5、
『俺が死んだら、忘れてくれていいからな』
『樹!なんでそんな事言うの?怒るよ?』
そんな酷いこと言わないでよ。
忘れないよ、ずっと忘れない。
私が好きなのは、ずっと樹だけだよ。
そう伝えたら、樹は困ったように笑った。
────ねぇ。
想いはずっと変わらないのに、
────日に日に樹が遠くなっていくの。
あれから12年が経って。
今じゃもう、樹の声が思い出せないの。
苦しいよ、樹。
私はどうしたらいいの?
「───いつ、き?」
ぼんやり目を開けながら、自分のすぐ横に人の気配を感じた。
夢の中と混同してた私は、隣にいるはずのない人の名前を呼んでいた。
(な、なんで・・・っ!?)
一気に眠気が吹っ飛んだ。ついでに二日酔いの頭からさぁぁぁっと血の気が引いていく。
「・・・あ、おはようございます」
私の隣で眠っていたのは、栗栖川くんだった。
どうして?
というか、ここどこ?
私の頭の中は、?で埋め尽くされる。
とりあえず自分の格好を振り返り見ると服は昨日のままだった。ちなみに寝起きである栗栖川くんは、なぜかスウェット姿だ。
「こ、ここって、」
「僕の部屋です」
「な、なぜ私はここに・・・・」
「だって昨日、都築さんが離してくれなかったから」
キングサイズほどの広々としたベッドから起き上がりながら、
栗栖川くんが淡々と答える。
「そ、そんなの嘘よ・・っ」
「はいすみません、それは嘘。」
冷蔵庫からお茶を取り出しながら、栗栖川くんがこちらに顔を向けて笑った。
───こんな天気の良い朝にお似合いな、爽やかな笑顔で。
眩しくて、つい顔をそらしてしまった。
「離さなかったのは、僕の方です」
私にお茶を差し出しながら、栗栖川くんが言った。
冗談にしてはタチが悪すぎでしょう。
こんなふうに年上の先輩をからかうなんて。
「帰るね」
ベッドの近くに置かれていたハンドバッグを手に取ると、私は玄関に向かおうとした。
その時。
「・・・待って!」
私の腕を掴んで引き留めた栗栖川くんと、視線がぶつかった。
「僕、都築さんのことが好きです」