初陣
前回の投稿から時間が開いてしまいすみません…。
とうとう、地獄の実習が始まりました!
とりあえず、学校で習った様にヘルメットを被り、チェーンソーを両手で持った。
面倒なことになったなぁ…。
寮(旅館)に行く途中、倒木で道が塞がっているとの連絡を受けた城島が、迷わず現場へとハンドルを切った。
しかも、このことを予想していたかの様に、送迎の車内には三つのヘルメットと二台のチェーンソーが積まれており、現場対応が出来てしまうという謎の偶然が起きていた。
現場は、パトカーが手前で道を封鎖している川沿いの一本道。
この先の集落に繋がる唯一の道らしく、住民の車が倒木により、足止めを食らっていた。
「じゃあ、実習初のお仕事。初陣じゃ〜。かかれー」
どこかの将軍にでもなったつもりなのだろう。笑顔で城島が右手を木に向けた。
仕方なく足軽の将太は、てくてくと歩きながら、敵である倒木に近づく。
それを遠くの車の脇でヘルメットを被り笑顔で見つめる白石。
「女子って得だよな」
思わず愚痴が零れたが、タイミング良くチェーンソーのエンジンがかかったため、将太の愚痴が城島の耳に届くことはなかった。
城島が木の枝を落とし、将太が木の幹を切断するという謎のフォーメーション。
「とりあえず、応援で来るクレーンで吊り上げられるくらいの大きさに切って」
城島は笑顔で言ったが、将太にとってそのクレーンがどの位の大きさのクレーンか分からない。
聞くのも面倒だし、テキトーに切るか…。
道を塞ぐ倒木は、よりによってそこそこ太い。
城島は、手慣れた様子で次々に枝を落としていく。
学校のチェーンソーより、型式が新しい現場仕様のチェーンソーのため、どんどん刃が木の幹に吸い込まれていく。
「小野君。その調子」
「了解」
終始笑顔の城島。本当にこの仕事が好きなのだろう。
笑顔の城島にぶっきらぼうな態度で返答する将太。
チェーンソーの音が響くここは、実習でなく、本当の現場。
朝田の様に、実技に取り組む生徒の近くで監視したり、ダメ出しでメンタルを滅多打ちにされたりすることもないのだろう。
「討ち取ったり〜」
一通りの枝を落とし終わった城島が、笑顔でチェーンソーを天に掲げた。
チェーンソーの刃先に、太陽の光が反射する。
やばい。やっぱりこの人、癖が強過ぎる。
やっと木の幹を切り落とした将太は、ゆっくりとゴーグルを外した。
城島が警察官と話をしながら、何かを指差している。その指の先には、ぶかぶかのヘルメットを被った白石の姿。
「小野君。ちょっとこっち来て」
今度は、将太を手招きする城島。チェーンソーのエンジン切ってから、城島のもとへ歩き出す。
「研修生の小野君。この子、優秀って先生から聞いてるから、何かあったらこの子に頼んでね」
将太の肩を持って言った城島。
朝田は、将太を優秀とか思ってもいないことを城島に伝えて、この深川林業に派遣したのだろう。
「よろしく。小野君。駐在の鳥山です」
笑顔の警察官は、見た目二十代後半。この集落で一番年齢が近く、話しが合う存在かもしれない。
「よろしくお願いします」
鳥山は、癖が強くない、つまり一般的な人。
駐在の鳥山の登場で、一般的な人の定義やら例を忘れかけていた将太にとっては、久々に通常人を見た気がしてたまらない。
とてつもなく落ち着く。
将太の素直な感想だ。
「クレーン来ましたよー」
白石が、ぶかぶかのヘルメットを抑えながら手を振って叫んだ。
到着したクレーンは、将太が想像していたよりも遥かに大きかった。
「まさか、大型が来るとは。細かく切り過ぎちゃったなぁ。失敗、失敗」
城島自身もどの大きさのクレーンが来るかは知らなかったらしい。
笑顔で頭をかく城島。
「諸君お待たせ。ヒーローの登場だい」
クレーンから、若い男性が降りてくる。
おいおい、この人も癖が強過ぎる。
思わず特大の溜息が零れた将太だった。
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