放課後
発表後のお話。
感想お待ちしています。
発表後のざわつきもひと段落し、将太は、箒を持ちながら校庭を眺める。何もやる気にならない。
まさか、一番厳しいとの噂の深川林業とは。そして、希望通りではないのに加え、白石と一緒とは…。
何もかもが想定外だ。
「将太、元気だせよ。一番厳しいところで、結果出せば、将太の株価上昇間違いなしだぞ」
将太の肩を叩き、宗介が励ましてくれた。
だが、立ち直れる気がしない。
校庭掃除の新島を見つけると、再び意味もなく眺める。
スタイルいいよなぁ。
発表からぼんやりとすることが増えた。
「小野っち。ちりとりとって」
クラスメイトの小谷 健吾が箒でゴミをまとめてから言う。ロッカーからちりとりを取り出すと、床を滑らせる。
「サンキュー」
ちりとりを受け取った小谷が笑顔を見せる。小谷は確か希望通りの研修先になったはず。
このクラスで希望通りにならなかったのは、将太と白石と西園 玲奈だけだ。
「そう言えば、そのちゃん。どこ希望してたんだっけ?」
掃除中の西園に宗介が話しかける。宗介は、西園と仲が良く、そのちゃんと呼ぶ。
「農業希望したけど、造園業になったの」
少しにやけながら西園は答えた。
「ほら、将太の他に希望通りにならないのは、いるぞ」
そんなことは分かってるけど。
視線を西園から校庭に戻す。
電車が街を駆け抜け、国道を消防車が走り、何気ない日常が窓の外には広がっている。
「研修っていつからだっけ?」
「一週間後」
宗介の回答に大きな溜息が零れる。てっきり、庚申園芸になると思っていた将太は、会社の場所などを事前にリサーチしていた。
しかし、その努力は水の泡。山間部の深川林業のことは何も知らない。
将太の持つ深川林業の唯一の情報は、研修先で一番厳しいところと言うことだけ。
「早く掃除終わらせて、部活行くか帰れよ」
朝田が教室に顔を出す。
もし、将太が部活に所属していたら、今日は大きな怪我をしそうだ。サッカー部にでも所属していたら、足を折りそうだ。
今の将太にとっては、研修を休めるなら骨の一本くらい、骨折をしても構わない。
「なぁ、宗介。今日暇か?」
「暇だけど」
宗介の返事を聞き、校庭から視線を戻す。
「研修先で死ぬかもしれないから、やり残したことやってから、研修行こう。ちょっと手伝って」
「大袈裟なぁ。将太は、何がしたい?更衣室覗きか?それとも、誰かに告白か?」
宗介は本当に考えが少し幼稚と言うか、幼く一緒にいて面白い。
「更衣室覗きもそうだけど、もっといっぱいあるよ」
「とことん付き合うぞ」
宗介が笑顔で肩を組んでくる。
「まったく。男子は…」
会話を聞いていた西園が呟く。
「覗きのこと、先生に言うなよ」
宗介が人差し指を口元に近づける。
「はいはい。先生にも他の女子にも言いません。私は奥で着替えるので…。他の女子に覗きのこと言うと宗介達が覗けなくなって、他に変なことやり始めても困るし…」
西園は、男子のことを理解してくれているのか、それとも自分だけよければそれでいい、いわゆる自己中なのかは、分からない。
だが、覗けなくならずに済むのは男子にとっては大きなことだ。
覗きをしなことのない将太が、覗きを出来なくならないと知って、安堵するのは、おかしなことだけど。
「サンキュー。そのちゃん」
「はいはい」
呆れた西園が箒をロッカーに片付ける。
チャイムが清掃終了を告げると、校庭の新島も片付けを始めた。