをして捕まっても困ると考えたためである。
(それにしても……弱いな。俺のいた世界の盗賊なら5倍は強かったが)
レナードはそんな事を考えていた。
「ば、馬鹿な……な、なんて強さ……」
盗賊たちは気絶した。
そしてその状況を把握し始めた自警団の人々は、歓喜の声を上げた。
「あんた何者だ!? 凄えよ! あんたは町の救世主だ!」
「いや、あれくらい大した事じゃ……」
「あいつら王都の冒険者どももお手上げだったんだぜ!? それを一撃って、凄すぎるよ! しかもそれでも大したことないってあんたの力が恐ろしいよ!」
やんややんやとみんながレナードを持ち上げ始めた。しかしレナードは困惑していた。昔からこういったのが苦手なのだ。
「でも、あんたなんでこいつら殺さなかったんだ?」
自警団の1人がレナードにそう尋ねた。
「それは――」
「ばっかやろお前、これはこの人が俺たちに与えてくれた『試練』だよ」
レナードが答える前に、別の男がそれを遮って何やら話し始めた。
「いいか? ただ殺すだけじゃなく、全員生かすことで俺たちにこいつらを裁く権利をくださったんだ! 『自分の仕事はしたから後はお前らで決めろ』そういうことだよ。俺たちの事まで既に考えてくださってるんだ!」
「そ、そういう事だったのか! なんというお人だ……!」
「凄え凄えよ、凄すぎるよ!」
いやいや、理由は殺すと面倒なことになりそうだったから、ともはや言い出せる雰囲気ではなくなっていたため、レナードはとりあえず黙っていた。
「あんたの名前を教えてくれ!」
「レナードだが」
「そうか、レナードさん。本当にありがとう! みんな、1つ提案があるんだ。みんなでレナードさんの銅像を建てないか!?」
「いや、銅像は流石に恥ずかしいんだが……」
「うおおおおお!! 作ろうぜ! 偉大なるレナードさんを後世に残そう!」
「腕がなるぜ! 今日からもう取り掛かろう!」
自警団たちは張り切り始めてしまった。どうしようもないので、レナードはとりあえずその場から動いて、ルビライト宝石というものを見せてもらうことにした。
それは町の中央にある小さな建物にガラスに入れられて飾ってあった。紅く透明な宝石だ。
町の人の話では、昔大蛇を討伐した際に蛇の腹から見つかったものだと言われているらしい。
レナードは特別に触れてもいいという許可をもらった。
「どうだ、ルイーザ」
「んー……違うっぽいね。何も感じない」
ルイーザはトカゲの姿で宝石に触ってみたが、何も起きなかった。
「仕方ない、また別の場所に探しに行くか」
そう言って、レナードは町から去ろうとしたが、町の人々に引き止められ、豪勢なもてなしをされた。
全てが終わる頃には夜も更けていた。
「さて、じゃあ行くぞルイーザ」
「別に今日はここで休んで明日の朝から行けばいいじゃないか」
「俺は一刻も早く元の世界に戻りたいんだ。それはルイーザも同じだろ?」
「私のことを想ってくれてるのかー、流石レナードだね、さすレナだよさすレナ」
「うるさい。さぁ行こう」
そう言ってレナードたちは歩き始めた。
彼らの道はまだ果てしなく遠い。
その後もレナードが勘違いされまくった挙句に世界を巻き込む大きな事件を起こしていくのはまだ先の話だ。