6、
「初めて見たときからずっと、都築さんのことが好きでした」
「え・・・」
それは告白?
からかってるの?それとも、本気・・・・?
戸惑う私の目に映る栗栖川くんは、真剣だった。
だけど私はまだ信じられなくて、なにも考えられなかった。
「約束したのに、────“死ぬ気でやり遂げる”って」
彼がそう呟いた声も、耳に入ってこなかった。
「12年前、病院の屋上で話したの覚えてませんか?貴女が小学生の生意気なガキに説教したのを」
─────“12年前”。“病院”。
それは私が、ずっと蓋をしてきた樹との思い出。
初めて付き合った樹は、私が初めて好きになった人。同じ高校で同じクラスでごく自然に付き合うことになった。
そして───付き合い初めて二年目の秋。
突然樹が入院した。
────癌だった。
私は毎日のように病室に通った。
樹の姿が変わっていくのも、樹の病気が進行していくのも。
気づかないふりをして、いつもどおり笑ってた。
樹の癌は早期発見ではなかったから、完治はしないと言われていた。
彼を失なうかもしれないという恐ろしさに毎日怯え、家では何度も泣いた。誰にも気づかれないように声を殺して、何度も泣いた。
そして樹が目の前で息をひきとったあの瞬間。
樹のご両親がいる前で泣けない代わりに、病室を飛び出した。
一人になって泣くために、屋上に向かった。
そのときに、飛び降りようとする小学生に出会ったんだ。
樹は生きたくて。
必死に病気と闘って。
なのに神様は無情にも、あんなに頑張って生きようとした樹を天国に連れていってしまった。
それなのに、死にたいなんて。
自ら命を断つなんて絶対許せなくて。
つい、大人気なく感情を小学生にぶつけていた。
(思い、出した───・・・)
「ごめん、栗栖川くんがあの時の────」
「はい。百花お姉ちゃん」
そこまで言われて、ようやくあの時の男の子が栗栖川くんだったのだと確信が持てた。
「気持ちはありがたいけど、私は────」
「“鷹羽樹さんのことがまだ忘れられない”───ですか?」
彼は真っ直ぐ私を見つめていた。悲しそうに眉をひそめながら。
「どうして樹のこと──・・・」
「なぜ貴女が病院に通っていたのか、あの後すぐ知ったんです」
栗栖川くんはあの病院の息子だ。
調べようと思ったら出来るのかもしれない。
私が彼のことを話したのは、佐藤ちゃんにだけだ。
しかも酔いが回ったときに口を滑らせた、その一回だけ。
(樹のことを知ってる人が、いた。)
「忘られるわけ、ないでしょ・・・・」
そうこぼした私を、栗栖川くんが優しくそっと包み込んだ。離れないとと頭では分かってるのに────私は動けなかった。
この気持ちは何だろう。
嬉しいような────・・・・泣きたくなる気持ち。
「泣いても、いいんです」
栗栖川くんのその優しい囁きが、私の涙腺を刺激した。