カフェ
研修前の思い出作りに励む将太と宗介の二人…。
そこでは、思わぬ出会いが…。
荷物をまとめて帰宅の準備をする。なぜか、ぼんやりと眺める先に新島がいる。
無意識に目で追っているのか?
宗介の白という言葉がなければ、新島が視界に入ることも、これほど多くなかっただろう。
「校内には、三つの更衣室がある。俺達二年生は、二階の端の更衣室を使う」
更衣室覗きを猛烈に押してくる宗介の話を聞き流し、テニスに打ち込む新島を眺める。
スタイルを良く、頭も良く完璧な新島。そんな彼女が隣に席に座っているということは、他の男子からすれば、幸せなことなのかもしれない。
「今日は、もう部活始まってるから、部活終わりを狙うしかない。だけど、今日は早く帰りたいし、何をするか?」
「カフェ行こうよ。交差点のあのカフェ」
「あのおしゃれなカフェか。気になってたし、行くか!」
宗介が立ち上がり荷物を持つ。将太もリュックを背負うと制服の埃を叩く。
そのカフェは学校から将太の家とのほぼ中間にある。
おしゃれな佇まいは、写真を思わず撮りたくなってしまう。流行りのアプリに投稿されていて、地元では有名な店。
「ショートケーキが美味いらしいよ。宗介リサーチによると」
スマホを器用に操る宗介がサイトを片っ端から閲覧し、おすすめを突き止める。
「研修行けばケーキなんか、食べられないだろうなぁ」
自転車に跨り将太は呟く。
山間部の深川林業は、コンビニに行くのも大変だろう。
プリンとか、甘い物は買い溜めしておこう。
将太達は、自転車でカフェへと向かう。
夕日が山にかかり始め、街灯が灯る田んぼ道を二人で走る。
「今日は、カッコ良かったよ。本物のヒーローだよな」
「たまたま、だよ」
たまたま、ロープが引っかかったとは言えない。
「白石は、頭も良くて運動も出来るのに、手先だけが不器用だよな」
宗介が少しにやけながら言う。そのギャップが可愛いらしく、想いを寄せる男子は多い。
「俺はどちらかと言うと、新島派だな」
自分の口から出た言葉に、将太自身が一番驚いた。
新島が好きだとか、付き合いたいとかは思っていない。ただ、綺麗だなとは思う。
「付き合っちゃえよ。新島さんも将太のこと気になってるらしいよ」
宗介はクラスや学校に独自の情報網を持っており、学校一の情報通。
「授業中も将太のことチラチラ見てるしなぁ」
「よく見てるなぁ宗介」
将太の後ろの席に座っている宗介にとっては、新島の視線がよく分かるらしい。
「後ろから見てたら分かるよ」
自慢気に話す宗介とも、研修でしばらく会えなくなる。
それからは、今日の更衣室覗きで得た情報をひたすら話す宗介の話を聞き流し、自転車で進む。
「ここだ。着いたよ」
宗介が自転車を止める。将太も自転車を止めると自転車を降りる。
宗介が先導しカフェに入る。
「いらっしゃい」
カウンターでマグカップを磨く女性店員が笑顔で言う。見た目通りのおしゃれな室内。
角の席に宗介と座りメニューを眺める。
「ショートケーキと何にする?」
「俺は、ミルクティー」
ミルクティー好きの宗介は、いつも自販機のミルクティーを休み時間に飲んでいる。
「お決まりですか?」
カウンターから水を持った店員がやって来る。
「ショートケーキ二つとミルクティーとオレンジジュースを一つずつでお願いします」
将太が注文をすると、店員はカウンターへと戻る。
「宗介は、希望通りで良かったな」
「マジで良かったよ。まぁ、将太の前でこんなこと言うのも、あれだけど」
気遣いはありがたいが、もうどうしようもないことだ。
「気にするなって」
作り笑顔で将太は水を飲む。
「まぁ、お互い頑張ろう。乾杯」
宗介がコップをコツンとぶつけて来た。宗介といると心が和む。いい友達を将太は見つけたと思っている。
「ただいま」
入り口のドアが開くと同時に聞き覚えのある声が聞こえて来る。
思わず振り向いた将太は、固まった。
「あれ?小野君と篠原君」
ドアの前にユニホーム姿の新島が立っていた。
「ここって新島の家だったんだ」
宗介は笑顔で言う。
まさかの出来事が起き過ぎる。
何だ今日は…。
朝の情報番組の占いによると、普通の一日になるはずだった。
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